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カクセイスルセカイ(俺、石高。部活やめたいんだけど)

 修羅場を潜り抜けた俺は教室に戻り、四時限目までの授業を受けた。その間、休み時間には丹下院に絡まれたが。肩をぶつけられたりゴミを投げつけられたり、通りすがりに舌打ちされたり。子供か。

 しかし実害はない。今のところ、互いが牽制し、警戒している。俺はウンコ(別にいいんだけどな。漏らしてないから)。丹下院はたばこ。ダメージは向こうのが大きいが、黙っておいてくれていた方が助かる。だから、チクったらただじゃおかねえ。運命共同体ってわけじゃない。お互いが睨みを利かせ、もしもの時は地獄へ道連れするだけだ。



 昼休みになり、俺は樋山くんと食堂へ向かうことにした。

「クッソ腹減ったなあ」

「早く満腹中枢を刺激してやろうぜ」

 てぽてぽと二人で歩いていると、俺は違和を感じた。いつも、財布はズボンの後ろポケットに入れているはずだったんだけど、重みがない。嫌な予感がした。ケツに手を遣ると、ああ、そこには何もなかった。財布がない。

「どうした石高。黄色いバカンス戦争は6号さんで決着がついたはずだろ」

「金がない。ミスターヒヤマ、お金を貸しておくれ」

「……馬鹿も休み休み言えよ。お前に金を貸すくらいならゲーム屋のワゴン商品を買いあさるわ」

「俺との友情はワゴン以下だってのかよ」

 樋山くんは頷いた。俺が魔法使いだったら、こいつをおかきに変えてお茶でふやかしてやってるところだ。

「お前なんかと一緒にいられるか。もういい、俺は一人で行く」

「ういー、じゃ、またあとで」

 薄情にも程があるだろ!



 財布はどこかで落としたはずだ。そして、落とした場所には心当たりがある。朝、特別棟に行った時だ。腹痛に悩まされていて、前後不覚で歩いていたから間違いない。財布がぽろりと落ちたとしても気づかなかったに違いない。

 そう思って、男子便所まで下を向いて歩き回り、お世話になった個室の中をしっかり探したのだが、財布はどこにも見つからなかった。終わった。金だけじゃない。カード類(主にゲーセンで使う)もいっぱい入っていたのに。ああ、データが。俺の戦績が。

 しようがない。学食に戻って樋山くんに頭を下げよう。プライドなんか犬にでも食わしてしまえばいいんだ。

 諦めて階段を下りようとした時、包帯を巻いた、背の高い女生徒が近づいてくるのが見えた。……三年生かな。美人さんだった。ミステリアスな雰囲気を漂わせている。

 その女子と目が合った。じーっと見つめられてしまう。無表情で、ちょっと怖かった。

「……あ、あの、何か?」

「あ」と、その人は口を開いて、ごほんごほんと咳払いをする。

「探し物?」

「え、あ、ああ、そうです。実は」

「これ?」

 と、先輩らしき人は財布を見せた。間違いなく俺のものだった。

「階段に落ちてたから。ごめん、中身、見ちゃったけど」

「全然大丈夫です! ありがとうございます。いやー、これがなかったらお腹が空いて死んじゃうところでした」

「お腹が減るのはよくないことだ」

 うんうんと頷き、先輩は財布を俺に渡してくれる。おかえりマイウォレット。

「あ、そうだ。よかったらお礼をしたいんですけど」

「……そういうつもりではなかったんだけど」

「いえいえ、気持ちですから。俺、食堂に行くんで、何か飲み物でも」

「かつ丼がいい」

「え?」

 先輩はハッとした。ふるふると首を振り、何でもないと俯く。

「いいですよ。行きましょう。大丈夫っすよ、俺バイトしてますから。あ、今のは内緒っす。先生に言わないでくださいね」

「あ、ちょ、ちょっと」



 財布を拾ってくれた先輩は、小林棗さんというらしい。やっぱり一つ上の3年生だった。いやー、大人である。しかしお腹は空いているらしかった。流石に『貧乏なんですか』と直球をぶつけるのは憚られるが、包帯を巻いているし表情だって変えないし、なんか幸薄そうというか、訳ありっぽい人だと思った。

