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J.NOMANの手記  作者: 祇膳
渦中の奈落
57/59

第57話

 しかし、その静寂も束の間で、ガコン、ガコンと規則的な音が鳴り響くと、ユージンが座るベンチのすぐ隣の壁に、とても大きく、豪華な扉が現れた。

 扉は花や唐草などの装飾が、渋いアンティークのテイストで施され、重厚な取手に古いカギ穴が施されている。

 バートンはワイシャツの第一ボタンを開け、ネックレスのように首から下げていたカギを取り出すと、それを見たイブが何か言いたそうに目を丸くした。

 それは、キムから奪った、エイダの持っていたカギだった。

 バートンはイブに目もくれず、迷うことなく鍵穴に差し込むと、当然のようにガチャリと音が響いて、扉が開かれる。

 開かれた扉から、扉のサイズと同じ大きな西洋絵画が現れる。

 美しい女性が描かれた、立派な西洋絵画だ。

 その西洋絵画の前で両手を組み、まじまじと鑑賞するバートンの姿は、血まみれの小汚い姿でなければ実に様になっていただろう。

 「ウィルソン家の秘密を僕に明かしたのは、ブラウンと名乗る老婆だったよ。イブ、あなたのおばあさんだ。」

 「お、おばあちゃんが?」

 「君のおばあさんが殺される少し前、僕の所に直談判しにきたんだよ、手土産として、このチップもってね。」

 「おばあちゃんは、あなたに何を頼みに来たの?」

 いつの間にかバートンに至近距離で詰め寄っているイブに、バートンはふーとわざとらしく大きなため息をつくと、人差し指でイブの額をつつき、後ずさりさせた。

 「君達を、孫娘を保護してくれってさ。殺されるかもしれないと思ったんだろう。結果として、おばあさんと、お母さん、そして君の片割れは殺されてしまった。」

 「何よそれ、ふざけないで!」

 「おいおい、僕はふざけてなんかないよ。僕が責められる謂れはないはずだぞ?君たちを、保護しようとしたじゃないか。」

 「そんな記憶ないわ。あなたが私たちを保護しようだなんて。」

 「遣いを出したじゃないか。」

 「そんなの来てない・・・あ、まさか、ランダ・・・!?」

 にやりと笑うバートンの表情に、望んでいなかった辻褄があっていく。 バートンが保護だと言い張るそれは、あの日の誘拐だ。

 どういう伝手かわからないが、イブのおばあさんはバートンに秘密裏にブラウン家の保護を頼んだが間に合わず、祖母と母は殺されてしまい、事の次第を重く見たバートンは、自分が動けばもっと事が荒立つと考え、なるべく悟られないように、誰にも気づかれないように、せめて姉妹だけは保護しようと動いたが、それもうまくいかなかった。

 「わからないのは、財宝の扉を開けた君のひいおばあさんだ。彼女は殺されていないはずですが、どうしていますか?」

 もし生きているのなら、強かな老婆に、一目会いたい。

 それまで門外不出だったウィルソン家の極秘の情報を握ったことで、分かたれていた財宝の扉を開ける術を、分散されていたパワーバランスを、ブラウン家が独占することに成功したのだ。

 抜け目なく、しっかり家族に引き継いで。

 一体どんな手段を用いたのか、やり手の老婆に興味があった。

 「ひいおばあちゃんは、普通に病気で亡くなったわ。5年前の事よ。」

 イブの言葉にバートンは落胆したが、どこかで想定していた。

 「ということは、財宝の扉を開けた後、すぐですね。ウィルソン家が崩壊したのと同じ年だ。果たして本当に、病気でしたか?」

 「ひいおばあちゃんも、殺されたというの?」

 「さぁ、それはわかりません。ただわかるのは、5年をかけて、保守派があなたたちを見つけたかもしれない、という事です。」

 「5年をかけて?・・・じゃぁ、私たちが狙われたのは、私たちが、外でネムレスの財宝の話をしてしまったから、じゃないの?」

 「そんな話、ありふれた与太話で相手にされないでしょう。まぁ保守派が5年間張ってた網に、その与太話が引っかかったのかもしれませんがね。」 

 バートンの話は、容易く納得できるものではなかった。

 ずっと、犯人はオルド庁舎の人間、ひいてはこの市長が犯人、黒幕ではないかと思っていたし、どこかで決めつけていた。

 しかし実際に手を汚していない市長の悪を暴くことは難しく、その上、保守派という存在、ウィルソンの裏切りなど、色々なことが積み重なって、ずるずるとここまで来てしまったのだ。

 その結果、思いもがけない事実が暴かれている。

 「もう、ウィルソン家などなくとも、財宝の扉は開くんです。イブ・ブラウン。ジョン・ドゥの血を引くあなたが居ればね。」

 バートンは目の前の大きな西洋絵画の前で、イブを誘導するようなジェスチャーをする。 素直に促されたイブが絵画の前に歩を進めると、西洋絵画の中に閉じ込められた美しい女性の瞳が、きらりと光った。

 「彼女の瞳を見つめながら、手に触れて。」

 絵画の女性はこちらを見つめながら、握手を求めるような姿で時が止まっている。 そっと彼女の手に手のひらを合わせ、瞳を見つめると、ウィーンと小さな機械音が鳴り響き、チクリ、指先に鋭利な痛みが走った。 どうやら血液をすこし採取されたらしい。


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