カクセイスルセカイ(それでもボクは待ってない)
「速攻で生徒会に直談判しましょう」
「お、おう」
俺は部室(仮)のソファで寝そべりながら漫画を読んでいた。待木も同じようにしていたが、彼女は急に立ち上がってそんなことを宣言した。
生徒会の襲撃から一週間。俺たちは雨が降るからやる気が出ないと、何もかもを梅雨のせいにして現実を忘れようとしていたが、待木は一足先に夢から覚めたらしい。しかし俺は今だ夢心地である。というか漫画に夢中だ。
「やる気だなあ」
「むしろセンパイこそありえないですよ。こんなに居心地のいい場所を奪われてしまうんですよ?」
確かに居心地はいい。しかし唯一無二の場所ではない。原先輩に喧嘩売るような真似は避けたいのだ。
「今、センパイは『俺には自分の部屋があるしなあ』とか思っているでしょう。しかしですよ。センパイの部屋には私という結構可愛くて胸の大きい敬語を使う後輩がいないんです」
「……お前って時々すげえ自信家になるよな。ふざけんな。俺を舐めるなよ。確かに俺の部屋には待木宵という女はいない。だけどな、いてもいなくても関係ねえんだ。何故か? 触れないからだ。触れられないなら、それは存在しないも同然なんだ。仮に石高禄助という人間の前に待木宵と言う者がいるとするのなら、存在しているかどうかを確かめさせて欲しいなあと思う気持ちは嘘ではない。嘘ではないとするのなら」
「何を言いたいんですか」
俺は待木の胸部を見つめた。彼女は察したらしく、溜め息を吐きだした。
「情けない。男ならもっとしゃんと、はっきりと物を言ったらどうですか。遠回しにおっぱいが触りたいなんて言っちゃって恥ずかしくないんですか」
「分かった。触らせろ」
「やだ、男らしい……。けど断固拒否します。センパイに触られたら頭がどうにかなっちゃいますからね」
「んだよそれっ、言った意味ねえじゃんか! もういい! つーか最初からお前の胸になんか興味ねーし! おっぱいとか脂肪の塊じゃん。つまり贅肉じゃん。お前と言う人間の弛みとかぐだりとか、駄目な部分が詰め込まれてるわけじゃん。そんなんに触っちまったらクズが伝染する。一刻も早く隔離されるべきだ。おっぱいアパルトヘイトされるべきだ」
「く、そう言われると悔しいですね」
待木はソファで寝そべる俺の傍へと駆け寄った。揺れる。揺れる。何がとは決して言うまいが。
「ほうら、触ってみてもいいんですよ」
「うるせえんだよ近づくな。絶対触らん。それよりそこに立たれるとテレビが見えない。邪魔だから退け」
「なっ……! 近くに三次元のBreastがあるんですよ? 今なら触っても何のペナルティもないとサービスしてあげてるんですよ?」
自分の手で胸を寄せて上げたり揉みまくる待木。俺は泣きそうになった。なんて情けないんだこいつは。
「無視しないでくださいっ。死ぬまで女の子と付き合えないセンパイには垂涎物のおっぱいでしょうが!」
「触るな、触るな」
「触って! 触ってみてくださいよっ。オラっ、触れや石高! かっこつけって賢者気取ってんじゃあないですよ!」
「何をやっているんですか、お二人は」
俺は邪魔物から視線を逸らして、身体を起き上がらせる。いつの間に入ってきたのだろうか。生徒会長の原先輩がいた。めっちゃ呆れていらっしゃる。
「……石高くん。こ、この間のことは勘違いだと言いましたよね」
「ええ、その通りです。俺は何もしちゃいません。こいつが勝手に暴れてるだけです」
「邪魔しないでくださいよ会長。今、私の女としての魅力が試されているんです。あなたになら分かるはずです。違いますか?」
「全く分かりません。……遊んでいていいんですか。この一週間、あなたたちを生徒会室で待っていましたが、待てど暮らせど何も起こりませんでした。少し様子を見に来たらこれです。失望しました」
もっと強い口調で!
