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月女神の庭で。  作者: 祐多
第一章
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「えぇっとGランクは……」



 依頼の貼られた掲示板が並ぶ酒場の壁で、ルラはきょろきょろと辺りを見回した。一番隅の出入口付近にGと書かれた掲示板を見つけて、足早に向かう。


 掲示板の前には数人の冒険者がいた。皆体格がよいのは、力がなければやっていけないからであろうか。ひょろりとした体格の者もいるが、それは魔法が上手いからなのだろう。



 おずおずと近づくと、ルラに気がついた冒険者の一人が、場所を空けてくれた。ぺこりと頭を下げると、厳つい顔に笑顔が浮かぶ。しかしながらその笑顔が怖い……と思うのは失礼だろう。



『内容:夜咲草の採取

期間:第五の月十七日まで

報酬:五本につき銅貨六枚

注意事項:背丈十センチ以上のものを、根さらお願いします。

依頼主:マティリヤ薬屋』


『内容:月光草の葉の採取

期間:第五の月十三日まで

報酬:三枚で銅貨五

注意事項:三センチ以上の葉にしてくれ

依頼主:ホーン』


『内容:引っ越しの手伝い

期間:第五の月三日と四日

報酬:半銀貨一枚

注意事項:腕力があって家具を壊さない自信がある人に来てほしい

依頼主:ステッド』


『内容:買い物の荷物持ち

期間:第五の月の間ならいつでも

報酬:半銀貨一枚と昼食

注意事項:朝の十時頃に来てちょうだい。お喋りがしたいからそのつもりで

依頼主:リース』


『内容:庭の草刈り

期間:第五の月四日

報酬:銅貨十枚

注意事項:火属性魔法で焼き払ってくれてもいい

依頼主:アーサー』


『内容:……』…………



 街での依頼が大半を占めていた。因みに第五の月とはもとの世界でいう五月である。月の日数も一年の日数も、地球と同じらしい。ちなみに曜日はもとの世界でいう日曜日から順に、太陽神の日、月女神の日、火の精霊の日、水の妖精の日、森の聖獣の日、金色こんじきの龍の日、地に落ちた堕天使の日、であり、省略して日曜日、火曜日……、最後は何故か土曜日と、こちらも地球とそうかわらない。時間は特に気にする者がいないため時計というものすら村や街ごとに一つぐらいしかないが、正午を太陽神の刻、深夜零時を月女神の刻、朝の六時を精霊の刻、夕方の六時を妖精の刻というらしい。



 それはともかくとして、さて、この中から選ぶとなると、どれがよいだろうか。


 買い物の荷物持ちというのは、報酬が良い。これは受けよう。腕力や握力的なことは大丈夫そうだ。今日あれほど歩いて疲れなかったのだから、この身体の身体能力は高い。腕力や握力にも期待が持てる。もし無理そうならば魔法で何とかするつもりだ。……依頼主がどのような人物かわからないが、名前からして女性である。男性でないのなら話し相手としても、特に問題はない。


 薬草の採取という依頼が無難そうである。夜咲草も月光草も夜に花をつける野草だが、花の採取ではないから問題はないだろう。



 夜咲草と月光草、それから買い物の荷物持ちの依頼をはがし、受付に持っていく。依頼を受けるための受付は登録する時と同じらしく、あの受付嬢のところは今は冒険者が列をなしていた。先ほどすぐに登録できたのはタイミングが良かったのだ。受付は一人ではなく三人もいるので、そちらへ並ぶ。……もう一度あの美人さんと会話をしたかったのだが、非常に残念である。ちなみに買い取りの受付は二人だ。


 受付で手続きをすませ──月光草の依頼が三週間以内と言われて、今日が第四の月の二十三日だと見当をつけた──、Eランクの掲示板の前にいる鮮やかな緑の髪の少年──ケビンを見れば、ルラに手を振ってくれた。自分のことは気にせずに行け、ということか。


 いつまでも一緒にいられるわけでもないため、小さく頭を下げて、一人でギルドから出た。



 ──まだ昼すぎだ。大通りの屋台から、香ばしいいい匂いがして、涎が出る。しかし、今のルラは貧乏だ。



(我慢だ。我慢するんだ私っ)



 異世界に来てから何度目かの自分に言い聞かせるという行動にバカらしくなってきて、一人で忍び笑いを漏らしたのだった。



 街から出ていく人の列は、昼過ぎであるからかあまり並んでいなかった。



「──門限は妖精の刻から二刻だ。妖精の刻になると鐘が一回鳴る。これをもっていなければ入れないから、落とさないようにしなさい」


「はい、わかりました」



 門番に身分を証明するものがないことを告げると、木でできた札を渡された。何やら紋章が刻まれているが、それが何なのかはわからない。


 あの女性の知識によれば、一刻は約一時間。つまり門限は八時ということである。依頼を終えたらさっさと帰ってくるつもりであるため門限を破ることはなさそうだ。



「行ってきます」


「気を付けるんだぞ」



 心配そうな門番──筋肉隆々の三十半ばの男性で、幼子なら怖がって近寄らないだろう容姿をしている──に手を振って、ルラは歩き出した。



 さあ、初めての依頼である。



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