第60話
狂った事実
保守派は人ではなくAIだった。
市長であるバートンが許されなかった最上階、権力者が握って然るべきの天守は、魂を持たない数字の羅列、科学の結晶だった。
この地下には、膨大なサーバー室が存在している、とバートンが言っていたが、そこに保守派のAIの命たるサーバー、スパコンなども置かれているのだろう。
然ればきっと、ウィルソンはそのフロアも爆破するつもりだ。
しかし何故、ただの人工知能が権力を持ち、バートンと対等に渡り合えたのだろうかと疑問に思ったが、二人の会話を聞けば、すこし真相がわかった気がした。
ウィルソンに声をかけてきた保守派の存在は、確かに生きている人だった。
彼らと計画のやり取りを重ね、今回の事件でやっと最上階に登った時に、最高権力者だと紹介されたのは、無機質な機械、流暢な言語を話す、モニター越しの人工知能だった。
身なりの良い権力者らしい姿の人間が十数名、老いも若きも、性別もまばらな彼らは、少なからずジョン・ドゥと遠縁、繋がりのある人間なのだろう。 そんな彼らは、人工知能を取り囲み、機械の意思に絶対的な服従を見せていた。
それは人工知能を神とした、一種の宗教のようだった。
生きている彼らは、すべての意思を冷たいAIに委ねていた。
意思を持たない操り人形に何の脅威もないが、人の限界を知らないAIそのものの意思を、そっくりそのまま愚直に聞き入れる人間というのは、厄介な存在だ。
AIがいつ作られたのかは不明だが、遠い過去にオルド市庁舎の運営をスムーズに行うため導入され、初心を忘れてはいけない、と初代市長のジョン・ドゥを尊重し、大きな変化を起こさせないように設計されたものらしい。
それが長い年月をかけて、どういうわけか、人心を掌握し、排他的な思想を生み出すようになっていった。
まんまと人心を掌握された彼らは、今、操り人形のまま、AIとともに最上階でがれきに埋もれている事だろう。
「バートン、あなたを殺して、サーバーフロアも破壊すれば、それで私の恨みはすべて晴らせる。」
「なら、なぜすぐ、そうしない?どうしてずっと、おしゃべりをしているんだ、ウィルソン君。」
撃たれた右足を強く握り、痛みに顔をしかめるが、口元だけは皮肉に笑って見せるウィルソンのそばで、ノーマンとイブがどうにか止血できないかと慌てふためいている。
今もずっと銃口を向けられているのだが、目の前の出血にいっぱいいっぱいで、気にしていられない。
「ウィルソン君、君はわからなくて悩んでいるんだろう。君の家の事に、僕は関わっていない、無関係だと。」
「・・・バートン、市長のあなたが黒幕だ。」
「いいや。君は知ったはずだ、今回のすべての元凶は、保守派のAIのせいだったって、知ったはずだ。現に僕は、ウィルソン家のことなんて何も知らなかった。君がオルドを去った後に、そのことを知ったくらいだからね。」
バートンの言葉に、ウィルソンの瞳が揺らぐ。
どうにも図星らしく、構えた銃身が地面に項垂れた。
ちょうど、バートンの足の傷をノーマンたちがスラックスを裾から破り、止血帯としてきつく結び終えた所で、イブが真顔で問いかけた。
「エイダを殺したのも、保守派なのよね?」
「さっきも話した通り、僕は君たちを保護しようとしたんだ。だけど、僕が君たちを保護しようとしている事を、保守派に気付かれてしまった。」
「私たちが保護されることに、何か問題があったの?」
「僕の手にブラウン家がおちるくらいなら、ブラウンの血筋を抹消せよ、というのがAIの出した答えだったんだ。」
「何よ、それ。」
「ジョン・ドゥの財宝が暴かれるのを阻止せよ、というのが保守派の意思だ。そして僕ら改革派が財宝を手にする事も、何としても阻止したかったようだ。」
だから、ウィルソン家とブラウン家は破滅の一途をたどった。
大きな変化を起こさせず、ジョン・ドゥの築いたネムレスをそのまま後世に残すように作られたAIは、年月と共にねじ曲がり、地下の財宝に近づく人を強制的に排除し、脅かしそうな事があれば、それが些細な事でも許さなくなっていた。
ならば、目の前にいるバートン市長に、何の罪があるのだろう。
ウィルソン家にかかわりがなく、ブラウン家を保護しようとし、ジョン・ドゥの財宝をもってして保守派を壊滅させようとしたが、その全ての元凶であるAIは、既に半壊状態だ。




