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カクセイスルセカイ(崖の上から)

「いやー、昨日はかなりやり込みましたねー」

「……ゲームをな」

「かなりハイパーなオリンピックでしたね」

 とある日の放課後。待木は部室で漫画を読みながらへらへらと笑っていた。まだ俺たち二人以外には誰も来ていない。来るかどうかも分からない。

「なあ、そんなんでいいのかよ。文化祭は終わったけどさ、なんかあったら今度こそ部室を取られるかもしれないし、部活だってどうなるか分かんなくなるんだぞ」

「あー、なんだ」

 待木は本を閉じて、俺に向き直る。

「センパイは結構、この部活を気に入ってるんですね」

「お前は違うって言うのか」

「分かりませんか。私はもうクリアしてるんですよ」

「……クリア?」

 そう。

 そう言うと、待木は帰り支度を始めた。

「待てよ。お前だって最近はやる気だったじゃねえか」

「そう見えましたか」

「クリアってなんだよっ」

「ゲームオーバーってやつですよ」

 駄目だ。まるで意味が分からん。宇宙人とでも話しているような、得体の知れない感覚が気持ち悪くてしようがない。

「先が見えたし、もう遅いかなって」

「お前……古本市の時もそうだったよな。言いたいことがあるなら言えばいいじゃねえか」

「言ってたんですよ。私は。それを分かってくれなんて言いたくもない」

 言ってなかった。そんなこと、俺は知らねえんだ。

「『私と付き合ってください』」

「……は?」

「私がそう言ったらどうします? でも、答えは聞きたくないんです。分かっているから嫌なんです。あなたを待つことにうんざりしたんです。ねえ、センパイ。惰性ですよ。大人になっても子供のころから読み続けている漫画を断ち切れない。私にとっては、この部活はそんなものなんですよ」

 待木は鞄を持って立ち上がる。俺は座ったままで彼女を見上げた。

「意味が分からねえよ。待木、お前は何をどうしたいんだ」

「明日もこの部が残っているなら、私は部室に来るでしょう。廃部になったら来ないんでしょうね。そんなものなんです。どっちでもいいんですよ、もう」

「だからっ」

 俺は立ち上がって待木の肩を掴もうとしたが、その手を叩かれる。

「ゲームの主人公にでもなったつもりですか」

「お前」

「万能感に浸るのはやめてください。温度差があるのが分からないんですか。熱血ぶったって駄目なんですよ」

 ゾッとした。待木は俺の方を見ているが、微妙に違う。俺を見ているようで見ていない。いや、何も見ていないのかもしれなかった。

「選択肢でも見えてました? フラグ管理をきっちりやってたつもりでした? 回収し忘れたイベントは? ……今更、何を頑張ろうとしているんですか。そうやってそれっぽいことを言えば私が靡くとでも思ったんですか。どうでもいいしなんだっていいしどっちでもいいんです。更に言えば、お互いが誰でもよかったんでしょうね」

「……日本語で話してくれよ。頼むから」

「センパイにとって、この部室にいたのが待木宵じゃなくてもよかった。私にとって、部活に来てくれたのが石高禄助じゃなくてもよかった。つまり、そういうことなんでしょう?」

「アホっ、勝手にキレて、勝手に不機嫌になってんじゃねえよ!」

 怒ってんなら怒ってるって言えばいいだけの話じゃねえか。

「どうしたいのか言えよ。言ってくれ」

「私はセンパイの前から消えてなくなりませんし、急にいなくなったりもしません。明日も明後日も、普通に出会って普通にさようならって言いますよ。休日、どこかで一緒に遊ぶかもしれません。ただ、私はセンパイにとって都合のいいヒロインじゃあなくなります。ルートから外れた。それだけのことなんですよ」

 俺は何も言い返せなかった。頭に来てたってのもあるけど、それ以上に呆れていた。こいつのアホさ加減に。

「それじゃあセンパイ、また明日」

 待木は部室から出て行く。俺は床の上に座り込んで長い息を吐き出した。待木が色んな意味でキレた理由は分からないが、あいつが俺にキレてたのは分かった。



 あの日、あの屋上で、俺は結局誰も選べなかった。

 俺はただ待木の目を見て必死に助けを求めてただけだった。そうして文化祭が終わって、もう数日が経つ。どんな取り決めをしていたのかは知らないが、俺と待木以外に、部室に顔を出すやつはいなかった。



 更に数日、今度は待木も来なくなった。嘘ついてんじゃねえよ。お前、部室が残ってたら部活動に参加するって言ってたじゃねえかよ。……って、俺はあいつを責められるほどえらくないんだ。

 こうして一人、部室にぽつんとしていると、何か間違ったんじゃないかって気分になってくる。心当たりはある。だけどどうしようもない。だってそうじゃねえか。時間は前にしか進まないんだ。後ろへは戻らない。やり直せたらって、そんなこと世界中の人間が思ってる。でも無理なんだ。

 俺は俺だ。俺以外の何者でもない。俺の人生は一度きり。セーブもロードもリセットも出来ない。

「ああ、そうか……」

 悟った。

 嫌でも分かった。

 終わりなんだ。待木の言葉を借りるんなら、俺は選択肢をミスったんだろう。フラグを立て忘れたんだろう。ああ、とにかく、失敗したんだ。そうに違いない。ああ、くそう。つまんねえ。クソ面白くもねえ。

 ああ、ちくしょう。助けてくれ。誰か助けてくれよ。誰か……。

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