本取り合戦――。
パンと手を叩く音がグレイの部屋に響き聞こえると、リアンがそのグレイの部屋の椅子に座りテーブルを挟んで目の前に座っているむくれ睨み付けているグレイにぐっと迫り指を立てて見せた。
「そういう訳だ。お前が囮で、俺が取に行く」
「ふざけんな!大体てめえのせいだろうが!てめえが囮になれ!」
「おいおい。それじゃ意味ないじゃないか。今クレアはお前と…」
といってグレイの隣にいた呆れているアルを指さした。
「アルに夢中だ」
グレイはゆっくりといやそうに顔をゆがめ、アルはため息をつくと立ち上り見下ろした。
「僕、関係ないので行きますね」
ががと二人が立ち去ろうとしたアルの腕と服をつかむ。
アルはぐいぐいと自分の服をつかみ引っ張ると呆れたため息をついた。
グレイはむっとしながら、リアンは申し訳ない笑みを浮かばせる。
「もうちょっと待ってくれ。それか手伝ってくれ」
「そうだ。お前親友を見捨てる気か?」
「……見捨てるも何も、そんな馬鹿みたいな事に僕を巻き込まないでよ。僕は、全然関係ないからさ」
「知るか。それともうこの事を聞いた時点でお前は俺達の協力者」
リアンはうんうんとうなずき、アルはさらに呆れた表情を浮かばせた。
それを―。
「あらん。面白いことになってるじゃなーい」
そう、クレアがにこにこしながらエンジンルームのケンの前の監視モニターで見ていた。
そこには、その三人のやり取りが映し出されていたのだ。
ケンはにこにこしながら、ソーシャは呆れた表情を浮かべてみていた。
「もうほんとだねー。あ、クレアちゃん。もしよかったらその本私にも見せてくれない?」
「駄目よ。預かり物なんだから。それと、どうしようかしらねー」
そう言って県から再びモニターへと視線を向ける。ソーシャは呆れたため息をつく。
「知らないわよ。後、見られてるってわかってるのかしら?リアンって確か、知ってたはずよね?」
「そうなのよねー。何か考えてるとか?」
ケンはうんうんとうなずいて答えた。
「確かにそうかもしれないねー。リアン君、ああ見えて結構切れる人だから」
「ええ。グレイとアルはどうかは知らないけど、まあの子たちもやる子だからね」
「って、クレア。アルは関係ないでしょ。見なさいよこれ」
と言って指差すと、嫌がるアルが二人から必死に離れようとしているのが分かった。
ケンはあららと声を出す。
「アル君も大変だねー」
ソーシャは呆れながらうなずき、クレアは苦笑しながらうなずいたがにこにこする。
「でも、そこがまたかわいいのよねー。で、結局いやいやながら協力しちゃうのよねー」
二人は同時にうなずいて答えて見せた。
ソーシャはクレアを見て指さす。
「クレア。アルは巻き込まれただけだから何もしないように。そこの馬鹿な変態二人は、どうにかしなさい」
「オッケー。わかったわ。じゃあ、行動してからこちらも合わせましょう」
二人はうなずいて答え、ケンはにやりとする。
「面白くなってきたねー」
「ひーめ」
その声を聴いて居住区の通路をスノウと共に歩いていたリノアが後ろを振り向き、手招きをしているクレアを振り向く。
「クレア。どうしたんだ?」
「ちょっといいかしら?手伝ってほしいの」
リノアは分かったとうなずくと、隣にいたスノウを振り向く。
「スノウ。悪いが」
「うん。いいよ。先に部屋に戻っておくから、何か用事があったら来てね」
「分かった」
そう言ってクレアの元へと向かうと、クレアが少しリノアと話し、スノウが見届ける中リノアと共にその場を離れた。
「見えないなー」
ケンがむっとしながら、ソーシャはじーとグレイたちが映ったモニター映像を何かを見ようとするように頭を動かし見続けていく。
『いいか、ここがクレアの部屋で、この通路を曲がれば俺の部屋に来る』
ソーシャがああと言って。
「逃げ道を教えてるみたいよ」
「みたいだけど、見えないからねー」