「さっきも日替わりを食べたんだけど、やっぱり足りなかったんだ」

 俺は聞かなかったことにした。

 食堂に着いた俺はきょろきょろと中を見回し、樋山くんの姿を見つける。どうやら、やつは他の知り合いと一緒に飯を食っているらしかった。ちょうど、その近くの席が空いていたので、小林先輩に場所取りをお願いする。快く引き受けてくれた。



 かつ丼の乗ったお盆を二つ手に、俺は小林先輩のもとへと向かう。途中、樋山くんがこっちに気づいた。

「あれ? なんだよ石高、金あったのか?」

「おう、そうなんだよ。財布を落としたんだけど拾ってくれた人がいてさ」

「へー。で、なんで二つも丼食うんだよ。そんなに腹減ってた?」

「いや、これはさ」

 そう言って、俺は先輩にお盆を渡した。

「ありがとう。ろく高くんはいい人だな」

「先輩。ろ、じゃなくて、こ、です。石高です」

 先輩は既にかつ丼に食らいついている。そして樋山くんは食い入るように俺と先輩を見比べていた。

「……俺は、幻覚でも見てんのかな。なんか、石高が美人と一緒にメシ食ってるように見えてきたんだけど」

「現実だよ。じゃあな、樋山くん。話しかけてくんなよ」

 俺はくるりと背を向けて、割り箸を二つに割った。樋山くんが何事か叫んでいたが、死ぬほどどうでもよかった。

「後ろの人は友達じゃないのか?」

「そうですけど?」

「最近の子は怖いことを言うんだなあ」

 年寄りじみたことを言う小林先輩。しっかりかつ丼は平らげていた。いったい、いつの間に。この人ブラックホールか何かなんだろうか。今も俺の食ってるところを物欲しそうに見てるし。

「……ああ、それと、言い忘れていたんだけど。もう私とは関わらない方がいい」

「はあ、理由を聞いてもいいですか?」

「君にとっても良くないからだ」

 どういうことだと言いたかったが、訳ありっぽいのは確からしい。ただ、なんとなく嫌だなと思った。

「じゃあ、どうして財布を拾ってくれてたんですか。職員室に届ければ済む話なのに、先輩はわざわざ財布の持ち主を探してたっぽいですし」

「職員室に行くのが嫌だっただけだ。他意はない。財布だって、本当は、中身だけを抜いていたかもしれない。気紛れなんだ」

「先輩はそんなことする人には見えませんよ」

「初対面の人に強気だね、君は」

 厭世的な空気を漂わせながら、しかし小林先輩はどこか現世との関わりを捨てきれていないような、半端な感じなのだ。だからほうっておけない。というかこの人、言動がちょっと面白いので、是非仲良くなりたい。今だって無表情でクールぶっているけど、弄んでいた割り箸のささくれに指が刺さってびっくりしている。

「また先輩を見かけたら話しかけに行きますよ」

「……変な人だな、君は」

 小林先輩には言われたくなかった。



 放課後。さて、今日はアルバイトにでも行こうかな。それとも駅前をぶらつこうか。家に帰ってめぐと遊ぶのもいいかもしれない。

「石高」

 何も聞こえなかったので、俺は人ごみに紛れて教室を出ようとする。

「石高ァ!」

 走れ! 俺はクラスメートの群れを掻き分けて廊下に出る。右か、左か、どちらから行く!?

