第44話
トラブルで屋外の非常階段が使用できないとなれば、ほかの移動手段を用いらないといけなのだが、貨物EVは小火騒ぎで緊急停止したままで、今日はもう動かない。
内部の通常EVは問題なく稼働しているようだが、専用IDが必要だし、ここ15階はもうすでに関係者以外立ち入り禁止フロアなので、これに乗るわけにはいかない。
とすれば、残る経路はVIP専用EVか、非常階段ではない通常の内階段だ。
VIP専用EVは、一度乗れば誰も乗り合わせることが出来ない仕様になっており、目的の階までノンストップなので、辿り着ければこちらのものだが、VIPエリアに足を踏み入れることすら無謀な上に、どこに設置されているかもわからない。
なので、消去法で内階段を使用する。
内階段は通常EVと同じく、日々利用されているのだが、今の時代に好き好んで階段を上り下りする人は、ほとんど居ない。
日々の運動を心掛けている人が使っているんじゃないかって?
そういう人はGYMに行くし、GYMを利用できないような貧困民はこの高層階には居ない。 EVなら数秒で移動できる距離を、わざわざ疲労を伴ってまで時間を無駄にするなんて物好きは、あまり見たことがない。
「通常の内階段までは、ここから遠くないな、楽勝だ。」
ワンはタブレット端末に地図を表示させ、現在位置を確認する。
現在位置は、スリーがオンラインで同期してくれたようだ。
「準備してきた地図が、役に立ちましたね。」
「そうだな。できれば、地図に頼らないでスムーズに進みたかったがな。まぁ、でも、許容範囲か。」
この無人のスタッフルームは空き部屋らしく、物がほとんど置かれていないので、歩くたびに靴の乾いた音が響き渡る。
ここに人がいるぞと自ら発しているようで、外にいる誰かに聞かれやしないか、気が気ではなく、歩くのが嫌になる。
スタッフルームの扉は施錠されていなかった事に安堵し、そっと外を覗き見ると、どこかの企業名や政治団体の名前が書かれた看板が廊下の中心に置かれ、各部屋にはネームプレートが掲げられている。 どうやら、この15階は外部の間借りフロアのようだ。
ウィルソンから共有された父親のルート地図に、この15階の詳細は一切無いので、父親はこのフロアに足を踏み入れたことがないのだろう。
「外部の人間ばかりなら、普通に歩いても大丈夫じゃない?」
イブの言葉は本当にその通りで、外部から人が多く出入りしているこのフロアならば、知らない顔がいても、おかしくはない。
それなら、とワンがきょろきょろスタッフルームを見渡して、お目当てのものを見つける。
ワンはホウキとチリトリがセットになった清掃道具を手にして、どこからどう見ても、完璧な清掃業者になった。
「じゃぁ、俺はあんたらビジネスマンに呼ばれた清掃業者ってことで、さっさと行くぞ。」
行動が大胆と思うだろうか? 本当はもっと細かく様子を見て、慎重に行動すべきなのだろうが、あまり長くここに留まって、もし見つかりでもしたら、それこそ言い逃れができない。
ならば、例え直感だとしても、イブの意見にしたがい、速やかにこの場から離脱したほうが良いだろう。
そもそも、予定が大幅におくれているのだ。
ワンは親指をグッと立てると、不器用に口元だけニンマリ笑って見せた。
一瞬戸惑ったイブも、同じようにわざとニンマリ笑い、親指を立ててノーマンに見せると、ノーマンもつられて、同じようにする。
「一蓮托生だ、エヴァ、ジェイ。大丈夫だ、いくぞ。」
すこし緊張がほぐれたところで、ワンが隠れる様子もなく、自然に、普通に扉を開けて、明るい廊下に躍り出る。




