トナリアウセカイ(END?)
女の子とのフラグは一向に立たなかったが、毎日がそこそこに楽しかった。相変わらず黒ギャル集団には馬鹿にされるし、何故か担任のオーガ瑞沢にバイトしてるのがバレて精神的にボコボコにされるしバイトはクビになるし、駅前の居酒屋では変な姉ちゃんに絡まれるし、部活の後輩からは『もう来ないでください』とか言われちゃうし、原先輩のスカート覗こうとしてるのがバレて鬼のようにキレられるし、変な女からはよくわからん勝負を挑まれるし、あと、それから……まあ、あとはいいや。心のオアシスはめぐだけだ。
春が終わって夏が来て、秋が過ぎて冬が来る。時間はぐるぐる回るも、大した変化はなかった。嫌ってわけじゃあない。ただ、考えることが増えた。
例えばあの時、ああしていれば、こうしていれば、俺はもっと、違う風に学校生活を送れていたんじゃなかったのかなあって。いや、過去を振り返ってもどうしようもない。何故ならば、時間は決して逆向きには進まないからだ。前を向いて進むんだ。人間ってのはそういう風に出来ている。
だから、願わくは、俺じゃない俺が、こうはならないことを望む。いや、それは違うか。俺は決して今の自分を否定するつもりはない。今の俺が最高なんだ。ただ、少しだけ見てみたい気もする。俺じゃない俺が、どんな風に過ごせたのかを。
「そろそろ卒業だな」
「ああ」と、俺は短く答える。
優人は彼女からもらった手編みのマフラーを愛おしげに撫でた。俺は樋山くんと頷き合い、そのマフラーにこっそりと解れを作った。
校門を出て、坂道を下る。雪の混じった強風が容赦なく吹きつけてくる。ああ、人恋しい。いつの間にか3人で行動するのが当たり前になっていた。特に、樋山くんは冬場だと重宝する。
「俺らも3年で、受験生なんだよなあ」
「なんだよ石高。急にそんなこと言い出してさ」
「いや、去年の春くらいは、もっと何も考えてなかったなあって。優人には女なんかいなかったし、まさか樋山くんがあんなことになるとは思いもしなかったよ」
樋山くんは顔を歪めて、その話はやめてくれと頭を下げた。これから先、こいつを弄るネタには苦労しなさそうだ。
「石高は何も変わらんな」
大学生になっても、このまま変わらないのかなあ。変化を求めるのは罪ではない。だけど、努力もしないで現状を憂いて、嘆くのは何か違うような気がする。
「なあ、俺たち、ずっと友達だよな」
俺はぽつりと呟いた。優人も樋山くんも、少しだけ驚いていた。ふっ、何を当たり前のことを……とでも言いたげな目をしている。
「いや、どうだろうな。俺と樋山は大学同じだけど、石高はFランじゃん。あと、彼女が東京に行きたいっつってるから同棲すっかも」
おい。
「俺もわかんねえなあ。石高って基本クズだからさ。縁を切られる前にこっちから切った方が精神衛生上よさそうだし」
「おい! お前らホントなんなの!? そこは嘘でも言っとけよ!」
「あー、分かった分かった。俺たちは友達だよ、ずっとな」
「お前がアクゼリュスを崩落させない限りはな」
こいつら……照れ隠しで言っているのか、本心で言っているのか。
「しかし、アレだな。なんか今のギャルゲーのバッドエンドみたいなシーンだったよな」
「ああ、ズッ友エンドね。誰ともフラグ立てられないで終わるってやつ。けどさあ、普通にプレイしてたらまず見ないよな。1の幼馴染か、2の委員長を狙わない限りは」
「基本的にノベル系だと攻略したいキャラ追っかけてればいいもんな。シミュレーションだとパラメータ足らなくて詰むとかあったけど」
いやあ、そもそも、攻略対象のヒロインとすら出会ってないからね、俺。エアヒロインはめちゃめちゃいたけど。脳内で超戯れてたけど。
願わくは。
俺じゃない俺は、もっと上手くやった方がいいと思うぜ。こういうのも悪くないけど、どうせなら可愛い子といちゃつきたいもんな。