 瞬間、襟元をむんずと掴まれた。振り向くと、究極体すら素手でぶっ倒せそうなオーラを纏った瑞沢がいた。知ってたけど。

「どうして無視をするんだ? 石高くんに無視をされたら、先生は悲しくなってしまうなあ」

「ごっ、ごめんなさいごめんなさい! つい出来心で! ほんの小さな出来心で!」

 瑞沢は俺から手を離したかと思うと、至近距離まで顔を近づけてくる。眼力やばい。気が付くと、クラスメートはみんな逃げちまったし。

「ペナルティのことを忘れたわけではないだろうな」

「あー、確か、生徒会の手伝いとか言ってましたっけ」

「そうだ。部活動の勧誘だが、一部のやつらがやり過ぎている。そこで、生徒会に目を光らせてもらっているのだが、どうにも手が足りなくてな。勧誘を行っているのは主に二年だ。同級なら注意もしやすいだろう?」

 まあ、先輩相手にするよりはマシだな。

「もちろん、何かあれば私も手伝うが。こっちも常に暇をしている訳でもない。基本的にはお前たち生徒だけでやって欲しい」

「了解です!」

 俺は瑞沢から距離を取り、敬礼する。

「正門に向かってくれ。お前の担当はそこだ。生徒会には話をつけているから、言えば色々と教えてくれるだろう。これをやり通せばアルバイトのことは不問とする。いいな?」

 願ってもないことだ。俺は何度も頷き、正門へ向かった。



 このまま帰ってしまおうぜロクスケー、ぎひひ、と心の中の悪魔が囁いた。残念ながら天使が現れることはなかった。俺は何食わぬ顔で靴を履き替えて、正門をくぐることを決意する。

 しかし見てしまった。だらしない制服の着こなしをする運動部のアホどもの中に、生徒会長の姿を。掃き溜めに鶴とはこのことか。眉目秀麗。美人薄命。俺の貧困なボキャブラリーでは言い表せないほどすげえ美人の原先輩が門の近くに立っている。ああ、それだけで一枚の絵画のようであった。……何故とは問うまい。衰えたか石高禄助。生徒会の仕事なのだから、生徒会長の原先輩が動いているに決まっていたんだ! やったぜ! お近づきチャンスじゃねえか!

 俺は手櫛で髪の毛を整えてから原先輩のもとへと向かう。

「お、遅れてすみません!」

「……ええと、あなたは?」

「石高禄助、二年生です。好きなものは大間のマグロドキュメントを見ることと原先輩です!」

 原先輩はめちゃめちゃ困った顔をしていたけど、にっこりと微笑んでくれた。

「ああ、ありがとうございます。瑞沢先生から話は聞いていました。早速ですが、よろしいですか?」

「何なりとお申し付けください。じゃ、あそこのサッカー部をどつきまわしてきますね」

「暴力はいけません。それに、今はみなさん、冷静に勧誘をしてくださっていますから」

 はて、じゃあ俺は何をすればいいんだろうか。

「実は、お手伝いと言っても、生徒会だってここで立っているだけなんです。何か問題があれば駆けつけますが、私がここにいることで仕事の大半は終わっているようなものですから」

 なるほど。生徒会長が目を光らせているのだから、部活の勧誘をしている奴らも、おいそれと調子に乗ったことが出来ないってことか。

「だから、石高くんにはわたしの話し相手になってもらいます。会長命令です。ふふ」

「えっ、そんなことでいいんですか? ペナルティじゃなくてご褒美なんですけど」

「ふふふ、石高くんって面白い人ですね」



 時間とは、楽しい時にはあっという間に過ぎて、苦しい時には余計に長く感じるという。原先輩との会話(好きな食べ物とか、最近よく見ているテレビ番組とか)なら、どんな話題でも値千金だ。だが、時は金なり。一年生は大半が下校して、部活動の勧誘も終わった。つまり、彼女と過ごす時間も終わったということだ。