「石高くんは、もっといい人と言うか、まっすぐな人だと思っていたんです。叩いたことも反省していました。本当はもっと早くに謝るつもりだったのに。なのに……!」
原先輩は俺を強く見据えつけた。身体が痺れそうになった。
「先輩」
「なんですか」
「あなたはやっぱりいい人だ。そして先輩。俺はあなたの期待を裏切るつもりはありません」
「き、期待なんてしていません」
「明日、生徒会室で待っててください。もっとまともな部員を連れてきますよ」
「……その言葉、嘘ではないと信じてみます」
俺は大きく頷いた。先輩が帰った後、俺はソファに深く身体を沈めた。そして天を仰いだ。助けて。
「かっこつけるからこうなるんですよ。はあ、センパイって本当にどうしようもないくらいかっこつけですね」
嘘から出た実と言う言葉もあるらしい。こうなったらやるしかない。
翌日。俺はクラスメートや知り合いに、手あたり次第に声を掛けまくった。
『あ? ヤに決まってじゃん』
『もう部活入ってるし……』
『つーかお前金返せって』
『なんで私があんたと付き合わなきゃいけないの? ウザい。寄んな。しつこいって』
断ったやつら全員ぶちのめしてやる。
と言うわけで結果はなしのつぶてであった。しかし、俺は駄目でも待木がいる。あいつは部長なんだしそりゃあシャカリキに頑張っているに違いない。俺は一足先に部室でごろりと果報を待つことにしよう。
そう思って部室に行ったが、既に鍵が開いていてめちゃめちゃ嫌な予感がした。そろりと中を覗くと、スナック菓子を食いながらロボットもののアニメを見ている待木がいた。
「おいっ、何をサボってんだ!」
「あ、センパイ。いやあ、やっぱバリってますよねー。分かりやすすぎて面白……どうしたんですか? この世の終わりが明日に迫っているような顔をしていますね」
「明日じゃなくて今日なんだよ! 先輩に見栄張っちゃったんだよ! どうしたらいいんだ!」
待木はアニメを一時停止して、こんと可愛らしい咳払いをした。
「落ち着いてください。私もただここでこうやってアニメを見ていた訳じゃないんです」
「もしかして、部員を」
「いいえ! 全く集めていません。それどころか勧誘すらしていません。だってそうじゃないですか。私がオタク趣味だと知っているのは一部の人だけですし、これから先、周知していくつもりもないんです。しかも今日の時点で困るのは石高センパイだけで、私にはまだ一か月以上も猶予が残されているんですよ。今日出来ることは今日やりませんし明日にだってやりませんし明後日になったらやらなきゃいけないこと自体を忘れていることでしょう」
こんなクズに友達なんか出来ないな。こんな弩クズと楽しくやれるやつなんか、めっちゃ心の広い天使か、同じような悪魔だけだ。
「くそ、まだ時間はある。俺は部員を勧誘しに行くからな」
「えー? 無駄ですって。ここで私とゲームしましょうよ。だいたいですよ、頑張ったってあの生徒会長が石高センパイに何をしてくれるって言うんですか? 部員を集めたら付き合ってくれるんですか? おっぱいをいっぱい触らせてくれるって言うんですか?」
あ、悪魔め。俺は先輩に何かしてもらいたいから頑張るんじゃない。もちろん下心はあるが、そんなものは二の次だ。俺はただ、原先輩に誤解されたままでは嫌なんだ。石高=クズという方程式は間違いなのだと声を大にして言いたいだけなんだ。
「無駄です。きっと徒労に終わります。何故なら私はセンパイがいろんな人に声を掛けていたのを見ていたからです。そして全く相手にされなかったのを知っています。付け加えるなら、石高センパイにはもう心当たりがないはずです。センパイはガチの他人に声を掛けるほどのメンタルを持ち合わせていません。手詰まりです」
黙れ。そこで待っていろ。すぐに部員を連れてきてやるぜ。
校内をさまようこと十数分。俺は諦めた。無理なものは無理なのだ。食堂前の自販機でジュースを買い、ベンチに腰掛けて生徒会室らしき教室の窓を眺める。ああ、あそこで原先輩は俺を待っているんだろうなあ。俺みたいなやつの為に時間を無駄に潰しているんだろうなあ。
「たまらねえぜ」
グビーッと缶ジュースを呷る。もう帰って寝よう。
「見つけたぞ石高禄助っ」ん?
