08,探偵助手登場
問題です。わたしは誰でしょう?
1から11の番号の中から答えなさい。
答えは後ほど。
「プチセレ」専属モデルを整理しよう。
1,アイリ……人気トップのカリスマモデル。21歳。猫族の子ども。全身で「かわいさ」を表現している。かわいいことが彼女の全存在理由。ウララグループ。
2,カノン……アイリと並ぶトップ人気モデル。19歳。アイリに憧れることを隠さない彼女の完コピ女。最近いい気になってアイリの不興を買っている。ウララグループ。
3,ウララ……みんなのお姉さんのベテランモデル。でもまだ22歳。大柄でモデルとしてはイマイチプロポーションが悪いが、愛嬌のあるパンダ顔で好感度ナンバー1。ウララグループリーダー。
4,ナユハ……落ち着いた大人のクールビューティーモデル。24歳。どんなファッションも自分色で着こなすパーフェクトなトッププロ。クールで、ちょっと近寄りがたい存在。来年度はお姉さん誌「LC」に移籍が決まっている模様。ナユハグループのリーダーなるも、本人にその意識は極めて薄いと思われる。
5,シズカ……美人度は極めて高い。23歳。姉御肌で、情に厚いところがある一方、気に入らないことはすぐ顔に出るところがモデルとしても欠点。素地が美人だけに不機嫌がすぐ険になって現れ、読者からも「怖い」と不人気。逆にそこが孤高のカリスマとして勘違いした人気を得ている節もあり。キャラ的にそろそろ「プチセレ」も卒業で、ナユハのように「LC」に移籍できるか崖っぷちにいる。カノンを毛嫌いしている天敵。当然シズカグループヘッド。
6,栗田ユウミ……栗田姉妹の姉。19歳。要領の良さそうな一見軽そうな女に見えるが、実は某トップレベル国立大生のインテリ。モデルとしてはバランスのよいオールマイティータイプ。ウララグループ。
7,栗田ユーノ……栗田姉妹の妹。17歳。モデルとしては姉の先輩。女子高生代表的キャラだが、実はかなりパンクな危ない性格。一触即発核弾頭娘。インテリな姉との関係は微妙。シズカグループ。
8,カグヤ……本人曰く白百合姫。25歳。どんだけ美容液に金かけてんだ?という美白に命を懸ける、目鼻立ちのくっきり整いすぎた人造人間1号。この見た目、年で何故いまだに「プチセレ」にいるのかは編集部の方針に「?」。きっと見た目に反する頭の軽さ故だろう。シズカグループ。
9,マイ……雪のような白い肌に細い小顔で目鼻立ちのくっきり整った人造人間2号。20歳。無口で感情の乏しいアニメ少女。もしくは妖精系不思議ちゃん。ナユハグループ。
10,ムツミ……ルックスだけのC級アイドル。20歳。ほんと、ルックスだけのグズ娘。会話を外して座を白けさせるある意味天才。2年くらいグラビアアイドルやってさっさと田舎に帰って結婚するのが一番幸せだった女。実は一番背が高く美味しそうなナイスバディー。悪い男に騙されなければいいけれど。ナユハグループ。
11,ユイ……ニューフェース。19歳。巷で話題の新規コラーゲンサプリ会社「真珠輝」の社長令嬢。マジで真珠のように輝く美白肌の京美人。でも長崎島民。ウララグループに加入の模様。
ちなみに順番はモデルのグレード順。ただし11番のユイは新参者ということでビリッけつにランクしているが、実態はシズカの次、6番くらいにランクしてもよさそう。
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7月も半ばになって梅雨も明け、プチセレモデルたちは8月の長崎の南の島バカンスに浮かれまくっている。ニューヨークだのハワイだのグアムだの韓国だのフランスだのしょっちゅう行っていそうなのに子どもの遠足みたいな浮かれようだ。自分磨きはいいけれど、新しいファッションや小物など、いろいろ必要経費がかさんでモデルって華やかな外見の割に貧乏なのよね。
11人全員参加。ここにマネージャーの宮澤葵さんと撮影チーム、スタイリストチームが付いて、20名は越すだろう団体様だ。
ユイの実家の「株式会社 真珠輝」が取材スポンサーについて、あちらでのサービスが楽しみだ。
さて。
