護衛──6
「な、なっ……」
男は狼狽していた、明らかに。魔法を避けられるとは思っていなかったらしい。
薄情なことに、男の仲間は知らん顔をしてとっくに通りすぎていっている。もしかしたら、素行が悪いのはこの男だけなのだろうか。
「避けるな!」
「避けるさ、普通」
ギースは呆れたような目を男に向けていた。「何をいっているんだこいつは」なんて言いたげな瞳を。
「お前、俺のこと知らんな……?」
ギースの口調から読み取るに、やはり彼はそれなりに有名らしかった。それもそうか。Dランクで一人前と認められる世界で、彼はCランクなのだ。国ではそこまで名は広がっていないであろうが、長期間街にとどまったりしていれば、あっという間にその活躍は街の人々に知れ渡るだろう。
「お、お前みたいな雑魚の名前なんか、知ってるわけがないだろうが」
だが、依然として、男は彼の実力を認めたくはないようであった。
よく今まで冒険者として生きてこれたな、と思ったのはルラだけではないだろう。情報収集が甘ければ(ルラも人のことは言えないが)、思考能力もない。一歩間違えれば『死』が待っている職業によくついていられると思う。
ほんの僅かに、たとえばあくび一つした隙に、強い魔獣に襲われでもしたら、死が待ち受けているのだ。平和な世界──日本なんてところで生活していたルラでも、そんなことはすぐに理解できた。死と隣り合わせの、ほんの僅かな考えの甘さすら命取りなる職種であると、すぐに悟ったのだ。
(まぁ、あんなのに襲われれば、理解できない人なんていないだろうけど)
思い出すのは、こちらにきて初日に森から出たルラに襲いかかってきた闇狼。漆黒の毛皮を身に纏った獣は、獰猛で恐ろしかった。
しかし、あれと遭遇したからこそ、今のルラがあるのだ。日本と違い、助けを呼んでも手を貸してくれる者などこの世界にはほとんどいない。手を貸したら貸した人もほぼ確実に危険にさらされるからである。
だが、どうやら、子供には多少甘いところがあるようで、ルラには何人か手を貸してくれた人がいたが。
「それなら教えてやろう。俺はチーム『竜鱗』のリーダー、ギース。ランクはCだ」
──男の顔が、一瞬にして強張った。ルラの腕から手を離し、よろよろと退く。
「な、なんでCランクがここに……っ!」
「Dランク依頼としてチームで受けただけだ」
形勢はあっという間に逆転した。
ギースは最初からこの方法で男を止めようとしていたのだろう。どこか満足げな表情で口を開く。
「俺の前でこいつに手を出さないこったな。次やったときは…………覚悟しておけ」
凄みのある顔と脅しの言葉。男が小さく悲鳴のような声を漏らしたのを聞いて、ギースはルラの肩を抱き、少し離れてしまった皆のもとへと足早に歩き始めた。
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