なんか、ちっちゃくて薄いやつがいた。パーカーを着ているが、こいつはここの生徒なんだろうか。
「ぼ、ボクのことを忘れてる顔をしてる。ボクだよ、宝野遥だ」
「あ。あー、うん。覚えてる覚えてる」
タカノハルカ。思い出したぞ。所構わず勝負を仕掛けてくる変なやつだった。急いで立ち去ろう。
「それじゃあ俺は用事があるので」
「待ってよ。ボクは約束を守ったよ。ミズサワというウォーリアーに挑んだんだ。そして負けた。いや、負けじゃない」
一人でぶつぶつ言い始めたぞこいつ。
「だから勝負だ」
馬鹿じゃねえのと一蹴したかったが、俺はこいつに中学時代を知られていると言う弱みを握られている。暗黒期ともいうべき中学時代は他人に知られてはならない。ほどほどに相手をしてやらねば。
「じゃあ、じゃんけんで」
「待ってください石高センパイ」
「おわあどこから出てきたんだ!?」
俺と宝野は、自販機の影から現れた待木から距離を取る。彼女はふふんと笑っていた。
「じゃんけんで決着をつけるには温過ぎます。いいですか。ここは部員獲得のチャンスですよ。そこのボクっ子をメディアクリエイトアルティメット部に入部させるんです。さもなくば、センパイが中学の陸上部にいた時、佐藤と言う上級生に惚れたのに全く上手く行かなかったことをあの生徒会長たちにバラします」
「おっ、お前! お前ェ! なんでそれを知ってんだ!?」
詰め寄るが、待木は俺の腕をひらりと躱す。クソ。こいつらの口を塞ぐ必要がある。
「……分かったから、宝野と勝負するから。だから、それだけは言うな。黙っといてください」
「よござんす」
俺は宝野を見遣った。彼女は不思議そうに小首を傾げていたが、俺と勝負が出来るということに気づいて、ちょっと嬉しそうにしていた。どうしてこいつが俺に突っかかって来るのかは分からない。だが、逃げられない。俺は勝負を受けるしかない。
「感無量だよ。ボクは、君を追いかけてこの学校に来たんだ。やっと報われる。さあ、勝負だ。ボクと君の勝負だよ。もちろん……」
「もちろん、ゲームで勝負ですね」
「……さっきから、この人はどうしてボクと君の間に割り込んでくるんだい。二人が出会ったのなら勝負の内容は決まっているじゃないか」
「かけっこで、ですか?」
「そうだ」と宝野は頷く。
しかし待木は首を振った。
「認められませんね。宝野さん。石高センパイは確かに昔はすごかったのでしょう。きっと、とてもかけっこが得意だったのでしょう。しかしですね、今の石高センパイには体力がありません。今から『よし走れ』と言ったところで五十メートルだってまともには走られませんよ。何故ならこの人は自堕落な生活を甘受していたからです。アニメのDVDを買い続けるマラソンは得意でも、普通のマラソンなら十分と持ちません。フェアではないのです」
酷い言いぐさだがその通り。俺の全盛期はとうに過ぎ去っている。しかも宝野は今も鍛えているはずだ。じっと舐め回すように観察してみたが、こいつは出来る。しなやかな、肉食獣のような体つきをしている。走ることに特化した肉体を有している。そんなやつと並んでヨーイドンしたところで結果は火を見るより明らかだ。
「じゃあ、どうすれば……」
「要は速さで石高センパイに勝ちたいのでしょう。ならば、これです」
待木はポケットから封の切られていないトランプを取り出した。
スピード。
トランプを使ったゲームだ。誤魔化しと言うか、そんなもんで宝野が納得するわけがないとも思ったが、彼女は意外や意外、普通に了承した。それでいいのか宝野遥。
「うわあ、すごい部屋だね。これって、ナードってやつだ」
「失敬な。OTAKUと呼んでください」
部室に戻った俺たち三人はテーブルの上のものを片づけて、スピード勝負の準備を始めた。不正がないようにと、待木は新しいトランプを開けてジョーカーを取り除く。五十二枚のトランプを手際よくシャッフルして、一枚ずつ俺と宝野に配り始めた。
「では、ルールの確認をしますよ。あなたたちプレイヤーは四枚のカードを場に置きます。残りは裏にしたまま手札として持っていてください。今回は『スピード』という掛け声と共にゲームをスタートします」
俺は手札を適当にシャッフルしながら、宝野の様子を窺った。彼女は真剣な面持ちでトランプをねめつけている。
「なあ。俺を追っかけて来たとか言ってたな」
「うん。ボクはつい最近までステイツにいたんだ」
