罪
──なんて、簡単に殺してしまったが、罪悪感がないわけではない。ウサギの肉を火属性魔法で焼いて──この火加減が、また難しかった──食べ、腹が満たされると、その罪悪感はさらに大きく膨れ上がった。
だが、泣いたって何したって、ウサギが生き返るわけがない。それに、日本で生きていた時だって、牛や豚や鳥をよく食べていたのだ。魚すら捌いたことのなかった少女が初めて捌いたのが、可愛らしいウサギだったとにより、罪悪感が助長されただけだ。
──自分にできることは、このウサギに感謝をすることと、このウサギの分も頑張って生きることなのだ。
滲み始めていた涙を拭い、道の脇に置いた大きな葉の上に乗せた解体したウサギに手を合わせた少女は、頭を下げながら口にする。
「ごちそうさまでした」
その言葉の意味を、これまで以上に感じながら。
* * *
再び歩き始めた少女は、暫くして背後から迫ってくるものに気がついた。
振り返れば、一台の荷馬車が少女が向かう方と同じ方向に向けて走ってきている。御者台に男性らしき体格の良い人物が座り、荷台にも一人、何か武器のような物を抱えた少年が座っている。
──行商人、だろうか。道の真ん中を歩いていた少女は、道の端に寄った。
「──お嬢ちゃん、一人かい?」
少女には目もくれず通りすぎると思っていたのだが、少女の近くまで来た馬車は速度を落とし、御者台に座る男が話しかけてきた。
「はい。……えっと、行商人の方ですよね」
「あぁ、俺は行商人のジンだ。後ろにいるのは冒険者のケビン」
「……どうも」
ジンと名乗った髭面の行商人の言葉に、ケビンというらしき冒険者の少年がこちらを向いた。
ケビンが持っていたのは、大きな剣だった。持ち手に何重にも布が巻かれていて、使い込んでいるのがわかる。
──少女は行商人と冒険者の名前以上に、気になってしまったことがあった。……それは冒険者、ケビンの髪色である。
見事なまでに鮮やかな緑色をしていたのだ。染めている色合いではない。自然な色合いの、しかし鮮やかすぎるほどの緑色。
彼の目も同色だった。幼いながらになかなか整った顔立ちをしている、という事実に気がつく前に、そちらに目がいってしまったのである。
ちなみに行商人、ジンの髪色は茶色で、瞳は薄い灰色。こちらは地球でもあり得ないことはない色だろう。
──予想以上にファンダジーだ。
「君の名前は?」
「………児良、」
名字を口にしたところで、少女は思った。──彼らに名字はない。もしかしたら、この世界では名字を持つ者の方が少ないのかもしれない。しかし、それに関しての知識は、女性からもらっていなかった。この世界では当たり前すぎて与えられなかったのかもしれない。
しかし、それならば、フルネームで自己紹介はまずいだろう。
「ルラ?」
幸いにも、少女の名字は名字とも名前ともつかない不思議な響きをしている。
「はい、ルラです」
──児良 珠奈という名前を名乗ることは止めて、これからはルラと名乗ろう。
少女──ルラは、そう決めたのだった。
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