「今日はここまでにしておきましょうか」

「……そうですね」

「元気がなさそうですね。やっぱり、話していて疲れちゃいましたか?」

「いえ。先輩と話せなくなるので死にそうになってます。俺が時間を止めるオーバーマンに乗っていたら、迷わず止めてましたよ。嘘だったらそこらの木の下に埋めてくれても構いません」

「じゃあ、一つお願いをしてもいいかな。明日の朝も、ここで見張り……って言い方はどうかと思うから、部活動の勧誘を見守ります。けれどやっぱり人手が足りないので、石高くんに」

 皆まで言わせるつもりはない。

「喜んで! 先輩の為なら鼻からスパゲティだって食べますよ!」

「そこまではしなくてもいいですよ。では、明日、七時前から正門に集合と言うことで、大丈夫かな? 起きられる?」

「はっはっは、寝坊なんてありえませんよ」

 俺は原先輩と約束して、明日の朝も部活動の連中を監視することにした。ああ、楽しみだ。こんなに学校が楽しみなんてのは生まれて初めてかもしれない。



「なあー、めぐぅー、俺ってさー、最高にツイてると思うんだよねー」

 帰宅。夕食後。俺は自分の部屋でニヤニヤとしていた。さぞ気持ちの悪い顔だったろう。めぐはとあるゲームで遊んでいたが、ポーズをかけて俺を見遣った。仕方ないから相手してあげるわ、とでも言いたげな顔をしている。

「ドリルでルンルンしたい気分だ」

「しといて」

「おっ、なんだよめぐー。格ゲーやってんなら相手になってやるよ」

 俺は2コンを握った。めぐは溜め息を吐いて、トレモから対戦モードに入る。強キャラ厨の妹は三度笠をかぶった忍者を選んだ。くそう、くそう、また画面端で永パに持ってくつもりだな。

「このゲームでお兄ちゃんと遊んでもつまらないのよね。英単語を覚えたての子供みたいに弾きばっかり狙うから」

「斬殺ノックアウトしてやるぜ。やっぱ大人しめの子が堕ちるのって最高だもんな」



 翌朝。俺はいつもよりも早く目覚めた。ケータイのアラームよりも先に起きるなんて久しぶりだ。

 ゆっくりしているつもりはない。手早く準備を済ませて、原先輩に会いに行こう。

「……あれ? お兄ちゃん、今朝は早いのね」

「やあ、めぐ。ぐーてんもるげん」

 リビングで麦茶を一気飲みして、焼いた食パンをもさもさ食べてると、寝ぼけ眼のめぐがやってきた。

「お兄ちゃんは尊い奉仕活動に精を出すから、今朝はちょっと早いんだ」

「ふうん。女の子に釣られたのね」

 釣られたの? ではなく、断定された。まあそうなんだけど。

「だから昨日はあんなにご機嫌だったの。男の子って分かりやすくて羨ましいわ。それともお兄ちゃんの頭がシンプルなのかしら」

「あんまし擦れたこと言ってると可愛げないぞ」

「平気よ。こういうことはお兄ちゃんにしか言わないから」

 ああ、そうかい。有り難いことだ。



 家を出て学校に着く。待ち合わせの時間は七時だったが、感極まって六時ちょい過ぎに到着してしまった。が、原先輩と会うまでの過程プロセスなどどうでもいい。彼女との家庭ステキハピネスライフを築くことこそが重要なのだ。

 ってありゃ? 原先輩、もういる。校門の近くにずっと立っていらっしゃる。俺は自分の携帯で何度も時間を確認したが、間違ってはいないようだった。

「おはようございます! 今日も一日、よろしくお願いします! 今日だけと言わず、末永くよろしくお願いします!」

「あはは、石高くんは元気だなあ」

 原先輩はいつ見てもお美しい。なんか、こう、鱗粉? っつーか、光の粉が出てる。

「と、ところで、早いんですね。待ち合わせって七時で合ってましたっけ?」

「ええ、合ってますよ」原先輩にっこり。うーん。やっぱりすごいなあ、この人は。

「そう言えば石高君はたくさんアニメを見るんですよね。私、今朝は早起きで、いつもは見ない時間の番組を見ていたんですよ。そうしたら、懐かしいアニメを再放送していて、ちょっと嬉しくなりました」

