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31,へ・ん・た・い

 蛇まみれにされたわたしはお風呂に入らせてもらうことにしたが、ユリエママもいっしょに入ってきた。母子の名乗りを上げて、スキンシップしたくてしょうがないのだ。

 ユリエママはわたしの体をきれいに洗ってくれながら教えてくれた。

「あなたが卵から生まれた証拠は、このおへそ」

「でべそだよ?」

「ごめんなさいね、下手くそで。生まれたあなたは、おへそがなかったのよ。アリサちゃんはふつうにあなたを産んだんじゃなくて、二人の遺伝子の融合した卵をお腹の中で温めていたから、あくまで卵から生まれたあなたは、母胎と結ぶへその緒がなかったのよ。でもおへそがないと困るでしょう?人間として。それで、糸を埋め込んでおへその形だけ作ったの。取ってあげるわね?」

 ユリエママはちょっとびっくりの蛇の牙を出してわたしのでべその根元を探り、ブチッと、中で何か切った。

「はい。あなたのへその緒」

 と手渡してくれたのはタコ糸のようによった白いツルツルしたナイロンみたいな繊維だった。

「それもわたしの脱皮した皮からよった糸よ? 20年間切れずにあなたのおへそを守ってきたでしょう?」

 わたしのお腹はおへその部分がぷくんと膨れて赤く丸い跡がついていたが、なだらかでツルンとして、確かに、わたしにおへそはなかったのだ!

「もう一つ、ヘビとして大切なことを教えてあげる。来なさい」

 と、ユリエママは湯船にいっしょに入ってわたしを後ろから抱きかかえた。

「あなたはこれまで人間として生きてきた。それはわたしがあなたの『ヘビの玉』を眠らせておいたから。どうする? このまま普通の人間として生きていきたい? それならこのままにしておくけれど?」

「わたし不思議に思ってたんだけど、お母さん……アリサママって、すっごく若いのよね? 自分がモデルのお仕事始めて気づいたんだけど、アリサママ、わざと老けたメークで誤魔化してるけど、顔も体も25、6歳にしか見えないのよね? それもわたしが子どもの頃からずーっと。これってやっぱり、アリサママもヘビだってこと?」

「そうよ。本当のところ言っちゃうとね、あなたが生まれたのは全くのアクシデント。

 へび女は気に入った人間を仲間にすることが種としての繁殖方法なのね、相手は自分と同じ女性限定で。特別変異体で、動物本来の生殖法で子孫を作ることが出来ないのよ。自分の遺伝子を送り込んで相手の遺伝子と体を乗っ取る、ウイルスといっしょ。わたしたちは人間に対する寄生生物なのよ。

 それが、まさか赤ちゃんが産まれるなんて、思いもしなかったわ。

 アリサは特にかわいいお気に入りだったから、ちょっと変わったことをしてみたくなったのね。で、思いつきの悪戯をしたら……こういうことになっちゃった。これは、へび女が生物として独立する、進化なのかしら?

 アリサがヘビになったのはあなたを産むために自分の体の仕組みを変えたため。アリサにとってはヘビになったのはあなたの副産物みたいなものね」

「ふうん…、わたしが先で、アリサママがヘビになったのがおまけなんだ……。でもお母さん、いっつも若々しくて、楽しそうだよ?」

「あなたはどうする? へび女になりたい?」

「へび女になる特典は?」

「寿命が長い。信じられないくらいにね? 120年生きているわたしだって全然老けた気がしないもの、今だってクラブでバリバリ踊れちゃうわよ? かわいい女の子はすぐナンパしたくなっちゃうし。わたしは白樹様にヘビにされたのは27歳の時だけど、あなたは多分、大人に成長した今の状態から、老けるということをしなくなると思うわ。お肌も真珠の輝きと潤いから衰え知らずよ?」

