カクセイスルセカイ(Hな少年の悲劇)
「センパイ。今日はキングオブなやつの2001年版をやりましょう」
「おっ、いいね」
「じゃあ私、フェンシングのお姉さん使いますんで」
「きたねえなお前」
待木宵。
一年生。女子。部長。巨乳。チビ。黒髪。前髪ぱっつん。口が悪い。ガチ勢。……俺がウルトラメディアクリエイト部に入ってから三日が経った。その間、俺は足しげく部室に通い、待木と格ゲーをしたり、アニメを観賞したり、クソのように楽しい生活を送っていた。これでいいんだろうかと思いつつ。
ある日の朝。俺は昇降口で待木と遭遇した。彼女はクラスメートらしき女生徒らと楽しげに話をしている(待木は部室ではいつもグデーっとしているので、一瞬、他人の空似かと思ったくらいだ)。声を掛けようかどうか躊躇ったが、無視するのもどうかと思い、軽い挨拶だけに留めておこうとして近づいた。
「よ……」手を上げようとした瞬間、待木の目が鋭くなった。俺は思わず立ち止まる。彼女は声を出さないで、口だけを動かした。読唇術なんか使えないが、なんとなく、何を言っているのかは分かった。『来るな』とか言っているに違いない。何様だボケが。ちょっとイラッとしたが、無理くり近づいても俺が悲しくなるだけなので、すごすごとその場を立ち去った。
放課後。俺は部室に行くものかどうか悩んだ。ここに来て冷静になったのだ。そも、待木はどうして俺に入部するように言ったんだろう。他に部員はいないみたいだし、何故、俺だけなんだ。その上、朝は俺を嫌っているようなそぶりを見せた。分からん。わけが分からん。
「あれ、石高センパイ? 入らないんですか? もしかしてウンコですか?」
やっぱり帰ろうかと部室に背を向けた時、向こうから歩いてくる待木とかち合ってしまった。俺はポケットの中に入っている部室の鍵を弄びながら、どうしたものかと思案する。
「あー、もしかして今朝のこと気にしてますか? って、気にしてますよね。あのう、センパイのことを嫌ってるとか、そんなんじゃあないですよ」
と、待木は部室の鍵を開けながら、そんなことを言った。
「だって、センパイのことが嫌いだったら同じ部屋で隣り合ってゲームするわけないじゃないですか。ただ、私って部活以外だと『ド』のつく真面目なやつなんですよ。こういう趣味だって大っぴらに出来なくて」
その気持ちは分かる。そもそも、オタクってのは日陰者でいい。大手を振って陽の光を浴びるってのはどうかと思う。隠れキリシタンのように生きるんだ。
「俺と知り合いだってバレたら、こういう部活やってるってバレちまうもんな」
「はい。あと、センパイと知り合いだってバレたら恥ずかしいじゃないですか。私のまっさらな、新雪のような経歴に傷がつきますし。私史の中でも最悪の事件ですよ」
「お前俺のこと好きじゃないだろ」
「好きではないですね。さあ、今日は何をしますか?」
ある日。昼休みに食堂で樋山くんと飯をモサモサ食べていると。
「石高って部活やってんの?」
俺は米を噛みながら頷いた。もう梅雨入り間近だってのに、いまさらそんなことを聞かれるとは思っていなかった。
「言ってなかったっけ?」
「聞いてねえ。何部?」
「確か、今はメディアクリエイトアクセントコアプラス部だったかな」
「すげー、超突っ込みてえ」
俺はもう慣れた。待木はその日の気分で部活の名前を変える。どうせ何やってるか定かではないんだから、名前なんかどうだっていいんだけど。
「どうせパソコン部と同じでぬるーいオタ部だろ。クリエイトとか言うけど、人の作ったもん消費してケチつけるだけじゃん。だったら石高さあ、こっち来いって。俺と楽しくやろうぜ」
箸で目玉突いたろか。
「ヤだ。そっちにゃロリ巨乳がいねえだろ」
「いや、そんなもんどこにだっていないだろ。いたら自分を亀甲縛りしてボンレスハムですって写真をツイッターで拡散したっていいわ」
「あ、センパイ。何食べてるんですか? いいですねー、学食でお昼ご飯。私って舌が肥えてるんで、こういう安っぽいご飯って受け付けないんですよ。速攻でリバースしちゃいます」
「みんなに謝れ」
ふらっと待木がやってきた。部活外では声を掛けるなと言われていたんだが。自分から声を掛けてくるのはいいってのか。ボディだけじゃ飽き足らないってのか。どこまでワガママなんだこいつ。
「って言うか、話しかけてくんのかよ」