 俺は少しだけたじろぐ。昨日は色々話し過ぎて、俺がアニメ好きだと喋ってしまった。本当なら、休日は喫茶店で勉強している意識高い系の俺を演出するはずだったんだけど。

「あー、それって侍のやつですか」

「あっ、きっとそうです。『おろおろ』って言ってる人の。石高君も見てるんですか?」

 思いのほかアニメの話で盛り上がることが出来た。原先輩の仁徳と話術によるものだろう。ああ、願わくは一生こんな風にこの人といられれば。



 まあ、普通に時間は経っちゃうんだけど。

「あ、ごめーんっ。ぶつかっちゃったあ」

「……気にしてないから」

「うっそー、石高くんってやっさしい! 超ウケんだけどー」

 そんでもって普通に丹下院に絡まれちゃうんだけど。俺、こんなこと生まれて初めてだ。オーガ、早く来てくれ。早くSHRを始めてくれ。

「なあ、もうマジで勘弁してくんないかな」

 丹下院は作った笑顔のまま、顔を近づけてきて低い声で言った。

「ざけんなやキモオタが」

 もう! せっかくのいい気分が台無しだ! 絶対復讐してやる。ぎゃふんと言わせてやるぞこの野郎。



「勝負だっ、石高禄助!」

 昼休み。樋山くんと食堂に向かっている途中、昇降口で変なのに絡まれた。確か、宝野とか言うチビッ子だ。

「お前さ、なんか最近絡まれるよな。フラグ立て過ぎじゃねえの?」

「死ねギャルゲ脳。だったらこいつは樋山くんでどうにかしてくれよ」

「任せとけ」と、樋山くんは一歩前に出た。

「君、宝野遥とか言ったか。俺の今期の嫁になってくれ」

 出たー! 樋山くんのオリジナル笑顔! これを見て正気でいられる人間はいない(あまりの生理的嫌悪感で)!

「YO-KAIだ。クールジャパン」

 宝野は冷静だった。と言うか冷た過ぎる。

「よく分かったな。そう、こいつの名はぬっぺふほふ」

「おォい! 今妖怪めっちゃ人気あんだぞ!」

 黙ってろ恨み○本舗のオタクみたいな顔しやがって。樋山くんみたいなキャラのメダル引いたら子供だってショックで老けるし、だいたい、本物の妖怪と比較したってどっちが本物なのか分かんないビジュアルのくせに。

「とにかく、彼に用はないよ。ボクは君に用がある。君だけなんだ。君だけが必要なんだ」

「ええい、無駄に熱っぽい感じで言うな。しっしっ、去れ去れ」

 樋山くんは貴重なボクっ子に反応するのかと思いきや、空腹時は割かし大概のことがどうでもよくなる性質でもあった。

「……じゃあ勝負してやるから、瑞沢って教師に『ぶり・ど・げろんちょりー』と言って来い。そうしたら考えてやらんでもない」

「なんだ。そんなことでいいのかい。いいよ。じゃあ、行ってくるからここで待っててね」

 俺は大きく頷き、宝野の姿が見えなくなったのを確認してから食堂へ向かった。いやあ、おばちゃんの作るかつ丼は絶品ですわ。



 六時限が終わり、SHRが終わってさあ今日も原先輩といちゃいちゃするぞと席から立ち上がった時、瑞沢がこっちを手招いているのが見えたが気のせいだと信じて窓から飛び降りようとした。

