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J.NOMANの手記  作者: 祇膳
狂った事実
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第64話

 自分の手も見えないような暗闇の中で、小さく揺れが続き不安が収まらないが、ぼんやりと赤い非常灯が点灯し、視界が確保できると、少し安心できた。

 「はは、これで、やっと、くされAIがいなくなった!」

 ぼんやりと赤い非常灯で染まる暗闇の中、ふらふら揺れるバートンの影が視界に入る。

 イブは息をひそめて、暗闇に身を隠すように、どうか見つからないようにと祈りながら、ぎゅっとノーマンの体を抱きすくめるが、祈りは虚しく地に落ちた。

 バートンの靴が、視界にはいる。 気が付けば、バートンはイブたちを見下ろし、その銃口をこちらに向けているのだ。

 恐怖で体が硬直するイブに、バートンはにこりと、微笑んだ。

 「君の網膜と血液は、ありがたく活用させてもらうよ。」

 引き金が引かれるという、まさにその瞬間、イブは抵抗の声もあげずに、強い視線でバートンをにらみつけた。

 あまりに強い視線に、一瞬、バートンがたじろぐと、その隙を見たノーマンが、全身でぶつかるように飛び出し、バートンを羽交い絞めにしたが、バートンも抵抗し暴れるので、そのまま上に下になりながら、ごろごろと転がった。

 都会でぬくぬく生きてきたバートンと違い、田舎で修行を積んできたノーマンのほうが力が強く、小口径の銃はすぐに奪われ、ノーマンは銃を床にそわせ、滑らせるようにしてイブに投げ寄越した。

 カシャーと音を立てて流れてきた銃を、胸元に抱き寄せる。

 バートンはうつぶせの体制で後ろ手に拘束され、不敵に笑う。

 「は、はは!まさかこんな事になるなんて。ああ、そうだ君達、早く逃げた方がいいぞ。まあ、どうやって逃げるか知らないが。」

 「そうですね、あなたも早く逃げましょう。」

 「なんだ、僕と一緒に逃げるつもりか?殺そうとしたのに。」

 「私は腐っても僧侶です。見殺しにできません。」

 「ああ、そうだった。公園で見た時と服が違うから、すっかり忘れていたよ。」

 「バートン市長、どうか暴れないで、大人しくしてください。」

 バートンは不敵に笑うばかりで答えない。

 すると、またしても激しい轟音と振動におそわれ、ふたたび爆破したのかとバートンを確認するが、彼は後ろ手に拘束されているので、爆破スイッチを押せるはずはなかった。

 二度目の爆発で殺意が削がれたのか、バートンから抵抗の意思を感じなくなったので、ノーマンは拘束を解いて開放する。

 まだ少し揺れるフロアで、不安そうにしているイブに寄り添う方が、ノーマンには重要だった。

 バートンは両手首をさすりながら、二人を見つめる。

 「ウィルソン君の爆弾は、なんと三度も爆破するように設定されていた。一度始まったら、全て爆発するまで止まらない。」

 「三度!?」

 「ああ、三度だ。一度目はサーバーを破壊するため、二度目はフロアを破壊するためで、最後の爆発は、このオルド庁舎を崩壊させるための大爆発だ。」

 バートンの言葉に、声を失った。

 爆破を三段階に分けたのは、庁舎にいる無関係の人達が避難する時間と、自分が逃げる時間を稼ぐためだったが、それとは別の一番最初の最上階の爆破で地下直通のEVが落下したことは、ウィルソンにとって予想外の事だった。

 地下直通のEVという安全に脱出する手段を確保できない中で、連鎖的に起こる爆破は起動できない。 だからあの時、バートンに責められても、すぐに爆破しなかったのだ。

 安全に脱出はできないが、方法はある。

 故障したEVの中に、直立に設置されたメンテナンス用の非常梯子、これを登っていけば、いずれは地上に到達する。

 奇しくもウィルソンが、地上30階の最上階から、地下20階のここまで来るのに、この梯子を利用している。

 50階分の梯子を下りてくるなど正気の沙汰ではないが、流石に彼は剥き身で下りてきたわけではないだろう、ロープがかかっているはずだ。

 そして脱出に必要なのは20階分。 ウィルソンが下った半分以下なので行けそうな気はするが、ノーマンは肩を負傷している。

 片腕だけで20階分を登るには、自重を支えきれないだろう。

 ウィルソンの安否はわからないが、EV近くのベンチで待っているはずのユージーンも、大きな怪我をしている。

 大きな怪我の無いイブが、一人で全員を運べればいいが、とても無理だ。

 バートンが協力するとも、とても思えないし、彼も足を怪我している上に、イブの命を狙っている。

 「イブ、逃げるんだ!」

 「だ、だめよ。ノーマンも来ないと。」

 悲痛な二人の間で「ああそうだ、皆で逃げよう」とバートンが口をはさむ。

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