ボクとステロボ
ある日、少年がゴミ捨て場にあったロボットを拾って家に持ち帰った。
母は言う。
「まったくこんなもの拾ってきて。ウチはペットは飼えないの」
「ロボットはペットじゃないよ。大丈夫。ボクが面倒見るから」
食い下がる息子に折れない母親。
「まあまあ。いいじゃないか。ロボットを飼ってるなんてウチぐらいなもんだ。会社でも自慢できる」
父が息子に味方したおかげでなんとかロボットを置いておく事を許された。
さっそく息子はロボットの後ろについているボタンを押した。するとロボットは静かに起動した。
「コンニチハ」
ロボットが第一声を上げると反対していた母も含め、おーっと、声を上げた。
「今日から家族の一員だ。ステロボ」
「ス・テ・ロ・ボ?」
「そう、おまえの名前だ。捨てられてたロボットだからステロボ。いい名前だろ?」
母と父は思った。この子に子供が出来たら絶対に名前をつけさせてはいけないと。
心に誓った。
こうしてステロボとの暮らしが始まった。
午前はお母さんのお手伝い。午後は少年と仲良く泥だらけ。夜はお父さんの肩たたきにお酒注ぎ。それは楽しい毎日だった。
そんなステロボのことはすぐに広まった。世界各国の報道機関。研究機関からたくさんの人が押し寄せた。そんなある日、ある研究者がこんな話を持ちかけてきた。
「ステロボについてもっと知りたいのです。どうか私どもの研究所でもっとくわしく調べさせていただけないでしょうか。もちろんタダでとは言いません。それ相応の謝礼をいたします。お願いします。これも人類の未来のためなのです」
家族は悩んだ。連日連夜の会議がなされた。その結果、すべての判断を息子に託す事になった。拾ってきたのは息子なのだから。息子はなおも悩み続けた。
ある夜、ステロボに聞いた。
「ステロボはどうしたい?」
ステロボは言った。
「アナタガ、シタイコトガ、ワタシノ、シタイコト、デス」
ステロボは研究所の台の上に乗っていた。そう、少年はステロボを研究所に託すことにした。
そのかわりに多額の謝礼金が支払われ、一生困らないお金が手に入った。
少年はステロボを心配していた。無事に戻ってきてくれるだろうか。研究所の人たちは大丈夫と言っていたが本当だろうか。玄関で見たステロボの後姿が今も忘れられない。
数年の月日がたった。
ステロボが帰ってきた。
玄関を開けるとそこには研究所の人が。
研究所の人は箱を一つ差し出した。
開けるとそこにはチップが一つあるだけだった。
これがステロボなのだ。
ステロボは調べに調べられ分解されていった。しかし、調べれば調べるほどその高度な技術に追いついていけなくなった。今の技術では到底元に戻すことなど出来ないものだったのだ。
少年は膝をつき、チップを見つめながら泣いた。
何故ボクはあの時ステロボを行かせてしまったんだろう。どうして……。
少年の涙は途切れることを知らない。
やってきた研究所の人が言った。
「“モット、イッショニ、イタカッタ”。それが、最後の言葉でした」
数十年の月日が経った。
ある科学者がチップを目の前の基盤に装着させた。そして、背中のスイッチを押した。
ロボットは静かに起動した。
「タ・ダ・イ・マ」
「お帰り、ステロボ」
二人が懐かしい道を歩いている。
科学者が言った。
「ここだ。ここでステロボを拾ったんだ」
ステロボは黙ったまま、持っていた自分とそっくりのロボットを置いた。
科学者がリモコンのような物を押すとロボットは消えていった。
科学者は笑って言った。
「ステロボ、なにがしたい?」
「ズット、イッショニ、イタイデス」
ボクとステロボの楽しい毎日が再び始まった。
tHe EnD
大切なものを人に貸すときは、その人がちゃんと返してくれるかしっかりと見極めよう