「そうか。アメリカから日本くんだりまでトランプしに来たんだな、お前は」
「違うっ。ボクは君と勝負しに来たんだ!」
おーおー怒ってる怒ってる。……正直、俺にとっては宝野も待木も敵だ。鬱陶しい存在でしかない。しかしどちらも俺の弱味を握っている。ならばどうするか。御しやすい方を落とすのだ。もちろん、やりやすいのは抑揚のないボディと雰囲気の宝野である。彼女は冷静そうに見えて案外直情的だ。一方、待木は無理だ。こいつをどうにかするのは不可能に近い。彼女のご機嫌を取るくらいしか、俺の生きる道は残されていない。
宝野を図画工作部に入れる。
その為には、もっと宝野を煽って怒らせて冷静さを失くさせる。
「お二人とも、ちゃんとルールは聞いてくださいよ」
「それくらい知ってるって。なあ?」
「うん。早さ重視のゲームならボクの得意分野だ。絶対に負けない」
「そうですか。ではルール説明は省きますね。お二人の好きなタイミングで始めてください」
俺と宝野の視線が交わった。彼女は頷き、俺も答える。スピードと、声を揃えてゲームの始まりを告げた。
スペードの七。ダイヤの六。場の札は二枚。俺は出せない。宝野はにやりと笑った。まずい。調子付かせては不利になる。
「待て宝野。俺はお前のことが欲しい」
ぴくりと、宝野は動きを止めた。
「ふ、ふ……何を言い出すのかと思えば」
「いいのか? お前はこんなトランプで俺との決着をつけてもいいのか? もっとちゃんと納得出来る勝負がしたいんじゃなかったのか?」
「それと、ボクのことが欲しいってのはよく分からないな。無駄だよ。ボクを戸惑わせようとしたって」
「お前が必要なんだ。こんな勝負は無効にして、そこにいる待木とかいうクズは無視して、俺たち二人だけで勝負してケリをつけよう」
俺は手札をテーブルの上に置いて立ち上がり、宝野にずいと詰め寄った。彼女は少し後ずさりする。
「何をしてるんだよ」
「一目惚れだ。宝野。お前のこと、俺、すげえ好き」
宝野はじっと俺の目を見てくる。
「……少し嬉しいことを言ってくれたね。ボクだってそうさ。初めて君の走っている姿を見た時、好きになった。だからこそ、ボクは君を追いかけた」
「両想いなら問題ねえだろ」
「正気かい? ボクは」
「目ぇ瞑れ」
「あ、やっ……」
俺は宝野の肩に手を置いた。彼女は目を瞑る。なんかちょっと子犬みたいに震えていた。俺は振り返る。待木はぐっと親指を立てた。
「勝負はまだ終わっちゃいないぜ!」
テーブルに置いていた手札を引っ掴み、俺はカードを次々と出していく。
「え? ……あっ、ああ! 汚いっ! ボクの気持ちを弄んだなっ。というかインチキじゃないか、審判!」
待木は首を振る。
「彼はカードを出せなかったはずだよっ」
「いえ、石高センパイはジョーカーを使ったので」
「ジョーカー? Why!?」
「ローカルルールです。この部室ではジョーカーを全ての数字の代わりとして使えるのです。説明は省いてしまいましたが」
「ジョーカーは最初に取り除いたはずじゃないか」
「それは恐らく宝野さんの見間違いでしょう」
「それにしたって変じゃないか! だったらなんでもっと早くジョーカーを使わなかったんだよっ。……あっ、そ、そうか! ボクが目を瞑ってる時に手札を入れ替えたんだな!」
馬鹿が。もう遅い。お前が飛び込んできたのは蜘蛛の巣だ。待木と言う性格の根腐れした女の城である。その時点でお前は負けていたんだ。
俺は最後に残った手札を出して、ガッツポーズを作る。窓を開けて勝利の雄叫びを放った。
宝野はがっくりとしていた。ソファの上で三角座りをして、何か、ぶつぶつと呟いていた。流石に悪い気がする。
「やりましたねセンパイ。まずは一人、部員をゲットだぜ、です」
「お前には心がないのか」
「センパイだって口プレイで揺さぶってたじゃないですか。……しかし、アレですね。センパイの手札を少なくして配った甲斐もあるというものです」
えっ、そうだったのか。
「真相は神のみぞ知るといったところですが」邪神め。
「さあ宝野さん。あなたは今日からウルトラメディアクリエイト部アナザーコードの一員です。さっさと入部届けに名前を書いてくださいね」
「卑怯だ。ボクは負けを認めない」
「負けは負けですよ。確かに私たちはちょっとだけずるかったかもしれませんが、イカサマを見抜けなかった方にも非があります。だいたい、キス待ち顔晒しといてその言いぐさはないでしょうに」
