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月女神の庭で。  作者: 祐多
第一章
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「どっちいけばよかったんだろ……」



 適当な方角に足を踏み出した少女は、今更ながら後悔していた。歩けど歩けど草原が続くのだ。


 暑くもなく寒くもなく、ほどよい気温。草原の植物は、甘い香りのする花をつけている。季節的には春なのだろうか。何にせよ、夏や冬でなくてよかった。ここは、夏ならば熱い太陽光に晒され、冬ならば寒い風に晒されるであろう草原なのである。


 しかし、あの女性がくれたこの身体は、この気温にあった服を纏っていた。夏や冬であったら、それにあう服装になっていたのかもしれない。



 薬の材料になる野草を摘みながら、前へ前へと進んでいく。歩き始めて数時間が経過しているはずだが、未だに魔獣や動物に遭遇していない。もし狂暴な生き物に遭遇したら、自分はその生き物を倒すことができるのか、と不安になる。



「まあ、その時はその時さ」



 ──他の命を犠牲にしなければ、人は生きていくことはできないのだ。こうして野草を採るという行為も、 植物という生き物の命の一部をもらい受けているのだ。それを考えれば、自らの意思で動くことのできる生き物──動物や魔獣の命を奪うことも、罪悪感を抱きながらもできるだろう。




 草原が広がるだけであった景色の端に、あるものが映りこんだ。──道だ。舗装は全くしていない。それもわだちがある。


 女性からもらった知識によれば、この世界には自動車というものが存在しない。ならば移動手段は、と問われれば、馬車や馬、中型から大型の頭の良い魔物である。つまり、この轍は、馬車によるものなのだ。


 道の延長線上に目を向ければ、街らしきものが朧気おぼろげに見えた。思わず小さくガッツポーズを決める。少女は口元を緩ませて、馬車道を歩き始めた。



 馬車道を歩き始めて暫くして、ぐぅ、と何かが鳴る音がした。──少女の腹の音だ。



「お腹すいたなぁ……」



 草原にいた少女は、排泄はできても食事はできなかったのだ。排泄という行為も少々勇気がいったが。それにトイレットペーパーなどというものが存在するわけがないために、水属性魔法を応用させて股を綺麗にしたのだった。




 閑話休題。



 腹が減ったが、食べるものがない。──考え込む少女の前方数十メートル先の丈の長い草が揺れた。ひょこり、と草の間から顔を出したのは、可愛らしい真っ白なウサギ。


 普通の女性、それも十代の少女ならば、可愛いだのなんだのと口にするところだろう。だが、少女の口から飛び出した言葉は全く違った。



「──肉っ!」



 ──腹を空かせた少女にとって、あれは食料だ。食料以外の何物でもない。


 少女の声に驚いて跳ねて逃げ出そうとしたウサギに、少女は魔法を使うこともなく飛びかかった。捕まえたそれの首の皮を持って持ち上げた少女は、不敵に笑う。


 風属性魔法でウサギの首を撥ね、女性からもらった知識に従って解体し、血抜きをする。──こうして少女は、初めて虫以外の動物の命を奪ったのだった。



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