見ると、リアンが監視カメラの死角である場所に背を向けて指を動かしながら、呆れているアルと、ぐっと表情を引き締めているグレイに何かを教え伝えていた。
リアンの手元には文字だけが書かれた紙があった。
リアンはわざと手を動かし説明をしながら二人にその文字を読ませていた。
アルは更にその文字を読んで呆れながら、グレイはぴくぴくと眉を動かして見せた。
そこには、
『部屋には必ず、監視カメラが一部屋ずつついている。音を読み取るものと言ったやつもだ。これは全部ドクターケンが勝手につけて趣味で見て音を聞いている。俺達はもう慣れたから、どこに何があるのか、何を話したら駄目なのかが分かる』
そう書いてあった。
グレイはリアンの言葉に合わせ強くうなずき、アルは呆れながらうなずいて見せた。
リアンはよしと言って、紙をたたむとそれをポケットに直した。そしてグレイを振り向く。
「じゃあ、お前らは囮だ。俺はクレアの部屋に入ってその箱を取る。いいな?」
グレイはうなずき、アルは大きくため息をつくとリアンを見て手を上げた。
「僕やっぱり……」
「駄目だ」「駄目だ」
「……」
アルは大きく息を吐き出し、同じことを揃って言った二人を呆れ顔をしてみた。
そして――。
クレアがにこっとしながら、身を引いているグレイとアルを見おろし見た
。グレイはごくりと喉を鳴らし、アルは苦笑して見せた。
「その、クレアさんは、どうしてえと、いつこちらに…」
「そうねー。来たのは姫が来る半年前だから、一年半前。その前は施設で力仕事をしていたわね」
「まあ、その体系だと重宝されたよな…」
「何か言ったかしら?」
グレイはびくっと震えると首を振り、アルは呆れたため息をつく。
「クレアさんは、その、服と言ったものはその当時からですか?それともここに来てからですか?」
「えーと、本格的に始めたのは、ここに来てからね。お化粧とか」
アルは目をぱちくりとさせ、グレイはいやそうに顔をゆがませた。
「化粧?」
「ええ。私お化粧もできるのよ。それも評判なの。姫とか他の子たちにもお化粧をしたりするわよ」
「……」
グレイははあと呆れるような声を出してうなずき、アルは苦笑しながらうなずいて答えた。
クレアの部屋にて―。
その部屋は綺麗整頓に整理されている部屋だった。
部屋の真ん中に設置されたテーブルの上には一輪挿しの透明の花瓶が乗せられておりその中にガーベラの花が一輪入れられていた。
そしてベッドはグレイたちよりも大きくダブルベッドに等しいサイズであった。
そのベッドは乗せられている蒲団が丁寧に畳まれマットが立てかけられておかれ、本棚などはアルファベットのラベルが張られその順で本が整理され、服なども綺麗にたたむものはたたみ、予備の軍服はほこりが来ぬように丁寧に上から布をかぶせられそしてその中もしわ一つなくされていた。
そんなクレアの過ごす部屋の中でリノアがむくれながら、クレアの花柄の椅子カバーが背中部分にされ、クッションを置かれた椅子に座り待ち、それを隣で苦笑しながらスノウが同じような椅子に座って待っていた。
二人の背後にはあの本が入った箱が置かれていた。
スノウはえとと言ってリノアから視線を外し扉を見る。
「本当に、来るのかな…」
「知らん。そして、本当に最低最悪だ。本気で」
「…そう」
リノアはうんうんとうなずくと両腕を組み更にむくれて見せた。
それを―。
「むううう!」
ソーシャがもごもごしながら両手両足を縛られながらうめいていた。
そして見ると、ガラスケースの中に入れられていたのだ。(小さな空気穴付き)
ソーシャのそのソーシャの視線の先に、ケンと、リアンの背中が見えていた。
リアンはソーシャを見て申し訳なさそうに手を上げた。
「悪い。ソーシャ。少しだけだから」
「フィファン!ふぁんふぁふぁふょふぇふぉふぉふぇふぇふぉふぃふぁしゃい!フェンフォふぉ!(リアン!あんた後で覚えておきなさい!ケンもよ!)」