宝野は泣きそうな顔になった。待木。どこまでこいつを追い詰めれば気が済むんだ。
「そんな顔しないでください。いいですか。入部すれば前よりもっと石高センパイに近づけるんです。リベンジのチャンスだって訪れますよ。何なら私がセッティングしてあげても構いません。私はあなたを応援しますよ。そう、だって、夢を見る人が私は好きなんですから」
宝野は嬉しそうな顔になった。こいつ駄目だ。近い将来詐欺にでも遭いそう。
俺と待木は、部員となった宝野を連れて生徒会室に向かった。これで原先輩との約束を果たせると、俺は安堵の息を吐き出す。
「失礼します」と、待木はノックしてから生徒会室の扉をがらりと開けた。
「ああ、あなたたちですか」
原先輩が答える。彼女は一番奥の机で書き物をしていたが、手を止めてこちらに向き直った。
部屋の中は狭かった。背の高い棚が多いのだ。だからか、余計に息苦しさを感じる。何が入っているのか、段ボール箱は床に敷き詰められていて移動するのに邪魔そうだった。
「……そちらの方は」
原先輩は宝野の姿を認める。少し、驚いた風にも見えた。
「最近転校してきた、二年の宝野さんですね」
「はい。そして、我がウルトラメディアクリエイト部アナザーコードの一員でもあります」
「なるほど」と、原先輩は引き出しを開けて書類を取り出し、そこに何かを記入し始めた。
「図画工作部はこれで部員が三人、と」
待木はきひひと笑い、宝野の表情が暗いものになった。
「どうですか。あと二人集めれば文句ありませんよね」
「最初から文句を言うつもりはなかったんですが。……それよりも石高くん。約束を守ってくれたんですね。ちょっとだけ見直しました。なんて、ごめんなさい。上から目線でしたね」
「とんでもない。もっと上からでも構いません。俺はただ、やるべきことを……いえ、当たり前のことを普通にやっただけですから」
「あと二人。この時期に部員を集めるのは大変でしょうけれど、頑張ってください。応援してます」
「ありがとうございます!」
頭を下げた状態で、ちらりと横を見遣る。待木はクッソつまらなさそうな顔をしていた。
「今日はここらでお開きにしましょうか。それではセンパイ方、また明日」
なんか、待木の機嫌が悪かったような。折角新しい部員が入ったってのに。何が不満なんだろう。
待木は一人ですたすたと歩いて行ってしまった。俺は宝野の様子を見遣り、何か変なことを言われる前に帰ろうとして駆け出した。その音に反応したのか、彼女は俺を追いかけてくる。
「犬かお前は」
「つい反応しちゃうんだよ」
やっぱ犬じゃねえか。
「待ってよ、ねえっ」
俺は階段を三段飛ばしで駆け下りる。昇降口について靴を履き替える。宝野はぴったりと俺をマークしていた。
「やっぱりまだ走れるんじゃないか」
「ついてくんなよ」
「嫌だ。ボクはずっと君の背中を見ていたんだ。なのに、もうすぐ傍に君がいる。君に触れられる距離にいる。諦められるわけないじゃないか」
……アレか。宝野ってマジで俺のことが好きなんだろうか。いや、そうに決まってる。つーかこれで君のことなんかなんとも思っていないなんて言うわけない。こいつは待木に比べれば悲しくなるほど貧相だが、それでも俺に好意を持っているのだから嫌いになれるわけがない。ぶっちゃけ可愛い。
「な、なあ、あのさ。もしかして、俺のことが好きなのか」
「ボク? うん、もちろんじゃないか。ボクは君のことを尊敬しているし、仲良くなれればいいなとも思っているよ」
石高禄助、割とあっさり人生と言う名のゲームをクリアしました。
「分かった。ありがとうっ。付き合おう!」
「……付き合うってどこに?」
一昔前に使い古されたクソみたいなジョークも今なら許せてしまいそうだ。
「俺と、どこまでもだ」
宝野は口をぽけっと開けてじっと俺を見つめていた。我に返ったであろう彼女は力いっぱい頷いた。
「ボクは今日と言う日をずっと待ってたんだ。きっと、生まれた時から。いや、生まれる前からずっと。石高禄助、ボクは」
「禄助でいい。今日から下の名前で呼んでくれ」
「ああっ、ロクスケ!」
駆け寄ってきた宝野を抱き締める。あーーーーやわらけーーーー。ほっそいくせに、女の子ってどうしてこんなにもふわふわしてるんだろう。めっちゃいい匂いするし。
間違いない。俺は今幸せの絶頂期にある!




