白
――暖かい。
まるで柔らかな光に照らされているようだ。
少女は目を開けた。目にはいるのは『白』。ただそれだけ。しかし、冷たい感じはせず、むしろ柔らかく包みこまれるような色だ。
立っているのか横になっているのか分からない。水の中で浮かんでいるような感覚だ。何の音もせず、ただ『白』と静寂のみがこの空間を支配していた。
「目が覚めたのかい?」
この空間と同じような、柔らかい印象の声が、音のなかったこの空間に響いた。否、この空間はこの声の主自身なのではないのだろうかと、直感的に思った。声がした方を見れば、一人の女性が静かに微笑んでいる。
年齢はわからない。二十代の若い女性にも見えれば、五十代の落ち着いた淑女にも見える。陶器のように白い肌は滑らかそうで、腰まで届きそうなさらさらとした艶のある金髪は柔らかそうだ。しかし少女は、人間にはあるわけがないものが女性の背中にあることに気がついてしまった。
それは一対の純白の翼。きらきらと光輝いているそれは、神々しいまでに美しい。
女性の金の瞳と目が合う。彼女は驚くほどに綺麗に整った顔立ちをしていた。
「気分はどうだい?」
女性に訊ねられてから気がついた。
――少女は病気だった。末期の癌を患っていたのだ。薬の影響で髪は抜け落ち、吐き気が酷く食事も口から摂取できず、点滴で栄養剤を摂取する日々。げっそりとやつれて、ふっくらしていたはずの頬の肉も、削げ落としたかのようになくなっていた。身体中が痛く、自力で起きることも、それ以前に自発呼吸ですら満足にできず、病院のベッドからいつも空を眺めていた。
しかし、今は痛みも苦しみも感じない。柔らかい光に当てられているかのような心地よさのみを感じている。
「気持ちいい……」
小さく呟いてから、声が出たことに驚く。いつ以来だろうか、声を出したのは。口を開いたら吐きそうで、声を出す余裕すらなかったはずなのに。
そして、少女は悟った。――あぁ、自分は死んだのだと。
「そうか……」
女性はまた、静かに笑む。少女は意を決して女性に訊ねた。
「私は、死んだのですね」
「……あぁ」
女性は否定をしなかった。――少女は悲しかった。自分が死んでしまったことがではなく、両親に親孝行ができなかったことが。
それに、少女には恋人がいた。遅い初恋の相手であり、初めての恋人である彼のことが気掛かりだ。彼は少女が癌を患っていることが判明しても、ずっとそばに居続けてくれていた。――「君が死んだら、俺は後を追うかもしれない」。冗談のように口にしていたが、彼なら本当に自殺をはかるだろう。
「両親と彼のことが心配なのかい?」
ぴたりと少女の心中を言い当てた女性。少女は頷く。
彼女は一体何者なのだろうか。しかし、本能が彼女に逆らうことを拒否している。そして、自分では決して触れることすらできない存在であると、本能が訴えていた。
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