ケンはにこにこしながら耳に手を当てて見せた。
「あっれー?わっからないなー?なんていったの?」
「ふぉふぇふぇふふぁ!ふぉっふぉーふぇんふぁいふぉふぉー!(ふざけるな!こんのーへんたいどもー!)」
ソーシャはそう声を上げ、リアンはぺこりと頭を下げると前のモニターを振り向く。
「まさか、姫に頼むなんてな……。やりづらい」
「仕方ないでしょー。クレアちゃんの考えてることだもーん。さてさてどうしようかなー」
そう言って上を見上げうーんと考え始めた。
「へえ。じゃあグリアスト雑誌も読んでんのか」
グレイがにこにこしているクレアを見ながら感心していた。
アルはそれを呆れながら、クレアは手をおいでおいでと振って見せる。
「そうなのよー。髪型とか、ファッションとかその雑誌が一番参考になるもの」
「確かにそうだな。俺もそれ読んでるしな。あと、アクセとか結構いいデザインのが載ってんだよなー」
「そうそう。あ、それの二年分だけど私の部屋にあるわよ。ここに来てずっととってたの」
グレイはおっというと笑みを浮かばせ。
「じゃあ見せてくれ。俺見逃したやつあるからさ」
「オッケー。じゃあ行きましょう」
グレイはああと返事をし、アルは目をぱちくりとさせるが、少し戸惑いながら先へと行くクレアとグレイの後を追った。
「クレア…と、グレイ?」
リノアがわからないといった風に部屋へと入ってきたクレア、そしてその後ろから同じように部屋へと入ってきたグレイたちを見る。スノウは目をパチッとさせながらクレアについていくグレイを見た。グレイはとてもうれしそうについてきていた。グレイは一度二人を振り向いて手を上げて挨拶をするが。
「はいこれよ」
「あ、サンキュー」
すぐにクレアを振り向き箱に入った本を受け取った。
リノアはそれを見て戸惑い、スノウは首をかしげるが立ち上がると苦笑しているアルの元へと行く。
「ねえ。一体どうしたの?後あれ何の本?」
「…ファッション雑誌」
「え?」
リノアもまた目をぱちくりとさせるとむっと眉を寄せて首をかしげて見せた。
グレイは本が入っている箱を掲げて見せながらああと言って本の表紙をリノアに見せた。
「服とか、靴とか、髪型とかいろんなもんが載ってるやつ。それと、動物の形をしたアクセとかも、結構かっこいい奴とかあるし」
「…どれだ?」
リノアがとててと近づき、グレイは箱を悪いと言ってアルに持たせた後本をパラパラと広げそのページを見せてその場で話していく。
スノウもまた覗き見をし、アルははあと安堵の息を吐き出して見せた。
その様子を―。
むっと唇を尖らせたケンと、複雑そうにしているリアンが見ていた。
ソーシャは耳を傾け話し声を聞いた後にいとし二人を見た。
「ふゃふぁあふぃふぉ!ふぁんふぁふぁふぃふぉふぃふぉふぁふぇふぁふぁふぉ!ふぉふぉふぇんふぁいふぉふぉ!(ざまあみろ!あんた達だけ追い込まれたわよ!この変態ども!)」
ケンはむっとし、リアンはゆっくりと青ざめ汗を浮かばせ始めた。
ケンは端末を取り出すと操作し耳にあてた。
「ん?」
グレイがポケットに入れていた端末の音を聞いた。
そして、雑誌をリノアに渡すと、その端末を耳にあてた。
「なんだ変人?」
リノアはむっとし、アルは苦笑して見せた。
『ちょっとグレイ君。君何やってんの?』
「何って。今、雑誌見てるところだ。で、リノア達とさ、一緒に話してるところだけど?」
『……あの、えーと、わ、分かったけど。君の近くに本があるじゃない?』
グレイはむっと眉を寄せ首をかしげ、クレアはにこにこし始めた。
『ほらー。君が、欲しかった本だよほーん』
グレイは更に首をかしげると。
「グレイ」
「なんだクレア。おっ!」
グレイはそう声を上げ明るい笑みを浮かばせるとクレアの持っていた雑誌を目にした。
「それ!半年前に販売されたクリアラインスの初回限定本じゃねえか!クレア持ってたのか!」
