刀──2
「綺麗……。振ってみたいんですが、試し斬りができる場所はありませんか?」
「店の裏にある。案内する」
ルラに背を向けて歩き始めた彼のあとを追うと、武器屋の裏に出た。建物に囲まれたそこは、日の辺りが悪くじめじめとしている。
ドワーフの男性の手によってルラの前に用意されたのは、藁のようなものが束ねられたものである。
「これを斬れ。斬れたらそれはやるよ。斬れなかったら……、出直してこい」
やはりただ譲ってくれるだけのつもりではなかったらしい。あの藁らしきものの束が斬れないようでは、どちらにしろ刀を実践で使えるような腕前ではないのだ。
ルラはゆっくりと紅の刀の柄を両手で握り、腰を落として構えた。──居合いでもよいのだが、両手で思い切り振りたくて、ルラは鞘をドワーフの男性に預けている。
──静寂が漂った。
風が耳元を吹き抜ける音が、草木の若葉が揺れて擦れる音が、妙に大きく聞こえる。舞い散る淡い青い小さな花びらも、ひらひらと飛ぶ淡黄色の小さな蝶も、目に入らない。ルラは藁のようなものの束だけを見据え、深呼吸を繰り返す。
──不意に。
緩慢な動作で刀を振り上げると、素早く振り下ろした。
気持ちのよい音が響く。直後、藁らしきものの束の上半分が、斜めに斬られた断面を滑るように落ちた。
綺麗に斬られた断面を見て満足し、ドワーフの男性を振り返る。
「見事」
「ありがとうございます」
一言だけの誉め言葉であろう台詞に一礼する。ドワーフの男性が差し出してきた紅の鞘を受け取った。
「約束通りそれはやる」
踵を返して店の中に入っていく彼を慌てて追いかけながら、ルラは不思議に思っていたことを訊ねた。
「あの、この刀を買う人がいないっていうのは、どうしてなんですか?」
再び武器庫に入って行こうとしたドワーフの男性は立ち止まり、ルラを振り返った。その顔は、怪訝そうにしかめられている。
「そりゃあ、この辺にそれを扱えるやつがいないからさ。ディーツゥッア国は遠いから滅多にこっちまでくるやつぁいない。それだって、昔ここに来たディーツゥッア国の出の男が、金がないからって売ったものさ。それ使ってギルドで稼ぎゃあいいと思ったんだが、刀はあってもそれを使う力量はなかったんだろうな」
──ということは、本当にたまたま売っていただけらしい。ルラは運が良かったのだ。
「今、そいつを帯刀するためのベルト探してくるが……、背負わねぇと今の嬢ちゃんの身長じゃ、ひきずりそうだな」
譲り受けることになった刀は、反りの大きい太刀と呼ばれるものだ。ルラの今の身長では、八十センチほどのそれは、確かに腰につけたらずってしまいそうである。
ドワーフの男性がルラ用に持ってきてくれたのは、腹周りと肩に斜めにかける革製のベルトだった。右肩、左腰、右左横腹の四点で刀を固定する形となっているため、これならば激しく動いてもずれないだろう。
腹部のベルトと肩から腰のベルトをそれぞれ調節してくれた。今後も成長するだろうとあまった部分は切らずに縫い付けてくれた。
暫く時間がかかったが、調節の終えたベルトは無料でルラにくれた。彼曰く、冒険者ギルド登録祝いらしい。
さっそく刀を背負い、ドワーフの男性に礼を告げて外に出る。
西の空が薄らと朱色に変わり始めていた。凶も香ばしい良い匂いが、ルラの鼻孔をくすぐる。
旨そうな肉の炒めものを見つけたルラは、早まる気持ちを抑えきれず、足早に歩いていった。
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