第46話
この20階層目は、全フロアが警察専用となっており、一般人の侵入は許されない。
その理由は、留置室が備わっている事と、警察の機密情報が保管されている事に寄るのだが、それらに用事は一つもない。
だが、ノーマンたちがどう自認していようが、周囲がノーマンたちをどう見るのかは、別の話であるし、今まさに、やましいことをしている状況に違いはない。
「ここまで自力で来たんだ、あとは手引きしてもらおう。」
ワンは、言うなりスリーにコールをするが、なかなか出ない。
普段ならば何とも思わないが、この肝心な時に、すぐコールに出ないのはおかしい、と疑念が沸き上がり、胸がざわめく。
何かトラブルがあったのではないか、とノーマンたちと顔を見合わせた時、スリーが応答した。
『悪い、遅くなった。』
「何かあったのか?」
『いや、今ちょうど、ユージーンと連絡を取っていたんだ。』
「そうか、それで、これからどうすればいい?」
『ああ、ユージーンが、今まさに、警察フロアに侵入した所だ。ちょっと、待ってろ。位置情報は、送ってあるから、準備が出来たら、迎えに行かせる。』
コールを終えると、ワンは階段に座り、はぁと大きなため息をついた。
「あとは、ユージーンとスリーに任せよう。俺は疲れたぜ。」
これから目指すのは、最上階、30階だ。
このままずっと内階段で30階まで登れればよかったのだが、内階段は20階までしかない。 屋外の錆びた外階段も同じだ。
ここ20階の警察フロアには、最上階までのEVが設置されており、ウィルソンの父も、ここを通っている。
さて、財宝は地下にあるはずなのに、我々は天を目指す哀れな虫のように、ひたすら上を目指している事に、疑問を覚えるだろう。
それはこのオルド庁舎が、秘密結社のように面倒で、まるでゲームのダンジョンのように、来るべきものを排斥しようとしていることに所以する。
オルド庁舎は地上10階以上が正式とされており、ワンが業者として侵入した地上1階から9階までは、オルド庁舎と繋がってはいるものの、まったく別の組織団体として考えられている。
財宝が眠るといわれている地下は、この業者エリアの下に存在しており、ややこしいことに、その地下階層はオルド庁舎の管轄だ。
その地下階層に到達するには、最上階層にしか設置されていない特別なEVを利用するしか術がなく、ウィルソンの父も、最上階層のEVから地下に下りている。
地下には、ネムレスの歴史に関する資料や、最新のスパコン、ワンフロアを占有する大規模なサーバー室、有事のための武器庫や、諸外国のロイヤルファミリーの為の迎賓室など、一般人には縁遠い世界が広がっている。
その世界の最下層に、誰も知らない財宝が眠っているのだ。
『おい、今から、そっちにユージーンが迎えにいくからな。』
「スリーか。わざわざ、教えてくれるなんて優しいな。」
『言っとかないと、そこに誰か来たら、確認もせずに、殴りかかるだろう?』
「あー・・まぁ、そうだな。」
『じゃあ、くれぐれも攻撃するなよ。いいな、・・頼んだぞ。』
「わかったよ、じゃぁな。」
ワンとスリーの通信が終わると、程なくして人の足音が近づいてきた。 ユージーンが来ると聞いてはいるものの、姿を確認するまでは不安が勝り、身構えてしまうが、余計な心配だった。
「よぉ、無事か、お前たち。」
内階段の扉が開かれると、そこには、見知ったユージーンの顔が現れて、ほっと安堵する。
「大家さん、ああ、大家さんも無事で、よかった。」
「わしは警察と”仲良し”だからな、いらん心配だよ。まぁ、だいぶ無理したがな。」
「それで、私たちはこれからどうすれば?」
「どうするも何も、わしと一緒に、堂々とEVを使うぞ。」
「え、そ、大丈夫なんですか!?」
「ああ、話はつけたぞ。28階の展望フロアを見せてやりたいってな。」
ここオルド庁舎の28階はドローンの基地と、街を監視するための施設がある。 そのついでに観光を目的とした展望フロアが設置され、各界のVIP専用展望レストランまで備わっている。
観光目的とは言え、利用できるのはごく一部の関係者のみだ。
その限定的なフロアを見学すると、話を通して許されたのであれば、こんなに苦労して、こそこそと侵入してこなくても良かったのではないか? 普通にエントランスから、客人として入れたのではないだろうか?
三人の疑問は、言葉にせずとも、視線だけでしっかり伝わったようで、ユージーンは困ったようにため息をついた。