「そんなに私のことが嫌か!」

「ヒッ、殺さんといて、か、堪忍して」

「せっかくいいニュースを持ってきたと言うのに」

 瑞沢は難しそうに唸った。ちょっと残念がっていると言うか、寂しそうな顔にも見える。しかし、怖いものは怖いんだ。『ミズサワヤバイカラ』って情報が俺のDNAとかに刻まれてるに違いない。

「喜べ石高。ペナルティ免除だ。もう自由にしていいぞ」

「へ? と、ということは」

「ああ。でも、ここだけの話だぞ。他の先生には内緒にしといてやるから……お、おい? どうした。何故泣いている?」

 ああ、そうか。俺は今、涙を流しているのか。

「もう生徒会の手伝いをしなくてもいいんだし、許可してやったんだから姉さんの店でアルバイトをしてもいいんだぞ。どうして泣くんだ。ちょっと焦るから泣くのはよせ」

「も、もう……」

「うん?」

「原先輩とイチャイチャ出来ない……っ! 先輩と学校の怪異を調査したりして、エッチなことをしたかったのにっ。なのにっ」

「怒る気力すら湧かん」

 オーガは呆れていた。俺は先輩と楽しいことがしたくて涙が止まらなかった。

「だいたい、原と仲良くしたいんなら、生徒会の手伝いなど関係なくても話に行けばいいだろう」

 その通りなんだが、俺みたいなミジンコは何か理由がないと行きづらい。

「気後れする気持ちは分かるがな。まあ、これでお前の放課後は自由だ。好きに遊べばいいし、アルバイトや部活に行ったっていい。教師としては大人しく勉強してくれという思いでいっぱいだが」

 ……部活?

 そういや、俺、部活に入ってたような気がする。確か、二年になってすぐのことだっただろうか。いや、それとも二年になる前の春休みだったっけ。

「先生。俺、何部に入ってました?」

 オーガはとても優しい顔で微笑んだ。おい、俺を馬鹿にするな。



 瑞沢に確認してもらったところ、俺はとある部活動に入っていることが判明した。しかし一度も活動に参加したことがない。部員が何人いるのか。部長は誰なのか。何一つ知らない。どうしてそんな部活に入ったのか、きっちりとは覚えていない。恐らくその場のノリとか気紛れとか、若者特有のテンションに身を任せた結果だろう。が、唯一覚えていることがある。それは胸だ。柔らかそうで。大きくて。そんなおっぱいだ。それだけを覚えている。というかそれだけでいい。

「ここか」

 部室は特別棟の最上階の奥まったところにあった。小さい教室だ。元は特別教室の準備室にでも使われていたんだろうか。こんな場所、普通なら立ち寄らない。よく分かんない部活だからこんなところに押し込められてしまったんだろう。

 俺は退部届を手に開き戸をノックした。返事はない。しかし物音は聞こえてくる。人がいるのは間違いない。ラッキースケベに期待して躊躇なく扉を開けた。

「お?」

 ……真っ暗だ。カーテンの代わりに暗幕を使っているのか、窓からは光が入らない。部屋の灯りは点いておらず、馬鹿でかいテレビとパソコンのモニターの灯りだけが煌々と光っている。なんだここは。

 徐々に目が慣れてくる。外から見たら狭苦しそうに感じたが、中はそうでもない。むしろ広いくらいだ。背の高い棚が幾つかある。地震が起こったら一発でアウトだ。中央にはソファ。誰かが座っている。宝野並に小さいやつだ。そいつはゲーム機のコントローラを握っているらしい。プレイしてるゲームは……糞で有名なRPGだ。すげえ。この時代、好き好んでこんなのやってるやつは久しぶりに見たぜ。って、あ、よく見りゃ、テレビの乗ってる台の周辺には古今東西のゲーム機が置いてあった。

