道
「ルラは何であんなところにいたんだ?」
「あー、えっと……」
──ルラは今、御者台に座っている。街にいくなら乗れ、と嬉しい提案をされたからである。
足が痛くなったわけでも疲れたわけでもないのだが、乗せてもらえるなら乗ろう、と長時間広い草原を歩いていたことにより人恋しくなっていたのもあって、喜んで乗ったのだ。
しかし、言葉が理解できてよかった、と今更ながらに思う。彼らの口から出る言葉は日本語とは似ても似つかない言語なのだが、何故か理解できるのだ。これもあの女性のおかげであろう。
だが、そのせいで今ルラは困っていた。何故草原の馬車道を一人であるいていたのか、説明ができないからである。
異世界から来た、などと言ったところで信じてもらえるか疑問であるし、下手をすれば頭のおかしい人だと思われて終わりである。
「……色々あったんです」
理由が思い付かず、目を伏せてそれだけを告げれば、何をどう誤解したのか、行商人のジンは慌てたように謝ってきた。
「悪い! 浅慮だったな……」
手綱から右手を離し、ジンはルラの頭を撫でた。──もしかしたら、住んでいた村が魔物にでも襲われて着の身着のまま逃げてきた、とでも思われたのかもしれない。それなら好都合だ。多少良心が痛むが、誤解されたのならばそれを利用しよう。
「いえ、気にしないでください」
にこり、と笑えば、痛々しいものを見たかのようにジンは顔を歪めて、しかし、笑みを返してくれた。……彼の表情に、胸がちくりと痛んだ。
「……なぁ」
不意に冒険者のケビンに話しかけられて、ルラ振り返った。澄んだ緑の瞳が、ルラを見返している。
「街に行って、どうすんだ?」
「……冒険者になろうかと」
──どこに行っても旅をしながら稼ぐことのできる職業、と考えると、それが一番だろう。あの女性からもらった知識で薬師をするという方法もあったが、あの知識がどこまで通用するかわからない以上、より確実に金稼ぎができるであろうのは冒険者だ。
「そんなにちっけぇ身体で大丈夫か?」
まさか前世の自分よりも年下の少年に心配されるとは思ってもみなかった。しかし、思い返せば今のルラの外見年齢は十二、三歳であり、心配されて当然である。
「魔法があるから大丈夫です」
癌が発覚する前までは、剣道部などという部活についていたルラ。あれがどこまで通用するかわからないが、多少は使えるだろう。だが、それを言ったところでケビンは疑うはずだ。そして心配されたままになるに違いない。ならば、魔法が得意であるとほのめかした方が、心配も和らぐはずだ。
「魔法が使えるのか! なら多少は……」
魔法が使える?
それに関して驚くということは、使えない者もいるということだ。……あの女性からもらった知識には、魔法の使い方に関しての情報があったが、使える者と使えない者がいるという情報はなかった。
ならば、どれくらいの頻度で使える者が生まれるのだろうか。これに関しては調べておいた方が良いのかもしれない。
「……街についたらギルドに案内してやる」
ぶつぶつと何かを呟いていたケビンが、こちらを向いて告げた。これはありがたい。ギルドの場所は誰かに場所を尋ねなければと思っていたのだ。
「ありがとうございます」
笑顔で礼を言うと、ケビンは照れたのか顔を赤くしてそっぽを向いてしまったのだった。
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