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月女神の庭で。  作者: 祐多
第二章
24/31

護衛

 




 冒険者御用達の店に向かうと、可愛いげのない黄土色やらなんど色やらのフレームザックが並んでいた。値段は高く、一番安いもので銀貨十八枚。高いものでは金貨数枚と、目が回りそうな金額だ。

 受付嬢(美人さん)曰く、地面に直接寝たくなければ一人用の小型テントを買った方が良い、とのこと。土属性魔法で洞窟的なもので雨風を凌いだり、無属性魔法の結界でも同じようにどうにかすることはできるのだが、人前でそれをするのは避けた方が良いだろう。どうもルラの魔法は普通ではないらしいのだから。


 何れ一人でふらふらと旅をすることも念頭におくとなると、十数日分の食糧もはいるようなものの方が良い。

 そこまで考えてふと思う。



(魔法でなんとかならないかな)



 荷物をなくしたいわけではない。しかし、万が一のこと──盗賊か何か襲われて荷物を全てなくたらと考えると、大切なものは絶対に守れるようにしておきたい。

 数日前に、空間属性とやらが存在すると知った。あれが使えれば、物を仕舞うための亜空間と言われるものが作り出せるはずだ。

 あとで適性があるかどうか調べてみようか、と考えながら、手を伸ばした先は檜皮色ひわだいろのフレームザック。

 大きさ的に少し小さめで、これならばルラの身長でも問題なく背負えるだろう。値段は銀貨二十枚だ。



「お買い上げですか?」


「え、……あ、はい」



 上からかけられた声に顔をあげると、長身の男が立っていた。ひょろりとした体型から戦闘には向いていないと思われる。……こんな街中の店で体格のいい『にーちゃん』が店員をしていたら、転職を進めたくなるが。

 声をかけられたついでに、と口を開く。



「一人用テントって売ってませんか?」


「ありますよ。こちらです」



 手に持っていたフレームザックは「お預かりします」と取り上げられ、案内されたのはテント──というよりも金属か何かでできた棒と防水性らしき布がいくつか置かれている場所。



(え、これテントなのか……?)



 キャンプに行った経験も、山登りをした経験もある。しかし、ここまで簡素なものは初めて目にした。というよりかむしろただの棒と布にしか見えない。



「こちらのテントは──」



 口をぽっかりと開けたまま店員の話を聞き流す。──無理だこれは。一人で立てる自信がない。


 しかも木札に書かれた値段は、フレームザックの数倍である。財布の中身的にも無理だ。



(……諦めようか、うん。毛布余分に買って誤魔化そうか)



 テントを諦めたルラは、まだ話を続けようとする男性店員にそのむねを告げたのだった。





 * * *




「つっかれた……」



 宿の部屋に戻ったルラは、大きく息を吐き出した。必要なものを揃えるのに、街を歩き回ったのである。依頼を受けて魔物の討伐をするよりも、薬草採取で小指の爪の四分の一の大きさの花を探すよりも、疲れた。どうもルラには買い物という作業は向いていないらしい。


 今日買った物や生活必需品をフレームザックに詰め込み、空になったデイパックに目を遣る。捨てるには勿体なく、愛着の沸いてしまったがために売り払う気も起きないそれを手にとって考え込む。このまま持っているのは荷物になるだけなのだ。



「あ、空間属性魔法」



 まだ試していなかったことを思いだし、指をならす。……否、ならないが。かすったような鈍い音がしただけであるが。


 七つの属性がすべて使えることはわかっている。ならば、空間属性とて使えてもおかしくはない──という根拠のない理由から、ルラは試そうとしている。それに、あの女神様がこの身体を与えてくれたのだ。空間属性くらい使えそうである。



「んーと、“亜空間”?」



 想像するは空間の裂け目とやら。どこでも開けて、入れたものはどこででも取り出せる不思議な空間。開けるのはルラ限定。中の時が止まっているとなおよい、という願望は食べ物を好きなだけ入れたいがためである。


 それはあっさりとルラの目の前に現れた。黒い裂け目は口のようにもごもごと動き、ぱかりと開く。恐る恐る中を覗くと、真っ白な空間が広がっていた。



「……成功?」



 試しに後でかじろうと小さな木机に置いていた丸い桃色の果実を手に取り、その中に入れて、亜空間の口を閉じてみる。

 座っていたベッドから下りて、部屋の出入口付近で亜空間の口を開けると、先程入れた丸い果実が転がっていた。──成功である。


 これならば、と女物の服を脱ぎ、魔法で綺麗にしてから畳んで亜空間に放り込む。寝間着代わりの質素な服に着替えてから、財布の代わりの小さな袋から、この一月で貯めた銀貨四十枚を取り出して、綺麗に積み上げて入れる。これで財布の中身は銀貨五枚と半銀貨一枚、銅貨二十二枚に半銅貨三枚だ。

 女物の服を入れておいたのは、男装して行動するのに邪魔になるであろうという判断からである。街の門というのは荷物検査をするところがあるらしく、男姿で女性の服を有しているのが見つかれば、変に誤解されそうだ。



「さぁて、さっさと寝るとしようかね」



 窓の外に見える月を一瞥し、木製の窓を閉めたルラは、大きく伸びをした、




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