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月女神の庭で。  作者: 祐多
第一章
8/31

街──2

 





 見上げると首が痛くなる建物。──それがルラのギルドに対する第一印象である。



 赤い煉瓦造りの建物は、どこか可愛らしい。木製の扉は開け放たれており、一歩中に踏みいると、そこは冒険者たちの憩いの場となっていた。


 酒場になっているようだが、酔っ払って誰かに絡む者はいない。──酔っ払いが他の冒険者の手によって追い出されているのが見えた。憩いの場の空気を乱す者は、追い出されるのだろう。



「受付はこっちだ」



 ケビンに連れられて酒場を横切るように歩く。ルラが足を踏み入れた瞬間、ざわめきが消えた。冒険者たちがルラを見ている。しかし、ルラに向けられた視線は嫌なものではなかった。こんな餓鬼こどもが、と絡まれるかと思っていたのだが、それはなかったのだ。憩いの場であるここの雰囲気を乱そうと思う者などいないのだろう。



「ようこそ、冒険者ギルドへ。本日はどのようなご用件でしょうか」



 ──受付にいたのは、美人さんだった。見惚れてしまうほど、美しい容姿をした若い女性なのだ。肩より少し長い金髪が緩く巻かれ、切れ長の目の澄んだ青い瞳は湖のよう。白い肌はシミひとつなく、桃色の唇は厚すぎず薄すぎずでほどよい。



 イケメンとやらに全く興味のない、それどころかイケメンの基準すらわからないが、美人は大好きなルラは頬を緩ませる。同性愛者なわけでも百合好きなわけでもなく、本命の男性は前世の世界の日本にいるのだが、それとこれとは別だ。



(転生してよかった!)



 心からそう思った瞬間である。



 肩にかけた黄土色のバックから何かがかかれた紙を取り出して受付嬢と会話をし始めたケビンには目もくれず、ほんわかとした気分で受付嬢を眺める。



(あぁ、目の保養っ)



 ──美人さんってすばらしい。



「……それで、そちらの方は──」



 受付嬢の青い瞳が、ルラに向けられた。自分の顔が僅かに赤らんだのが鏡を見ずともわかった。しかし、目の保養だ。そらすのは勿体ない。



「ギルド登録をしたくてっ……」



 受付嬢はにこりと笑んだ。まるで美しく可憐な花が咲くような、そんな笑顔である。



(目の保養っ)



 ルラは必死にだらしなく緩む頬を引き締めた。



「でしたらこちらにご記入をお願いします。文字の読み書きができないのでしたら代筆いたしますが」



 差し出されたのは一枚の紙だ。ちらりと見たが、文字は読めるし書けそうだ。代筆を断り、目を通しながら渡された万年筆で書こうと背伸びすると「こちらをどうぞ」と受付嬢に椅子を示された。……大丈夫だ、まだ身長は伸びる。


 椅子に座ると、何とか手の届く高さになった。



 『登録する前に』と題された注意事項が一番上に書かれていた。


『1 冒険者ギルドには、十歳未満の未成年は登録できません。


2 冒険者ギルドは、登録者が死亡した場合、一切の責任を負いません。…………』


 等々。十数個の注意事項が連ねられている。全てに目を通し、納得した上で登録しろということなのだろう。全て読んだが、問題はない。



 『氏名』、『魔法が使えますか』、『(使える場合)その属性をお答えください』、『主な武器』……等、ずらりと書かれている質問の答えを記入していく。



(名前はルラ、だよね。魔法は使える、と。属性? うーん、ホントのこと答えるとマズそうだから、……風と水、でいいかな。武器は……なんだろ、多分刀とかないよね。未定、と。年齢は……十二、かなぁ?)



 そんな調子で書き込んでいくと、これまたとてもファンタジーっぽいものを見つけた。



(『種族』っ! 獣人さんとかエルフさんとかいるんだよねっ)



 女性からもらった知識を引き出して、何となく自分の耳を触り、──硬直した。



 ──自分の耳が、長いのだ。



(エルフっ!?)



 硬直したルラを不思議そうにケビンが見ている気がしたが、それどころではない。



(まさかの自分がエルフなパターン!? ……や、まて、ちょっと待つんだ私)



 女性からもらった知識を思い返したルラは、気が付きたくもないことに気がついてしまった。──エルフは森属性が使えるが、その代わり火や雷や闇といった攻撃的な属性は使えないはずなのだ。



(え、じゃあ私って……)



 ──エルフのように耳が長く、それでいて攻撃的な属性が使える種族。一つだけ思い当たるものがあり、血の気が引いた。



(翼族…………っ!?)



 白い翼と長い耳を持つ彼らは、個体数数百という絶滅に瀕した、しかし寿命が長い故にその危機感を抱いていない種族。強大な力を持ち、美しい容姿をしており、背にある翼はその者の意思で消したり生やしたりが可能である──らしい。



(…………え゛)



 ──今のルラに翼は生えていないはずだ。見ていないからわからないが、少なくともケビンやジンや受付嬢は、ルラを翼族だとは思っていないだろう。女性のくれた知識によれば、翼族は個体数の少なさから、街を歩けばすれ違う人全員に振り返られるらしいのだ。



(……あとで確かめよう。もしかしたらチートなエルフかもしれないし)



 属性欄に風と水と書いていたことに安堵しつつ、種族欄はエルフと書いて埋めたのだった。




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