「今、一人ですし。そこのムカ○人間2に出てきそうなファットマンはパソコン部の人じゃないですか。だから別に構わないかなって。でも、長時間センパイと話していると色々と堪えられないのでこの辺で失礼しますね。では、また放課後に」
待木はおっぱいを揺らしながら去っていった。そそくさと逃げようとしている樋山くんには、近日中にボンレスハム画像をアップしてもらわなきゃ。
「えっ、ながとって腕の長い方じゃないの?」
「違いますよ」
待木はコントローラを置いた。俺たちは格ゲーをするが、いわゆるパッド勢という括りに入る。ゲーセンのスティックさながらのコントローラではプレイしない。もちろんゲーセンで格ゲーをしないってわけではない。
俺もコントローラを置いた。画面を見遣る。俺と待木の戦績は五分だ。ちょうどいい相手と言える。実力も戦法も似ている。どのゲームもそうだが、選ぶキャラこそ違えどやり口は同じだ。
「陽も暮れてきましたね。そろそろお開きにしましょうか」
「ああ、分かった」俺はゲーム機の電源を落とした。待木は鞄を持ち上げて、ふと、こっちを見遣った。
「センパイ。よかったら途中まで一緒に帰りましょうか」
一緒に帰ろうなんて言われるのは初めてだった。待木はいつも適当な時間に切り上げて一人で帰っていく。同じ部活で二人きりの部員だが一緒に帰る道理はない。別段、何も気にしていなかった。
「今日は学校までお迎えがないんですよ。駅まで歩いて帰るんです」
「お前……もしかして車で送り迎えされてんのか?」
「えっ、センパイは違うんですか」
分かってて言ってんな、こいつ。
けど、そうか。やっぱりって感じだ。こんな訳の分からん空間を学校内に持ってるし、色んなグッズを見せびらかしてるんだ。金持ち以外に考えられん。どうしてこんな何の変哲もない公立校に通ってるのかはともかく、待木はお嬢様ってやつらしい。
「この時間だと他の部活の人はまだ終わってませんから、今のうちですね。センパイ。私を駅までエスコートしてもいいんですよ?」
「まあ、暇だからいいけどさ。しかし可愛げのない言い方するよなあ」
「センパイは回りくどい子が好きそうな感じですけどねえ」
うるさいよ。
二人で歩く。何気に初めてだった。俺と待木はいつも部室で会って部室で別れるからなあ。せっかくの機会だから、気になっていたことを聞いてみるか。
「この部活ってさ、学校に許可取ってんのか?」
「はい。取ってますよ。もちろんじゃないですか。だから部室だってもらえてるんです」
「……あの活動内容で?」
「バレたらやばいですけどね」
待木はえへへと笑う。
「でもセンパイだって馴染んでるじゃないですか。なんだかんだで楽しいんだ、きっと」
そりゃ、ゲームやったり漫画読んだりで、いつもとやってることは何も変わらないんだし。部活なんだけど、友達の家で遊んでるって感覚なんだよな。
「他の部員とかさ、勧誘しねえの?」
「石高センパイだけでいいんですよ。極論、私一人だけでも成り立つんですから」
「じゃあ、どうして俺なんだ?」
うーん、と。待木は低く唸った。俺はなんでだか、ちょっとドキドキしていた。
「自惚れ屋さんですか? センパイはアレです。結構アレな人ですから、全く女の子にモテないと思うんですよ。私は。いえ、私が言わなくてもセンパイ自身が分かっていると思いますが、モテないでしょ? そんな経験ないでしょう? ですから『もしかしてこいつ俺に気があるんじゃね? いけんじゃねえ?』 みたいな考えは大きな間違いです。頭が悪過ぎます。オタクで頭が悪いとか死んだ方がいいです」
憤死しそう。
「えー、じゃあ何か、誰だってよかったのか? たまたま、俺が一番最初に引っかかったってだけなのか」
「誰でもいいってわけじゃあないですよ。こう、なんというか、ニオイと言いますか、波長と言いますか。そういうものが私とセンパイは合ってると思うんですよ。私は。だから石高センパイじゃなきゃ絶対にダメとは言いません。けど石高センパイの代わりになる人はいないとも思うんです。センパイは選ばれしものです。誇っていいですよ?」
ザ・オタクって認定喰らったってわけか。嫌じゃないし実際そうなんだから否定するつもりもないけど。待木ってすげえ上から目線だ。チビのくせに。
「ですから。私は石高センパイに胸を揉まれても警察には通報しませんし、学校の先生や親に泣きついたりもしません」えっ!
