第61話
バートンに罪があるとすれば、財宝のカギを手に入れるためにキムを殺害したことくらいだろうか。 それも、証拠などないが。
イブはバートンの血で塗れた己の手を見つめ、どういう感情を表せばいいのか、心の中は混乱で埋め尽くされ、見失っていた。
これまで大変な目にあいながらもやってこれたのは、ひとえにエイダを殺した犯人を突き止め、討てるのなら仇を討ちたかったからだ。 そこに、ノーマンというエイダと共通の知り合いが居ることも、心強かった。
しかし犯人は意外な存在で、あっけなく破壊され、ストンと心に穴が開いたような気分だ。
目の前に差し迫っている財宝には、もとより興味はない。
「さぁ、どうするウィルソン君、僕を殺すのかい?」
「・・・正直、もう、あなたが仇がどうかはわからない。」
「なら、僕はこの先に進んでもいいのかな?」
「バートン市長、あなたは、何をするつもりですか?」
「世直しだよ。保守派やAIがどうなろうが、僕には知った事ではないが、今、サーバー室を爆破されたら、僕たちまで巻き込まれて埋まってしまう。ウィルソン君、爆破するのはもう少し待ってくれるかな。」
バートンは右足をおさえながら何とか立ち上がると、財宝の在り処を示す西洋絵画をぽんぽんと叩いてみせた。
ジョン・ドゥの財宝をもってして、このオルドを立て直し、市長として権力を握りなおす、それがバートンの目的だ。
しかし財宝の正統な後継者は、イブ・ブラウンであり、バートンのものではない。
イブは財宝になど興味はないが、カギを開けた後、バートンは、イブをどうするつもりなのだろうか。
「さ、イブ・ブラウン。君の先祖が遺した財宝と、ご対面といこうじゃないか。」
バートンは座り込んでいるイブに優しく声をかけ、先ほどと同じように、絵画の前に立つように右手で促すが、すかさず、ノーマンがさえぎるように声をあげた。
「待ってください、バートン市長。」
「なんだ?」
お前は無関係だと糾弾されてから、ノーマンはこの場の誰にも相手にされないような、部外者という疎外感をまとい、じっと黙っていたが、もしもイブが害されるようなことがあれば、とても黙ってはいられない。 エイダとイブを救うという約束が、ノーマンをここまで来させたのだから、こればかりは譲れないのだ。
「この財宝は、順当に言えば、全てジョン・ドゥの子孫であるイブのものです。バートン市長は、財宝に関してどうお考えなのですか?」
「どう、とは?」
「財宝をもって世直しをする・・・それは、彼女から、奪うつという事ですよね。」
「奪うも何も、この娘が本当にジョン・ドゥの子孫かどうかなんて、一体、誰が知っているというんだ?」
「は?」
ノーマンに背を向けたまま答えていたバートンの声のトーンが、かわった。 それまで飄々としていたのに、ずっしりと重く、もううんざりだとでも言いたそうに不機嫌だ。
ノーマンの全身を、ぞわりと嫌な予感が走る。
やはり、バートンはジョン・ドゥの子孫という立場のイブが邪魔で、財宝を手中に収めたら、消されてしまうのではないだろうか。
この場の全員が嫌な予感を共有したが、突然、新たな邪魔者の声がフロアに響きわたり、不穏な空気は、新たな不穏によって壊された。
『ジョシュア・バートン市長、認めなさい。イブ・ブラウンが、その財宝の正統な継承者であり、権力者です。』
その声は中性的で耳障りの良い、機械の声だった。
その声を聴いたウィルソンは血相を変えて「この亡霊め!」と悪態をつく。 どうやら声の主は、因縁深きAIだ。 ウィルソンの手によって半壊状態だが、まだ心臓部が残っている憎き保守派だ。
機械の声に反応したのはウィルソンだけではなく、バートンも天井にむかって「どういうことだ」と、どこにいるか解らない声の主にぶつけるように、空しく叫んだ。
『我々は世間に公開しました。ブラウン家の存在と、ネムレス第一市長ジョン・ドゥの存在を。』
「なんだって?」
フロアの天井付近から、多数のモニターが機械音とともに現れ、今、外で流れているであろうニュース番組が映し出される。
同時に多数の番組が流されたので、静かだったフロアは一瞬で剣呑とした喧噪にあふれ、どれを見たらいいのかわからなくなるが、どの番組も同じニュースを取り上げていた。




