第62話
オルド市庁舎の損壊状況、死傷者や避難状況、そして爆破行為をを起こした犯人、アイザック・ウィルソンの写真が実名と共に報道され、それと同じ程度か、いや、それ以上に騒がれている人物が、もう一人。
イブ・ブラウンの写真と実名が報道されている。
モニター越しに自分の顔を見たイブは、両手で口を覆い、信じられないといった表情で、まばたきもせずに報道を見つめた。
《オルド市庁舎内部からの情報です。ネムレス設立の第一市長、ジョン・ドゥの子孫が判明し、DNAも一致したようです。えー、イブ・ブラウン。イブ・ブラウンという少女が、今回の事件のキーマンになっている模様です。》
爆破されたオルド市庁舎の映像から、三人の人影が爆破前の市庁舎の外階段を這っている映像に切り替わった。
ノーマンたち3人が、侵入したときの映像だ。
不明瞭だった映像は綺麗に解析され、イブたち三人の顔がはっきり認識できてしまっている。
《オカルトネットで騒がれていた非常階段の怨霊、これは幽霊などではなく、ジョン・ドゥの子孫だった事に各界で動揺が広がっています。》
《同行している二名について、一名はすでに警察が拘束しているとの情報が入っていますが、もう一名については不明です。》
《実在したか曖昧なネムレスの第一市長との関係性が本当にあるのか、当番組がお招きした教授にお伺いしたいと思います。》
《アイザック・ウィルソンは、父親の死をきっかけに退職しており、父親の死とオルド市庁舎に関係があるのかどうかー》
どのニュース番組も、現実に起こった真実に沿っており、足元から崩れ落ちそうな不安と絶望が襲い掛かってくる。
バートンは取り乱し、頭を抱えたり両手を広げたり、せわしなく全身を動かしている。
「何をした!全て暴露したのか!?」
『ええ、マスメディアにDNA情報も公開しました。DNA情報は、先ほどイブ・ブラウンから採取したものです。』
「採取?ああ、扉を開ける時のあれか!」
財宝の扉を開ける時、絵画の女性に触れた指先から採取された血液は、保守派のAIがしっかりデータとして残していた事に、バートンは自分の詰めの甘さとともに、怒りを覚えたようだ。
「ブラウン家の事を世間に発表するなんて、お前たちも望んでいなかっただろう!?」
『ジョシュア・バートン。あなたに財力と権力が集中しないようにしたまでです。』
「ふざけるなよ、くされAI!お前たちは、ブラウン家を抹殺しようとしたじゃないか、このイブ・ブラウンも殺すつもりだったんだろう!?」
『いいえ。今、彼女は重要人物で、我々の保護対象です。』
「・・・は、保護対象だって?今のお前らに、何ができるというんだ?お前の手ごまたちは、ウィルソン君にみんな殺されて、もう居ないじゃないか。」
バートンは、すっかり殺意を失ったウィルソンにカツカツと軽快な足音を立てて近づく。
その様子は、まるで舞台役者のようにあまりにも堂々としているものだから、バートンの殺意に誰もが気が付かなかった。
意気消沈したウィルソンの手に力なく握られた小口径銃は、バートンにあっけなく奪われ、殺意を失っていた冷たい銃は、新たな殺意と熱を持って、イブの顔面へと銃口が向けられた。
その刹那、冷や汗が吹き出し、焦燥が全身を駆け巡り、何かを言葉にする前に、ノーマンはイブに飛び掛かる。
すぐに、パン!と、乾いた銃声がこだました。
明らかにイブを狙って発砲された銃弾は、ノーマンの背中側の肩に命中し、鈍い痛みとともに赤いシミを作った。
突然銃を奪われたウィルソンは呆気にとられたが、ノーマンが撃たれたと認識するや否や、せめて次の発砲が行われる前にと、バートンの手首をつかんで銃を奪い返そうとする。
声にならない声が、獣のような男の声が、小さな武器を奪い合って、醜く重なり合った。
ノーマンの体に包まれたイブは、ぬるりと手のひらに触れる血の感触に震え、慌ててノーマンの体から這い出ようとするが、がっちり抱きすくめられて身動きが取れない。




