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J.NOMANの手記  作者: 祇膳
つかのま
38/59

第38話

 「決行は、いつになる?」

 「3日後になります。」

 「そうか。わかった、なんとかしよう。で、お前さんたちは、これからどうするんだ?」 

 「特に何もないので、ショワンに戻ろうかと。」

 「ならしばらく、ここに居て好きにしなさい。」

 「え?それは、どうして・・・。」

 大家はノーマンに答えず、どこかに連絡をとりながら部屋を出て行ってしまった。 部屋に取り残されたイブと、顔を見合わせる。

 「じゃぁ、お言葉に甘えちゃう?」

 「ですが、戻ってマチルダさん達を手伝った方がいいのでは。」

 「私達が戻ったって、きっと、やる事なんてないよ。」

 「それは、そうですが。」

 「少しくらい、大丈夫よ!ちょっと、ゆっくりしましょ。」

 嬉しそうな声で明るくふるまうイブは、ノーマンの肩を叩くと、今夜の寝床を決めるべく、アパートの空き部屋を吟味しに行った。

 ひとり取り残されたノーマンは、まるで色んな人から同情されているような、なんとも空しい気持ちになって、深呼吸した。

 そうだな、傍目から見ても、なんの因果も無い、ただ巻き込まれただけの留学生だ、気の毒にも思うだろう。

 こんな気持ちではいけないと切り替えて、ノーマンもアパートの空き部屋を探しに、イブの後を追うように部屋を出ると、イブはアパートの廊下の手すりに両手をついて、ぼうっと外を眺めていた。

 それまでの明るい仕草とは裏腹に、どこかミステリアスな雰囲気をまとって、その視線は底なし沼のように、深い。

 「疲れましたか?」

 ノーマンは隣に寄り添い、同じように手すりに両手をつく。

 「ううん、すこしね。」

 今にも消えそうなか細い声に、ノーマンは己の不甲斐なさを痛感した。 思い返せば、年端もいかない少女に、ずっと励まされてばかりではないか。

 少女の苦悩は、どんなに寄り添っても、誰も共感などできない。

 「イブ、本当に良かったのですか?」

 「ん?何が?」

 「オルドの役所に、その、潜入することです。」

 「ノーマン。今さら、何を言っているの?」

 「ウィルソンさんと、マチルダさんと、イブは違うじゃないですか。ただ、エイダの死の真相を知りたいだけで、オルドに恨みがあるわけではない。」

 「そうね、けど・・・もし、オルドの役所の人間が、エイダを殺したのなら、この計画は、私にとって必要な事だわ。」

 「ツーの死を、自分の責任に感じていませんか?」

 ノーマンは、あの時、冷たくなっていくツーを膝に抱えていたイブの姿が、ずっと脳裏に引っかかって、まるで映画のワンシーンのように、ランダを殺した時の情景の後に続いて、何度も何度も、フラッシュバックしていた。

 オルドに潜入する計画が、こうしてあっという間に進んだのは、息子を殺されたマチルダの復讐心と、ウィルソンの確執が大きい。

 ツーの死という負い目によって、二人の烈火のごとく渦巻く感情と信念に、流されているだけではないだろうか?

 そうだとしたら、無理はさせたくない。

 あの時、人生の一大事を迎えたのはノーマンだけではないのだ。

 「私は、誰を巻き込んだって、後悔しないわ。」

 「・・・無理していませんか?」

 「前に、言ったでしょう?私の大事な人がお(びや)かされるのなら、私は、脅かす人を殺す、って。」

 「しかし、それとは。」

 「それくらいの覚悟を、しているつもり、ってことよ。」

 イブはわざとらしい作り笑顔をノーマンにみせると、もうそろそろ休みましょう、と、アパートの一番奥の空き部屋に向かった。

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