「ハプニングを装って足やお尻を触られたって怒りません」
「どうした。天使でも降りてきたのか?」
俺はそっと手を伸ばした。
「ただ殺します。私は強い女ですから、誰の手も借りずに普通にセンパイを殺すでしょうね」
「話が違うぞ!」
「何の話を聞いていたんですか。これだからソーシャルゲームで子供相手にシャークトレードを仕掛けるような人は」
してねえよ。
阿呆みたいな話をしながらだと駅前に着くのもすぐだった。待木は小さな声でお礼を言い、ポケットから財布を取り出した。
「助かりました。実は、私は一人で人ごみに行くことがないんです。金持ちの娘ですから」
「自分で言うな」
「ちょっと心細かったんですけど、センパイがノコノコ着いてきてくれてよかったです。というわけで、これは気持ちです」
殊勝なことを言って、待木は万札を二枚ちらつかせてくる。こいつ……すごいベクトルでカスだな。
「あらら? 足りなかったですか?」
「お前みたいな女がこの国を駄目にするんだと確信したぞ」
「そうですか? けど、私はセンパイと一緒なら駄目になってもいいですね」
あ、こいつやばい。なんかやばい。
「そいじゃあセンパイ、また明日。今日はとっても楽しかったから、明日はもっと楽しくなりますよね、ロク太郎」
「とっとと帰れ!」
晩飯を食って洗い物をしている途中、めぐがとことこやってきて、じっと俺を見上げてきた。
「お兄ちゃんって、部活を始めたの?」
「ん? ああ、まあな」
「ふーん。……気持ち悪い」
めぐは口を手で抑えて、道端の汚物でも見るかのような目つきをしていた。何を想像してるんだ。
「どうせパソコン部でしょう? 私、お兄ちゃんがオタクだってことは我慢する。でもオタクがいっぱい集まっているのって我慢出来ないの。前にニュースでやっていたけれど、数十万人のオタクが薄っぺらい本を買って、コスプレしてる露出狂一歩手前の女の人に寄ってたかって我先にとシャッターを切るんでしょう。犯罪者予備軍じゃない」
「……そんなことないと思うけどなあ。売ってるのは本だけじゃないし。いかんよ、めぐ。表面的に物事を判断しては」
「百歩譲ってそんなことないとしても。絵面が」
それを言ったらおしまいだ。
「俺のやってる部活はそんなことないぞ。健全だ。二人だし」
「男二人で何をやっているの……?」
「違う! 一年の女子と二人でゲームしたり、アニメ見たり、漫画を読んだりしているだけだ」
「どこが健全なのよ。だいいち、いつもやってることと変わらないじゃない。あと、その女の子はフィギュアでしょうに。夢を見るのは勝手だけど、その夢の内容を人に話すのはやめてちょうだい」
どこまで信用がないんだ俺は。
「マジだって。マジで」
「じゃあ、今度証拠の写真を送って。どうせお兄ちゃんが薄暗い部屋で薄気味悪い顔で変な人形に頬ずりしている写真だとは思うけど」
むしろもう、ここまで馬鹿にされてるのに『お兄ちゃん』って呼んでくれているだけめぐは天使だ。俺のことを心から心配しているに違いない。俺はなんてダメな兄なんだ。早く社会復帰しないと!