『って、ちょ!ちょっとグレイ君!』
「あ、変人悪い。またあとでかけ直す」
そう言ってピッと消るとクレアの持っていた本を受け取りその場で読み始めた。
リノアは先程の会話を音漏れしたその声を聴いて冷やかに笑んでいた。
スノウはそれを見て引きつった笑みを浮かばせながら身を引いて見せる。
リノアはそのスノウにファッション雑誌を渡すとクレアを見てすっと小さく監視カメラに見えないように指を横へと指示した。
クレアは小さくうなずいて答える。
「グレイ」
「なんだ?」
「グレイの本どうする?ここにあるわよ」
グレイは「あっ」と声を出すと、うーんとうなりながら今見ている雑誌を目にした。
そして、クレアを見てにこにこする。
「こっちの方が貴重だしまだ他にも見たいから。ま、しばらくいいや」
クレアはうんうんとうなずき、アルは手で顔を覆いため息をついて見せたが、再び安堵の息を吐き出して見せた。
「じゃあ、グレイ」
「ん?」
「それ見せてあげるから、今リアンはどこにいるかしら?」
グレイは目をぱちくりとさせ、リアンはひくっと口を引きつって見せた。
『知らねえぞ。な、アル』
『う、うん…。えと、それより、その…』
『あ、いいわよ。リアンから説明は受けてたんでしょ?全部屋に監視カメラと盗聴器がつけられてるって』
グレイはむっとむくれ、アルはため息をつくとうなずいて答える。
リノアはいらだち舌打ちをするとグレイを睨み付けた。
「グレイ」
グレイははあと息を吐き出すとリノアを振り向き。
「分かった。悪かった。それとお前どうする?」
「え?」
「いや、お前が持ってる雑誌だよ。今見てるやつを選ぶのか?」
「……」
リノアは苦笑しているスノウの手から雑誌をとると、グレイに近づきぼそぼそと話を始めていく。
クレアはうんうんとうなずくとグレイの肩に手を乗せた。
「じゃあ、ちょっと私今から用事があるから。後でまたここに来るわね。それと、私に話かければ、私が忙しくない時にいつでも見せてあげるわ」
「お。本当か?」
「ええ。他にもまだたくさん持ってるから」
「分かった。じゃあ見たい時に話すな」
クレアはうんうんとうなずくとじゃあと言って手を上げてその部屋を出ていった。
エンジンルーム――。
「何をやっているんですか。リアン…」
そう、サイモンがはあと呆れたため息をついて、正座をしてうつむいているリアンを見下ろした。
そしてその後ろ側では―。
「ふぁーふぁー、ふぉふぇっふぇふゅっふぁふぇふゅー(はああー。これって疲れるー)」
と、ケンがあのソーシャが入っていたガラスケースに手足を縛られ口をふさがれた状態で前へと身をかがめ正座をしていた。
ソーシャはそのガラスケースの中でふんと言ってガンと蹴って見せた。
クレアはにこにこしながら見降ろした。
リアンは大きく息を吐き出す。
「若気の至りってやつだよ。ていうかあいつら裏切りやがって」
サイモンはため息をし。
「裏切りやがってじゃないです。それに元は君が先に声をかけて計画を立てたのでしょう?」
「……」
「今回の事は艦長には言いません。ですので、十分に反省をされてください」
「……」
ケンがもごもごとしながら。
「ふぁんふぇん(ざんねん)」
といってふぁーと息を吐き出した。
その頃――。
「女でもこういったのは着れるぞ」
「む。確かにそうだな」
グレイとリノアが同じ本を手で持ち見ていた。
スノウとアルもまた同じファッション雑誌を、アクセサリーの場所を楽しげに見ているのが分かった。
グレイは雑誌のアクセサリーの一つ、フェレットの形をかたどったブレスレットを指さす。
「狐の形をした奴が埋め込まれたブレスレット」
「かっこいいが、少しごつくないか?大きさとか」
「いや細いのもあるぞこれ」
「あ、本当だ」
その場にいた者達は楽しげに、エンジンルームにいた二人は落ち込み呻きながら互いの相手から説教を食らい続けた。
Fin.――