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月女神の庭で。  作者: 祐多
第一章
3/31

 




 ──眩しい光が、少女の瞼を刺激した。ゆっくりと目を開ければ、澄んだ青い空と、力強く輝く太陽が目にはいった。



 少女は柔らかな何かの上に寝そべっていた。草の特有の匂いが、鼻を刺激する。



「……ここは」



 右手をついて起き上がると、そこは草原だった。地平線が遥か彼方に見えている。


 ゆっくりと立ち上がり、辺りを見回す。左手に森が見えるが、遠近感覚からしてここから数十キロは離れているだろうと思われる。


 そのようなことよりも、自分の身体が自由自在に動くことに、少女はなによりも驚いていた。常に呼吸器をつけられていて、話すこともままなれなかったはずの口から、声を発することもできている


 しかし、その声は、記憶にある自分のそれとは全く違っていた。十代の子供にしては低くしゃがれた、美声とはとてもではないが言い難い、質の悪い声だったはずが、滑らかでしっとりとした綺麗なアルトの声になっていたのだ。


 出そうと思えば、小さな頃から憧れていた、澄んだソプラノ声というものも、病室でよく聞いていた男性ポップ歌手の甘いテノール声も、再現ができそうな気がする。



「…………そうか、私、転生したんだ」



 少女は広大な草原で、小さく笑みを浮かべたのだった。






 * * *





「さて……、ここはどこだろ?」



 転生にあたって、一般常識であろう知識は、あの頭の中にあった。あの女性がくれたのだろう。しかし、それに付け加え、薬草やら薬になる魔物や動物やら に関しての知識までくれたにも関わらず、この場所がどこであるのかがわからない。



「んむぅ……」



 考えたところでわかるはずもなく、少女はそれについて考えることを放棄し、他のことについて考え始めた。



「しっかし、魔法があるのか……。吃驚びっくりだよ全く」



 魔法に関しても一般教養的知識がある。ならば試しに、と魔法を使ってみた。


 炎が燃え上がるのを想像しながら、呟いた。


「“火よ”」



 指の上に小さな炎を灯す──という魔法なのだが。


 ゴウっと凄まじい音をたてて、少女の指先に炎が現れた。……しかし、その炎は巨大すぎたのだ。


 火炎放射機か何かのように、少女の指先から炎が放たれたのである。──顔を近づけていたら、間違いなく皮膚が焼けただれていたであろう。



「うわっ何これ! ちょ、ちょっと止まれよっ!」



 叫んだところで止まるわけがない。焦ってその指先を向けてしまった先にあった草原が、燃え始める。



(れ、冷静に! 冷静になるんだ私っ!!)



 指先を上空に向け直して、その場から退き、ゆっくりと考えれば、止め方はすぐにわかった。


 止まるところを想像すればよいのだ。


 漸く指先から噴射される炎が消え、まだ燃えている草原に手のひらを向ける。



「えーと……、“水よ”?」



 手のひらから現れた水の塊は、燃え広がっていく草原の中央に落ちて、水飛沫が飛び散る。火は呆気なく消え去った。どうやら、しっかりと規模まで想像する必要があるようだ。



 ──あの女性からもらった知識によれば、魔法には属性というものが七つあり、人によって使える属性と使えない属性があるらしい。それとは別に、万人が使える無属性と呼ばれる属性や、使えるものなどごく僅かである空間属性や時属性や森属性等も存在するようだ。



 少女は今、七つの属性──火、水、風、土、雷、光、闇──のうち、火と水が使えることがわかった。ならば、と手のひらを上に向ける。



「“風よ”!」



 小さな竜巻のようなものが、少女の手のひらの上で発生した。



「 “土よ”!」



 手のひらを地面に向けて叫べば、地は隆起して少女を持ち上げた。



「“雷よ”!」



 指先を遠くの雨雲に向ければ、雷鳴が轟いた。



「すごい……」



 少女は五つもの属性を使えたことに驚き、そして喜ぶ。これならば、旅をするのも多少は楽になるだろう。光属性と闇属性が使えるかも試したかったが、良い魔法が思い付かず、付け加え五つも属性が使えれば十分であると判断し、少女はあっさりと諦める。



「じゃあ街に向かって歩こうか」



 ──属性の知識や魔法の基本的な使い方は知っているが、どのような魔法があるのかわからない。ギルドというものに登録する必要があるようだし、食料的な問題もある。


 少女はこれから待ち受けているだろう楽しい日々に期待を膨らませながら、街に向けて一歩踏み出したのだった。




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