「と言うわけで写メを撮らせてくれ」
俺は翌日の放課後、部室に着くや否やそう言った。待木はゆっくりとした動作で、アホな犬に言い聞かせるような雰囲気で首を振った。
「私はですね、何のお肉を使っているか分からないファーストフードも嫌いなら脚がいっぱいある虫も嫌いですし、小パンから投げてくるやつも嫌いなら画面を見ずに暴れてくるやつも嫌いなんですよ! しかしですよ。何が一番嫌いかって言うですね、酢豚にパイナップルが入ってるのが許せないとか言ってるやつなんですよ!」
「……じゃあ、撮らせてくれてもいいじゃん」
「ええ、いいですよ。せいぜいケータイの待ち受けにでも使ってください」
待木は立ち上がってしなを作る。俺はとりあえずケータイで一枚撮った。しかし、こんなんをめぐに見せてもしようがないだろう。
「いや、妹に見せるんだよ。お兄ちゃんはしっかり部活をやっているぞって感じの絵が欲しい」
「じゃあなんで今さっき撮ったんですか」
「撮ってねえよ。いいから頑張ってる感のあるポーズを作れよ」
えー、と、待木は露骨に嫌そうな顔をした。よくよく考えれば、こんなやつが頑張ったことなんか今までにないはずだ。理論的に無理な話である。
「というかセンパイが頑張ってるところを撮らないと意味がないじゃないですか」
「分かった。じゃあそういうの抜きにしてお前の、なんか、こう、エッチなポーズが見たい」
「センパイのアクティブでダメなところはすごいと思いますよ。私は。でも嫌です。ちなみに私は小さい頃はバレエを習っていたのでめちゃめちゃ体が柔らかくて、色んなポーズが取れます」
くっ、こいつ! 誘ってんのかそうでないのかまるきり分からん。
「嘘吐け。ホントだったら証拠見せろ証拠。ちょっと足上げてみ。ほら」
「あ、普通に無理です。パンツ履いてないんで」
「スライディーング!!」
「うわあ!?」
俺は滑り込んだ。待木は横っ飛びで俺を躱す。
「高校球児だって躊躇うヘッスラ! そんなにスカートの中身が見たいんですか? でもセンパイが見ても無駄ですよ。モザイクがかかってますから」
「せめて白いもやとか光にしといてくれ」
夢がなさ過ぎる。
「もしくは、今の俺を写メしといてくれ」
「確かに。こんなに頑張ってるセンパイは珍しいですからね。では一枚」
「サンキュー。じゃ、次はお前の番な。とりあえずストッキング履いて俺を踏んづけてみろ」
「そこからどこにどうやって着地するんですか。しかも踏まれたいのに『踏んづけてみろ』って。MなのかSなのかはっきりしてください。気持ち悪いですよ」
「もっと強い口調でお願いするでござる」
待木は背中を向けて直立した。
「四肢、粉砕せしめん!」
「いや、そういう意味の強さじゃないんだよな」
「わがままですねえ」
「ちょっと前かがみになってみ」
「それくらいなら」
俺は起き上がって待木の横に並んだ。すぐさま彼女の脚を絡めて腕を取る。そのまま流れるような動きで関節を折り畳んでいく。
「ちょっ、痛い痛い! 痛いですって! なんですかこれっ、こんなの初めて!」
「えいしゃー!」
バキバキに固めてやった。これが俺の卍固めである。
「よし、今だ! 俺めっちゃ頑張ってるから写メ撮って、写メ!」
「いやああああああむううううりいいいいいい! というか退いてくださいいいっ、ひっ、ひいいいいいい」
「根性で何とかしろ!」
「くっ、ああ……! こ、このっ、お、女の子にこんな阿呆な技掛けて何考えてんですかっ。男子高校生のノリを持ってこないでください! 私を誰だと思ってるんですか! って、ああああごめんごめんごめんごめんなさいいいいい! やだああああっ、もういたいの嫌ァ! 許して、許してェ!」
俺は待木のスカートのポッケからケータイを取って(待ち受けは俺がフィギュアのスカートの中を覗こうとしているところを隠し撮りしたものだった)、動画の撮影をスタートさせた。
「オラァ! 言え! 石高センパイは頑張ってると言え!」
「うっ、うううううう! うーっ!」
「余計な抵抗してんじゃねえぞ!」
「ひぁぁぁぁぁ、ら、らめえっ。ああアアァっ、あっ、こ、こくだかセンパイは頑張ってましゅううううう!」
「いい子だ」
「失礼します。生徒会です」
がらりと戸が開いた。俺は待木に技をかけたままで固まった。部室に入ってきたのは原先輩と、見知らぬ女子が二人。そういや生徒会とか名乗ってたっけ。
生徒会の三人は無言で俺たちを見つめて、指差した。まずい。絶対に誤解されてる。
「待ってください。原先輩はきっと、勘違いをしていると思うんです」
「……石高くん」
俺は大きく頷いた。顔面が汗と涙と鼻水まみれになり、呼吸が荒くて真っ赤になった待木にケータイのカメラを向けたまま、俺は大きく頷いた。
「俺はただ(技を)キメようとしただけです」
「何言うてんねん!?」