 なんだここは。天国か。

「遅かったですね」

「……あ?」

 声の主は女だ。(恐らく)彼女はゲームを中断してリモコンらしきものを操作する。瞬間、部屋の電気がぱっと点いた。眩しい。

「改めて、ウルトラメディアクリエイト部へようこそ、石高センパイ」

 俺はゆっくりと目を開ける。ソファで偉そうにふんぞり返る、黒髪おかっぱの女子生徒が口の端をいじわるっぽくつり上げた。聞いてみたいことは幾つかある。この部屋のことも部活の名前もそうだし、そもそもお前誰なんだ、とか。しかしどうでもいい。

「初めまして。早速だけど、こいつを受け取ってください」

「んー?」

 俺は退部届の入った茶封筒を手渡した。女の子はがさごそと中身を取り出して、手紙をぺらりと見遣る。しばらくの間、彼女は無言だった。恐らく白紙の手紙を見て憤っているのだろう。

「部活とかめんどくせえから、今日付けで退部します。今までお世話になりました!」

「さすがセンパイですね。しかし、この部屋を良く見回してください。同じことが言えますかね」

 もったいぶった口調でイラッとしたが、俺は女の子に言われたとおりそこらを見回した。なるほど。棚には漫画、ゲーム、アニメのDVD。ご丁寧にフィギュアまで飾ってある。しかもアレだ。ショップのガラスケースの中に置いてあるようなプレミア品まである。すげえなこの部屋。全部合わせて百万円分くらいのものがあるんじゃないか。はっきり言って心が揺れまくっている。が、これは俺のものじゃない。あくまでこいつのものだ。

「ふっ、俺はな」

 その時、俺は一番最初に確認しておくべきものをこの段階で認めてしまった。それは乳である。偉大な大地。あるいは海洋。神話の豊穣神すら目を背けるであろうおっぱいが、女の子には備わっていたのだ。いやさ禄助。落ち着け禄助。パッと見た限り、彼女のサイズはそうでもない。確かに大きさは素晴らしい。大きいことはよいことだ。しかしオンリーワンではない。そう、サイズに関して言えば。大事なのは、女の子が宝野並のチビだってことだ。小学生だと言っても通るような背丈に、この胸。少し古いがトランジスターグラマーというやつだろうか。いいぞ。これはいい。まさしくオンリーワンの逸材である。顔も普通に可愛いし。

「俺は」

 ハッと思い出した。

 そうだ。アレは高校一年と二年の間の春休み。俺は忘れ物を取りに学校へ向かったが、その時に『部活に入りませんか』と声を掛けられていたんだ。その時の俺は胸につられて二つ返事で了承した。しかしその後、俺はミスター樋山のせいで貧乳にハマってしまい、この子のことを忘れてしまっていた……。なんてことだ。

「俺は、なんですか?」

「いや、別に何でもないよ? さ、今日の部活を始めようじゃないか。ところで、君の名前ってなんだっけ?」

「一年の待木宵まつき よいです。ところで、私の胸を見るのはやめてください。さっきからチラチラ見てますがバレバレですよ。出るとこ出たっていいんですからね、こっちは」

「もう出るとこ出てんじゃん」

「息を吸うようにセクハラ発言ですか。取り繕う素振りすら見せないのが逆に素敵ですよ」

 ありがとう。

「それでは、今日の部活動ですが……とりあえず、格ゲーでもしましょう。好きなソフトを選んでくださって構いませんよ」

 部活動が、格ゲー? なんだここは。学校を舐めてるとしか思えん。天国か。正直、待木宵って一年が何者なのかイマイチ分からないが、俺とめぐ以外にもブシドー精神を発揮出来るやつを発見したので、今日のところは追及しないでおこう。うん。暇な時にここで可愛い(思考停止)子と遊べるなんて最高じゃないか。なーんで俺はもっと早くにここへ来なかったんだろうな。不思議でしようがない。

「これにしよう」

「オケです。あ、私ガンスリンガー使うんで」

「ゲスいなお前」

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[一言] 全員ルート!?と思ったけれどここでまさかの新キャラ登場…!
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