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J.NOMANの手記  作者: 祇膳
見えない騒動
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第51話

 目の前の紅茶を一気に飲み干し、真っすぐバートンを見据える。

 「あなたは、今、カギと、ブラウン姉妹を手にした。」

 「・・・それで?」

 「ブラウン姉妹の誘拐と、カギの強奪。ランダに課された依頼が今、ここで、結果的に達成されています。ランダに依頼したのは、バートン市長、あなたですよね?」

 淀みないノーマンの言葉に、バートンは静かに瞼を閉じて、ひとつ、深呼吸をする。

 ブルーのスーツと真っ赤なソファに、ブロンドの前髪が揺れ、カラフルなコントラストがまるで絵画のような美しさを現している。

 「まぁ、そうですね。ここはオフレコで、いいでしょう。このフロアは私だけの治外法権ですし、会話も漏れない。」

 バートンはまるで自分に言い聞かせるかのように独り言ち、膝の上で両手をぎゅっと握り、ノーマンを見据えた。

 「ええ、そうです。私がブラウン姉妹の誘拐と、カギの強奪を依頼しました。なるべく大きな前科の無いスラムのギャングに。」

 「ど、どうしてエイダを殺したの?」

 じっと黙って聞いていたイブが、我慢できずに震える声で伺う。

 今、ここがイブの正念場だ。 

 真犯人に手が届きそうな、今、この瞬間を逃してはならない。

 「僕は、殺せと命じていませんよ。殺されてしまったのです。」

 「誰に?犯人、知っているんでしょう? もう、今拘束されてるワンが犯人だとか、そういうのは、もういいから、教えて。」

 これまでの様子からして、イブはきっと取り乱してしまうだろうと思っていたが、予想と裏腹に、冷静だった。

 声こそ震えて、ひどく緊張している事は見て取れるが、怒ったり泣いたり、わめいたりと、感情に振り回されていない。

 それほどまでに、今、真相に近づいているという事だろうか。

 「エイダ・ブラウンを殺したのは、保守派です。」

 「・・・保守派?」

 「ええ。このネムレスには、はるか昔から解決できない諍いがあるんですよ。保守派と革新派。ジョン・ドゥに縛られた保守派と、古からの脱却を狙う革新派です。」

 《ジョン・ドゥ》。 その名前を聞いて、頭を鈍器で殴られたかのような衝撃が走る。

 そして、保守派と改革派の争いの中で起こった事だとすれば、腑に落ちるというか、納得してしまうところもある。

 だが、イブにはどうしても納得できないことが、ひとつ。

 「保守派が、どうしてエイダを殺したの?」

 「僕ら改革派が、ブラウン姉妹を手中に収めるのを阻止したかったようですね。」

 「保守派は、ジョン・ドゥ派、って言ったわよね?」

 「ええ。そうですよ。ジョン・ドゥの遠縁もいるそうです。」

 「わ、私たちブラウン家は、ジョン・ドゥの子孫なのよね?なのに、ジョン・ドゥ派が殺したの?エイダも、ママも、おばあちゃんも?・・・同じ血が流れているのに?」

 イブは両手で顔を覆って、小さな肩を震わせている。

 しかし泣いているわけではなく、溢れる感情が黒い煙となって纏わりつくように、絶望と怒りの感情が顕れていた。

 「それとも、本当は、ブラウン家は、ジョン・ドゥとは何も関係なかったとか・・?」

 「ブラウン家は、間違いなくジョン・ドゥの正式な子孫です。それも、本家筋。それに、保守派にいる遠縁の人間にはジョン・ドゥの血は流れていませんから、安心してください。同じ血ではないですよ。」

 「血なんて、関係ない、どうでもいいでしょ!?親戚には変わらないじゃない!」

 「関係あるに決まってるでしょうが!」

 それまで飄々とした態度だったバートン市長の激昂に、その場のだれもが凍り付いた。

 バートンはハッとして、コホンとひとつ、咳払い。

 「血は、関係あるんですよ。ジョン・ドゥの閉ざされた扉を開くには、その血が、DNAが必要なんです。」

 「・・・そうね、だから、誘拐を命じたのよね。」

 「ええ。しかし保守派が、改革派に血を奪われるくらいならと、殺してしまった。あなたの、お母さんとおばあさんもね。」

 「あなたは、あなた達は・・・それで、エイダの遺体を欲しがったの?」

 「おや、そこまで聞いていましたか。」

 ランダが死の間際に語っていたことは、全て真実だった。

 依頼主がエイダの遺体を欲しがるなんて、どういう事かとずっと疑問に思っていたが、納得した。

 死後まもないブラウン家の遺体があるのあらば、血を、遺体を、DNAを、新鮮な状態で保存しておけばいいのだ。

 「さて、あまり、ここで長話はできないかな。」

 「どういうことです?」


バートンは両手を上げて、ネコのように背伸びをすると、ずっと置物のようにひっそり佇んでいたユージーンに、何か合図をした。

 小さくうなずいてそっと部屋から去るユージーンを、ノーマンは制止することなく見送ると、バートンがノーマンに小声で語る。

 「あなたのお友達、アイザック・ウィルソンは、今なにをしている?」

 「え?ウィルソンさん?」

 「ええ。彼は、今、何をしていますか?」

 バートンの質問に、ぞわりと嫌な予感が全身を駆け抜けた。

 ウィルソンは、ショワンでスリー、マチルダと共にいるはずだ。

 彼らは後援部隊、イレギュラーの対応、そして、汚職事件を暴露して市長とオルド政界を転覆させるための画策をしている。

 しかし先ほど、ユージーンは《マチルダばあさんが捕まった》と言っていた。 恐らく、それに寄りスリーは裏切ったのだろうが、ウィルソンもその場にいたはずだ。 彼は、どうしたのだろうか?

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