原先輩は存外に素早い動きで距離を詰め、俺の頭を思い切り叩いた。待木は俺からケータイを奪い、何度も何度も、さっき撮ったムービーを再生していた。
「し、信じとったのに! こんなアホなことする人とは思わんかった! 思わんかった!」
「ち、違います違います」
『らめえっ』
「言い逃れなんかできへんで」
「ただのプロレスごっこです! 部活なんです!」
『ましゅうううう!』
待木本人が『プロレスですよ。色んな意味で』と言ってくれたのでなんとかなったが、誤解が溶けたあとも原先輩は冷たい目のままで口調には険があった。
「会長。あの、もうさっさと話をして帰りましょう」
「この人たち頭おかしいです」
おい、俺と待木を一緒にするな。
「で、何か用があって来たんでしょう。何の話ですか」
先輩は待木をねめつけて、長い息を吐き出した。
「……ええと、あなたたち図画工作部は」
「違います。図画工作部じゃありません。アートアンドクラフトLOVEMAX部です」
「いいえ違います。図画工作部です。早速ですが廃部になります。終わり。ではさようなら。もう二度と会うこともないでしょう」
原先輩はドアを開けて出て行こうとする。待木がゴキブリのような動きで回り込んで彼女を引き留めた。
「プロレスごっこだと言ったじゃないですか!」
「理由は別にあります。部長の待木宵さん、あなたは文科系の部活が幾つあるのか知っていますか?」
「いいえ! 全く興味がありませんから」
そんなこと言い切るなバカ。
「二十一もあるんです。けれど活動する場所がありません」
「そんなの知りませんよ。あなたたち生徒会が鼻くそほじりながら適当に決めるからこうなったんでしょう。どうして私たちがそのツケを払わなきゃいけないんです。許可だって山路先生から取ってますし」
「その山路先生から、場合によってはあなたたちを立ち退かせてもいいという許可をもらったんです」
雲行きが怪しくなってきたと言うか、既に土砂降りで雷も鳴っている。
「いいですか。何も生徒会は適当に図画工作部を廃部にしようと決めたわけではないんですよ。他にも文科系の部活動はあります。けれど、そもそも図画工作部は正確にはまだ部として認められていない同好会なんですよ」は?
「お、おい待木、どういうことだ」
「……石高くんは畜生ですが、それ以上の畜生に騙されていたと言うことです。いいですか。部活動を設立するには条件があります。一つは部員。五人以上いないと駄目なんです。ちゃんと生徒手帳の規約にも書いてあります」
そんなもん読むわけないでしょうが。
「もう一つは顧問の先生を決めること。生徒だけでは何をするか分かりませんから。それから最後に活動場所を定めること。この場所もどこでもいいと言うわけではなく、生徒会と先生方の許可を得なければなりません。以上三つを一つも満たしていないのがあなたたち図画工作……同好会なんです」
「活動場所ならこの部屋が」
「今年度から規約が変更されました。運動部だって体育館やグラウンドを毎日使えるわけじゃあないんですよ。文科系の人たちにも、活動場所、部室を共用してもらうようにお願いしています。ですから、ここはもうあなたたちだけの部屋ではないんです。拒否すれば部として認められませんから、よく考えてくださいね」
「そんなの強要じゃないですか」
原先輩はにっこりと笑った。待木は一歩後ずさりした。
「ちゃんと部員を集めている部はあります。どのように活動するのか、計画書を報告しているところもあるんです。生徒会は……いえ、私は、きちんとした人たちにこの部屋を使ってもらいたいと思っています」
うわー、超正論。俺たちに抗う余地、なし。
しかし待木は食い下がる。確かに部室って便利だし部活ってのは楽しいけど、別になくても構わないんじゃないか。と、俺は思うけど。
「部員と顧問と場所を用意すれば、認められるってことですね」
「はい。そのとおりです」
「分かりました。期限は、いつまで」
「今学期中なら間に合いますよ。それでは、また生徒会室で会えることを祈っていますね」
「嫌味っ」
戸が物凄い勢いで閉められた。
「くそう、くそう。センパイ、やりましょう。あの生徒会長にぎゃふんと言わせてやるんです」
「いやー、別によくね? めんどいし。悪いのは俺たちっつーかお前じゃん」
「今すぐあの人たちを追いかけて『さっきのことはプロレスじゃなくて本気でした。本気でヤられそうになってました。石高だけはガチ』って吹き込んでもいいんですよ」
「まずは部員を集めることから考えるべきだな」
机にルーズリーフや筆記道具を並べてみたが、俺と待木には忍耐とか我慢とか努力とか言う概念がない。一時間もしない内に格ゲーをし始めた。
「待木」
「……はい」
「ここって図画工作部だったんだな」
「…………はい」
これからどうしよう。今日の俺にはどうすることも出来ないから、明日の俺に期待するとしよう。そうしよう。




