第48話
大勢の警察を前にして、ノーマンたちは無力だ。
ここでワンを返せ、冤罪だと騒げば、ノーマンとイブの正体がばれてしまうだろうし、ワンを人身御供にしたのは、ユージーンだ。
騒げば、手引きしたユージーンの身を危うくしてしまうだろう。
「ど、どうして、どうして!?ねえ、なんで、ワンが!?」
イブは激しく動揺して、ユージーンの胸元を叩いたり、襟を引っ張ったりして、全身で抗議している。
「エイダを殺したのは、ワンだ。」
「違う、違うわ!違うでしょ!?殺したのは、ワンじゃない!」
「あいつは、エイダが死んだ時、誰よりも一番先に現場にいたんだ。ただの偶然じゃないだろう。」
「ぐ、偶然よ!だって、マチルダおばあちゃんが!」
「エイダを殺したのは、ワンだ。」
「そんな、そんなことって・・・!」
「ワンが、犯人だ。」
イブが力なく膝から崩れ落ちそうになるのを、ノーマンがすかさず手を差し出し、抱えるようにして阻止した。
イブはそのままノーマンにもたれ掛かり、茫然とした。
ワンは、ただの人身御供だ。
しかし、この場にいる誰もが、ワンを犯人だと決めつけて、許さない。 それはノーマンたちがこの先へ進むための、悪い取引に使われたためなのだが、今、この時、この場所での真実に心が揺れ動いて、本当にワンが犯人だと思ってしまいそうだ。
それほどまでに、ユージーンの瞳は真っすぐで、真摯だった。
「さぁ、エヴァとジェイは、オフィスフロアから拉致された被害者だ。事情聴取が待っている。」
「え、そ、そんなの、無理よ。」
「ああ、もちろんわかってる。今は動揺してるから、落ち着かせるために、28階の展望フロアで休憩させてもうよう、話が付いている。」
用意周到の策略に、納得と感心を覚えた。
この人は、この情報屋のユージーンは、何をどこまで知っているのだろうか。 こんなことになると知っていたら、関わらせるべきではなかった。 少なくとも、マチルダたちは・・・。
そういえば、マチルダとスリーは、知っているのだろうか?
「大家さん、スリーさんは、どうしたんですか?」
「この先で話そう。」
ユージーンは踵を返し、少し歩いた所にある厳重なガラス張りの一室に当然のように入っていった。
慌てて二人も後に続くと、ガラス越しに警察の鋭い眼光が光ったが、話が通じているのか、特に問題はなかったようだ。
豪勢なソファが幾つも設置され、まるでちょっとしたホテルのラウンジのようなこのフロアは、床までふかふかの絨毯で柔らかい。
VIPの待ち合わせ場所にでもなっているのだろうか、身なりのいいビジネスマンが数多く見受けられた。
奥の方にEVの案内があり、二人の警備が豪華で厳重なEV出入口を守っている。
「ユージーンだ、よろしく。」慣れた様子で警備に声をかける。
警備はEV端末を操作すると、すぐに扉が開かれ、仏頂面のままの警備は、EVに入るよう、三人を優しく促した。
ユージーンは慣れた様子で、終始落ち着き払っていたが、突然のことにまだ動機が収まらないイブとノーマンは、戸惑いながら慌てて駆け込むが、それでも怪しまれることなく、扉が閉められる。
驚いたことに、このEVの開閉は手動だ。
乗ってしまえば、あとはこちらで操作することは何もない。
「・・・大家さん、この事は、マチルダさん達は知っているのですか?」
「ああ、・・・スリーは承知している。」
そういえば、20階に到達してスリーにコールした時、すぐに出なかったので何かトラブルがあったのではと思っていたが、もしかしたらその時に、ワンの事を画策していたのではないだろうか。
しかし、血は繋がっていないとしても、ワンとスリーは家族だ。
ツーを亡くしたばかりで、残った兄弟を殺人犯に仕立てあげるなんて計画に、容易く乗れるものだろうか?
ユージーンは既に納得済みのようだが、ノーマンもイブも、割り切れる事などできず、イブはぶつぶつと後悔をつぶやいている。




