ノリコエルセカイ(玉砕)
「だから言っただろう」と彼女は言った。
俺が反論すると、彼女は諦めたように――――実際諦めていたのだろうが――――目を瞑った。
「こうなると分かっていたんだ」と彼女は言った。
俺が否定すると、彼女は眉根を寄せた。
「じゃあ、お前はこうなると分かっていなかったのか?」
あなたは教師だ。予言者じゃない。
俺はただの学生だ。予知能力なんか持っていない。
教師と学生が好き合っていけない決まりなど、あるのか。あるのかよ、ちくしょう。
文化祭は終わった。
雨が降ってて、暗くて、冷たかったあの日の屋上で、俺は先生を選んだ。
俺と瑞沢先生は付き合うことになる前に別れた。男と女の関係になる前に。……いや、そもそも別れるもクソもなかった。何もない、何も始まらないまま物理的に離されることとなった。
『誰か』が俺たちのことをチクったんだ。そうして、学校が、社会が、俺たちを許さなかった。俺は許せなかった。俺たちを許さなかった『誰か』ってのを。
だけど、先生は何も抵抗しなかった。大っぴらにされなかったのをよしとしたのか、彼女は常から考えられないくらいに大人しかった。ただ粛々と学校を去る準備を進めていた。俺は何度も止めようとした。先生は取り合ってくれなかった。
俺は、俺が子供であることを知っていた。喚くしか出来ない、無力なやつだってことも。だけど、他に、他にどうすりゃあよかったってんだ。
「先生」
「ん、どうした」
「先生は俺のこと、好きでしたか」
「どうだろうな。今となっては分からん。だが、やはり私とお前は、教師と生徒だ。どうあったとして、最初からこうなるように決まっていたのかもしれんな」
そうですか。俺はそう言った。先生はそうだ、と、それだけ言った。それが先生と交した最後の言葉となった。彼女がどこに行ったのか、教師を続けているのか、何一つとして分からないし、彼女の行く先を誰にも聞こうと思わなかった。
目の前には壁があった。高くて、分厚い壁が。
俺は今、その壁をじっと見上げている。上ろうとも、砕こうとも思わない。ただ見ているだけだ。この先もずっと見ているだけなのだろう。