ところでわたしも彼女には並々ならぬ関心を持っている。綺麗な子は好きだ。実はわたしは男より女が好きだ。貴重な初カミングアウトよ? わたしもモデルとして完璧ナルシストなので自分が一番好きだ。男なんかの物になってやる気はさらさらない。
彼女、いいわ。深いお友だちになりたいわ。
と思ってたんだけど、なんかちょっと、妖しい雰囲気なのよね、カノンと。
カノンってそういうタイプじゃないのよね。あれは絶対男好き。レズのわたしがそう言うんだから間違いない。わたしもハードレズじゃないけどさ、今のところ。
男好きのカノンがユイに近づく理由はただ一つ、アイリをコピーしたように、ユイの美白肌が欲しいのだ。
どうやらそれには成功したらしい。
ユイの白い肌はただ白いだけじゃなく、独特の透明な艶がある。皮膚の内側にエナメル質の層があるような、柔らかい輝きがあるのだ。ダイヤモンドよりも、まさに真珠。
ユイだけの物だったその独特の白が、今やカノンの肌にも宿っている。
カノンはこの上なく上機嫌だが、当然アイリは面白くない。
アイリはと言えば、ユイのサプリが切れたようで、すっかり元の肌に戻っている。なんとか追加のサプリが欲しいだろうが、大喧嘩を演じたらしい今となっては彼女を取られまいと始終べったりくっついているカノンが邪魔で取り入れないだろう。ま、8月になれば手に入るようだからなんとか我慢しているようだが。
そうそう、美白フリークのカグヤも姉御シズカの目を盗んでちょくちょくアプローチしているようだが、やはりカノンのガードがきつくてとりつく島がないといったご様子だ。残念でした。
わたしの関心のフォーカスはユイとカノンに絞られる。
わたしは彼女とだったらハードレズになってもいいと思っていたユイを取られてはなはだ面白くない。真似っ子カノンは趣味じゃない。
ユイがただ者でないのはテレビのCMを見たときから分かっていた。あの一見頭悪そなボケっぷりは、計算された物だ。いや、天然の演技者とわたしは見たね。あの口は平気で嘘をつく。ファム・ファタールだ。カルメンだ。あの口にならいくらでも嘘を吐かれたいわ。うっとり。彼女も絶対ナルシストで、レズの気が濃厚だが、わたしのような純情レズと違って相手を支配したがる女王様タイプだ。ちょっと妄想が先走りし過ぎかしら?
カノンとユイのカップルは、一見先輩のカノンが主導権を握っているように見えるが、フェイクね。絶対ユイが女王様よ。天然嘘吐きユイのことだから、カノンを上手に操っていい気分にさせているんでしょうね。ああ羨ましい。
ちぇっ、なんでわたしを選ばなかったのよ? あなたならわたしが同類だって分かったでしょう? もうっ、意地悪。
カノンはユイを取り込んだつもりで、逆に籠絡されている。
いきなりだがわたしは鼻づまりの気がある。モデルとしてははなはだ格好悪いがつい口を半開きにして呼吸する癖がある。で、いきなりだがレズのような特殊な趣味の人間はターゲットの匂いにことさら敏感だ。
わたしはユイの匂いを口で味わうように嗅ぐ。
ユイったら、独特の甘ったるい、苺のような体臭をしている。うふふふふふふ、パルファムなウッディーの香水で誤魔化してもわたしのエッチな舌の嗅覚は誤魔化せないのよ? 気になるのはよ、その中で特にエッチな生々しく青臭く生臭い妙に甘ったるい蜜のような臭い、例えるなら……正月の鯛のお菓子よ。え?なんのことやら分からない? ほら、あるじゃない、お正月に縁起物であるでっかいピンクと白の鯛の砂糖菓子。あれよ。え?知らない? うちの田舎だけかしら? ま、まあいいわ。溶かした砂糖を型に流し込んで固まらせる、あか抜けないべたっとした生臭さがあるのよ。親戚からもらってもそんな甘いお菓子食べきれないで困っちゃうのよね。ま、まあいいわ。
その独特の生臭い蜜の臭いが、カノンからもするようになったのよ。……やっちゃったのね、二人……、ちぇっ。
でも疑問なのよね、その臭いって、体をくっつけたくらいで移るような物じゃないのよね、もっと深いところから分泌される物のはずだから……まあわたしったらエッチなこと言っちゃってるわ。うふふ。
真面目な話、以前のカノンからは臭わなかった独特の臭いがするようになった。それはどうも彼女の体質が根本から変わったように思えるのだけれど?
