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J.NOMANの手記  作者: 祇膳
狂った事実
63/70

第63話

周囲の状況がよくわからないが、ウィルソンとバートンが取っ組み合って争っているらしく、どたばたと激しい音と、怒声が響く。

 少しの間続いた争いは、ウィルソンが馬乗りになってバートンを拘束する形で終わりを迎えた。 二人とも口の端から、同じように血が一筋、たれていた。

 「地図も鍵もある。あとはブラウン家の網膜と血液さえあれば、この扉は開くんだ。」

 バートンはウィルソンの下で可笑しそうに笑っている。

 「何をしているんだ!どうして、彼女を殺そうとする!?」

 「何って、ジョン・ドゥの子孫なんて居ないことを証明しようとしている。」

 「ふざけているのか!」

 「ウィルソン君こそ、何をしているんだ!?はやく、あのAIの心臓部を爆破して壊すんだ、今すぐに!」

 仰向けに転がっていたバートンは思い切り顔面を殴られたのか、だんだん頬が変色していき、ごふ、と苦しそうな咳をすると、鼻血が吹き出したので、それから何度かせき込んだ。

 その背後で、ようやくイブがノーマンの腕から抜け出し、出血が続く肩の傷をどうにかしようと焦っていた。

 止血できそうな布は無く、弾も貫通しているかどうかもわからない状況で、守られてばかりの非力な自分という存在が嫌になる。

 しかし、助けてほしい、救ってほしいと最初に頼んだのは自分なのだから、ノーマンの思いと行動は、全て受け止めなくてはならない。

 イブは自責の念に蝕まれそうになったが、またウィルソンとバートンが暴れだしたのでそれどころではなくなり、ノーマンを背後から抱きかかえ、ずるずると少しでも距離をとるべく離れる。

 「用意周到のウィルソン君だ、このすぐ上のサーバーフロアにはしっかり大量の爆弾が仕掛けられているんだろう?さぁ、いますぐ腐った保守派にとどめをさすんだ!」

 「何を言っているんだ、あなたが爆破は待てと言ったんじゃないか!?上を爆破すれば、自分たちも巻き込まれて、生き埋めになると!」

 「もう今となっては構うものか、いや、今ならまだ間に合う。はやく爆破するんだ!」

 「何をいっている!?」

 「くされAIがこれ以上何か暴露する前に、とどめをさせと言っているんだ!」

 今はまだ、世間にバートン市長の悪事は公表されておらず、バートン市長自ら手を汚した事件の証拠もないので、裏で絵図を描いていた証拠の立証も困難を極めるのだが、人智を超えたAIにこれ以上何か暴露されては、堪らない。

 摘める芽は、命を懸けてでも、早く、摘まなくてはならない。

 もう後がないと思った時の人間の感情と行動はすさまじく、バートンは思もがけない力で暴れ、ウィルソンに勝とうとしていた。

 この先の事、将来の事、欲望や、いわば希望を抱えているバートンとは対照的に、恨みも復讐も不完全燃焼で項垂れてしまったウィルソンが彼に勝てるはずもなく、苛烈な争いは、パン!という乾いた音が終わらせた。

 熱を持った銃が、ウィルソンの首筋を撃ちぬいた。

 当たり所が悪かったのか、噴水のように真っ赤な鮮血を流し、力なく前のめりに崩れ落ちる。

 うう、と呻き声をあげ、動けないウィルソンの身体を探ると、手のひらサイズの見慣れない端末がスラックスから現れる。

 これが爆破操作の端末だと、すぐにわかった。

 バートンは自分の体内埋め込み式の携帯電話を起動すると、端末にジャックし、ロック制限解除、起動申請のコードを入力する。

 流石に大都市の市長ともなれば、それ相応の学があるようで、実にスムーズで無駄のないハッキング行為だった。

 少し離れたところで、ノーマンを抱えたまま動けないイブに視線をやると、にやりとわざとらしく笑った。

 「まずは、古ののAIからだ。すこし待っていてくれたまえ。」

 爆破しようとするバートンを、イブは止められない。

 バートンも今から大変な事をすると解っているのか、手がぶるぶる震えて体が硬直し、今すぐに起動したくとも、出来ない様子だったが、それはほんの数秒だった。

 深く深呼吸したバートンは、無表情で起動スイッチを押した。

 あっと思ったその瞬間、激しい轟音と振動で世界が揺れ、フロアは明滅し、奥の方から蛍光灯が順番に消え、暗闇が襲ってくる。

 鼓膜を破らんとする轟音と、天井から落ちてくる土埃に、目を閉じ耳をふさぎ、地面にはいつくばっていると、やがてノーマンたちがいる場所も電気が消え、暗闇に包まれた。

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