「デメリットは?」

「人間とは違う化け物だってこと。怒ると牙が生えて、肌にうろこが浮き上がってくるわ。人間の男と結婚できるかは、あなたの場合は分からない。どう?いい人いる?」

「いますよ?片思いだけど。ナユハさん」

「ああ、彼女は諦めなさい。全然こっちのケがないから」

「あーあ、やっぱり。でもいいです、世の中綺麗でかわいい人はいっぱいいますから」

「うふふ。やっぱりわたしとアリサの子ね。どうしたい? どっちでいたい?」

「選べるのは、一度きり?」

「そうよ。二度はなし。ヘビの遺伝子は元々人間にとって異質の物、病気の元を断ち切れば、普通の人間なら健康体に戻れる。でもあなたは違う、生まれたときから持っている肉体の一部。一度それが発動したら、それを断ち切ることは、命を失うことになる」

「ママたちは?」

「アリサはそうね。彼女も他のヘビと比べて特殊で、あなたのために自主的に肉体改造を行ってしまっている。ヘビを司る『ヘビの玉』の器官がないの。わたしはどうかしら? ヘビでなくなったら、120歳のお婆ちゃんで、あっという間に死んでしまうかも。病気にうち勝つにはやっぱり若い肉体が必要なんじゃないかしら?」

「じゃあ、今ヘビにされているムツミやカグヤや、カノンは、元に戻れる?」

「問題ないでしょう。カノンちゃんはだいぶ馴染んじゃってショックが大きいだろうけど、ムツミちゃんとカグヤちゃんは取り出せばすぐに元に戻るわ」

「あー、よかった。さっきはすっごく性格悪くなってたからなー。……わたしがヘビになるとどうなんだろう? やっぱり変わるのかな?」

「多少は変わるかもね? 女王様になっちゃうかも? ひょっとすると、あなたも人間が食べたくなっちゃうかも知れないわよ?」

「うーーん……。それはないと思うなあ。わたし、けっこう人って好きだもん。怖がらせちゃかわいそうだよ。楽しませて、喜んでもらう方が好きだもんね。

 ねえママ。ユイと対決するの?」

「うーん…。そうなっちゃうかな? 気は進まないけど」

 わたしは体の向きを変えてママと向かい合った。

「決めた。わたしをヘビにして」

「いいの? 普通の人間には戻れないわよ?」

「うん。いいよ。わたし、ママと同じになりたい。アリサママと三人で美少女ハーレム作ろう?」

「うふふ、いいわね、それ? それじゃあ、教えてあげる。立って」

 わたしは立ち上がり、ユリエママはわたしの体で『ヘビの玉』の在りかを教えた。以下具体的なところはへび女だけの秘密だから想像して楽しんでね?

「ふつうのへび女はこの奥にある。ほら、わたしを触ってみて? ぎゅうっと」

「…………。あ、ほんとだ、コリコリしてる」

「ね? あなた以外の全員がここにあるわ。でもあなたの場合は特別で、もっとずっと奥にある。ここ」

「あっ……。ママ、すっごく変な感じ…………ちょっと、怖い……」

「だいじょうぶ、優しくするから、痛くないわよ。ね?」

「あ……、なんだか、気持ちよくなってきた…………もっと……」

「ウフフ。ね? 眠っていた本能が目覚めてきているのよ。さあ、自分を解放して」

「あっ、ママ、すごく変! なんか、おっきくなってきちゃう感じ、あっ、あっ……」

「いいのよ、マイ。今、膜を剥いてあげる。さあ、本当の自分をさらけ出すのよ!」

「あっ、ママっ、ママっ、あっ、ああーーーーーっ!!!!…………」

 わたしはガクガク震え、ぐったりユリエママにもたれかかった。ユリエママはわたしを抱き留め、優しく撫でてくれた。

「おめでとう、マイ。生まれ変わったあなたの、今日が新しいお誕生日よ?」

「うん…。これが本当のわたしなんだね? 嬉しい……」

 えー……。

 描写をぼかすとかえってアレですけど、これはあくまでもへび女の成人の儀式?ということで、あしからず。ああ、気持ちよかった。


 こうしてわたしはへび女になった。

 後悔はないわ。これが二人の女が愛し合って生まれた罪なわたしの運命。

 なーんて。

 見て!この肌! ユイも目じゃない滑らかリッチな輝きよ!

 これから女王様はこのわたしよ!

 おーほほほほほほほ…………ちょっとわたしのキャラじゃないわね。

 実はお肌以外現状特に変わったところはなし。紛らわしく期待させてごめんなさい。

 わたしこれでユイに勝てるかなあ?

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