ユイの実家の自家製だという特別のサプリのせいかしら? そうとしか思えないわね。
そもそもみんなコラーゲンコラーゲンって騒いでいるけれど、コラーゲンはお肌や関節の重要なタンパク質だけど、コラーゲン自体が美容にいいっていう医学的実証はないのよね。
あの速効の美白はちょっとおかしい。常識外だ。ただのコラーゲンの訳がない。
いったいどんなブツなのかしら?
興味津々。
その白い粉には禁断の秘密があったのだ。
その秘密に興味を抱いてしまったわたしに、
謎の黒い影がつきまとうようになった。
実はわたしもピチピチの女子大生である。今どき大学も出ないでのんきにモデルだけやってるようなパープリンもいない。
孤高の……お友だちのいないわたしは、講義が終わってしまうとサークルにも所属することなく、お仕事もない日は暇を持て余し、書店で文学少女をやっていることが多い。愛読書は楳図かずおの恐怖マンガ。文学じゃないじゃんというツッコミはスルーして、実はわたしはショコタンをリスペクトし、密かに第二のショコタンの座を狙っているのだ。モデルの私生活を暴露するブログでもやろうかと思ったが、業界を干されるのも困るのでせっせとネタ集めだけやっている。いずれは本にしてベストセラーを狙おう。
さて。いつものように行きつけのジャンク堂で有意義なひとときを過ごしていたわたしが、そろそろ寂しい我が家に帰ってもいい頃かしらと店を出ようとすると、見るからに怪しいストーカー男が声をかけてきた。
「『プチセレ』専属モデルのマイさんであるな?」
あ、この野郎、答えを言いやがった。そうでーす、答えは9のマイでーす。9番目のランキングは当然本人の謙遜よ? そうね、シズカさんの上くらいが妥当かしら? 人造人間1号のカグヤはバリバリ整形だけど、わたしの美貌は正真正銘天然物よ? えっへん。
で、ストーカー男よ。
若ぶってヒップホップなんて気取っちゃってるけど、似合ってるっちゃあ似合ってるわね、ハリウッド板カンフー映画に出てくるギャングの兄ちゃんみたいよ。でも年は見るからに脂臭い中年男。180パーセントメタボリック腹。まん丸い顔に膨れ上がったたらこ唇、ほっぺたに押し上げられたキツネ目が犯罪者のそれよ。善良な市民の義務として速攻110番しなくては。
「ちょっとあなたにお伺いしたいことがあるである。どこかでお好きなスイーツでもごちそうするである。菊香堂パーラーなどはいかがであるか? あそこのカヌレは絶品である」
まあ、メタボ脂オヤジのくせに、気持ち悪くも女の子の好みをリサーチしてるじゃない? あのプチセレセレクトのお菓子、食べてみたかったのよね、あのギザギザのすぼまった形がちょっと口にするのはあれだけど。
わたしの乙女らしい食い気にニヤリとして、男が名乗った。
「警戒されるのもごもっともである。実はわし、ミセス・ビッキーの料理番をしておるブッチ・熊田という者である。お望みなら、君を見込んでそれなりの礼金である仕事を頼みたいのであるがなあ?」