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月女神の庭で。  作者: 祐多
第一章
16/31

 



 ぼんやりと薄暗い中、ルラは目を覚ました。一瞬ここがどこかわからず、ベッドの上に座ったまま部屋を見回す。



「あぁ、そっか……」



 質素な作りの机や棚や自分が座っているベッドを見て、思い出した。茶褐色の毛布を畳んで、藁のベッドから降りる。

 机の上の水差しから直接水を飲み、それを手にしたまま隙間から日差しの差し込んでいる窓を開け放った。


 目が眩みそうな朝日と、騒がしいまでの喧騒が、一気に部屋の中へ入ってくる。冷涼な朝の空気が、ルラの身体を包み込んだ。

 行き交う人たちは、カラフルな髪色をしており、時折馬や犬ではない見知らぬ獣を連れた人も見受けられる。馬車の大半は荷馬車で、その御者台に座るのはなかなか身なりの良い商人とおぼしき者たちである。


 香ばしい匂いや、甘い匂いが漂ってきて、ルラは腹の音を鳴らした。



「……ご飯食べよ」



 そのままの格好で寝てしまったが故に、しわになってしまった黒いマントを伸ばし服の乱れを整えて、手にしていた水差しを机の上に戻してから、ルラは部屋を後にした。


 昨夜は暗くて気がつかなかったが、一階の奥には食事をとるためのスペースがあった。宿に止まっている客らしき者たちが、談笑しながら食事をしている。昨日、ここにルラが来たときは、すでに夕食は終わっていたのだろう。



「あぁ、起きたのかい。飯の前に顔を洗っといで。あっちに井戸がある……手拭い、かしてやるな」


「おはようございます。ありがとうございます」



 給仕をしていた宿の主人であろう昨日の女性は、ルラに手拭いをかしてくれた。どんなぼろぼろのものが出てくるのだろうと思ったが、思ったより綺麗な白い手拭いだった。

 ありがたくかりて、案内された通りに宿の外にある井戸へ向かう。紐で繋がれた桶を放り込み、水を汲んで顔を洗った。



 ──皮膚が切れそうなほど冷たい。おかげで頭が完全に冴え、さっぱりとした。



 水気をかりた手拭いで拭いとり、宿へ戻る。女将に手招きされ、適当な場所に座らされると、持っていた使用済み手拭いを取り上げられて、女将は満足げな笑顔を浮かべて去っていく。すると同じテーブルで朝食を取っていた人たちが話しかけてきた。



「始めて見る顔だね? 最近この街に来たの?」



 パンを片手に、笑顔で話しかけてきたのは、そばかすのある少女だ。歳は今のルラより幾分か上だろう。鮮やかなオレンジ色の髪の毛は癖っ毛で、肩にかからないだろう長さであるが二つに分けて縛っていた。縛られた髪がくるんと曲線を描いている。



「はい、昨日来たばかりです」



 彼女の若葉色の瞳を見つめて、ルラは答えた。猫のような形の目で可愛らしい。低い鼻も小さな唇も、男の庇護欲をそそりそうだ。日焼けした健康的な肌や動きやすそうな格好が、彼女が冒険者であることを示していた。



「へぇー! あたしニイナっていうの。 宜しく! 暫くここにいるから、見かけたら声をかけてほしいかな」


「ルラです。こちらこそ宜しくお願いします」



 この世界で初めての友達になりそうだ。ルラは反対側に座る彼女に、右手を差し出した。ニイナは快く握手に応じてくれた。



「俺はヘインだ。ニイナとチーム組んでる。こっちはロゼ。名前については突っ込まないでやってくれ。同じくチームメンバーだ。宜しく」



 ──チームとは、冒険者のチームのことだろう。昨日のギルド登録時には説明はなかったが、あの女性がくれた知識にはチームに関してのものがあった。


 一緒に依頼を受けるために組むものらしい。チームを組まずとも依頼は受けられるが、チーム優先が当たり前であるために、組んでおけばその次も同じメンバーで依頼を受けられる可能性が高くなるのだ。つまり、毎回毎回起こりうる人の取り合いを防止するための措置なのだろう。力のある人物ほど、取り合いのされる。しかし、チームを組んでしまえば、チームメンバーを止めない限りは取り合いは起きない。



 ニイナの隣から手を差し出してくるヘインに握手で答え、紹介されたルラの隣にいるロゼと会釈をし合う。

 指輪やらピアスやらを大量につけた細身の男がヘインで、がたいが良く無口そうな男がロゼだ。

 ヘインは二十歳ぐらいであろう。鮮やかなブルーの髪と瞳が、よけいにチャラチャラとしたイメージを与える。しかし、鋭い鷲のような目は威圧感があり、そのおかげか格好のわりに真面目そうだ。

 一方、ロゼは三十近いように見える。寡黙そうな印象のせいかもしれないが。見事に割れた顎と無精髭のせいかもしれない。こちらは瞳も髪も茶色である。



 ──髪や目の色は、なにか意味があるのだろうか。見ていて不思議だ。



「ルラは冒険者?」


「はい、昨日登録したばかりですが……」



 ベテランそうな三人の前で初心者発言をするのは、少々恥ずかしい。握手した手は、ニイナのものもヘインのものも、豆やたこができていて、冒険者らしかったのだ。顔を赤らめれば、ニイナがちょっとだけ笑った。



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