河合竜樹
言葉とは、とても無責任な奴だ。
中学だった頃担任が卒業式の日に「お前たちには無限の可能性がある!」
などと言い恥ずかしながら当時の僕はそれを真に受けてしまった。
その、教師が言ったことはただのきれいごとでありそこには何の根拠もありはしない。
そんな愚痴を頭の中で連呼しながら目はPCのディスプレイ、指はキーボードを叩いている。
24歳にして入社3年目、もう自分のパートナーと化した机やPCに挨拶までするようになってしまった。
どうだ!?ビビったか!!
そこそこの高校に行き、そこそこの大学に行き、そこそこの会社に就職。
これこそ夢のそこそこライフ!
なんてアホみたいなことを頭の中でしゃべりながら、何度も目を通した企画書に本日26回目の見直しをする。
部長に提出しても問題はないのだが、あの男は文字を読みやがらない。
とりあえず8回のやり直しの指示を出す事が自分の仕事と思っているのだろう。
あんなどこそかのジャングルにいそうなゴリラと養豚場にいるブタの顔を合体させたような顔についてあるその細い目は飾りか?飾りなのか?
自分の部署から出る企画書くらいしっかり読まんかぁ!!!
と声に鳴らない叫びを心の中で叫んでみるともっとイライラしてきた。
そんな男が自分の上司などとは認めたくはないが、現実とは時に残酷なものでいくら頬をつねってみても座っている男が変わる事はなかった。
26回目の見直しを終え、9回目の提出に向かう。
神妙な顔で企画書を差し出す。
部長は受け取るとしばらくの間、紙の束に顔を隠す。
読んでいるつもりなのだろうがページのめくれる音がいっさいしない。
このブタゴリラはその事に気づいているのだろうか?
とすばらしく失礼な事を考えながらじっと待つ。
2分後(ついでに企画書は45ページある)芝居が終わると「もう行っていいよ」と言って追い出すような仕草をする。
軽く礼をし「ありがとうございました」と言い終えると、さっそく帰る準備をする。
この会社で唯一良いところは、自由に出勤退勤ができるところである。
こうして今日も1日がすぎていく。