第38話
「決行は、いつになる?」
「3日後になります。」
「そうか。わかった、なんとかしよう。で、お前さんたちは、これからどうするんだ?」
「特に何もないので、ショワンに戻ろうかと。」
「ならしばらく、ここに居て好きにしなさい。」
「え?それは、どうして・・・。」
大家はノーマンに答えず、どこかに連絡をとりながら部屋を出て行ってしまった。 部屋に取り残されたイブと、顔を見合わせる。
「じゃぁ、お言葉に甘えちゃう?」
「ですが、戻ってマチルダさん達を手伝った方がいいのでは。」
「私達が戻ったって、きっと、やる事なんてないよ。」
「それは、そうですが。」
「少しくらい、大丈夫よ!ちょっと、ゆっくりしましょ。」
嬉しそうな声で明るくふるまうイブは、ノーマンの肩を叩くと、今夜の寝床を決めるべく、アパートの空き部屋を吟味しに行った。
ひとり取り残されたノーマンは、まるで色んな人から同情されているような、なんとも空しい気持ちになって、深呼吸した。
そうだな、傍目から見ても、なんの因果も無い、ただ巻き込まれただけの留学生だ、気の毒にも思うだろう。
こんな気持ちではいけないと切り替えて、ノーマンもアパートの空き部屋を探しに、イブの後を追うように部屋を出ると、イブはアパートの廊下の手すりに両手をついて、ぼうっと外を眺めていた。
それまでの明るい仕草とは裏腹に、どこかミステリアスな雰囲気をまとって、その視線は底なし沼のように、深い。
「疲れましたか?」
ノーマンは隣に寄り添い、同じように手すりに両手をつく。
「ううん、すこしね。」
今にも消えそうなか細い声に、ノーマンは己の不甲斐なさを痛感した。 思い返せば、年端もいかない少女に、ずっと励まされてばかりではないか。
少女の苦悩は、どんなに寄り添っても、誰も共感などできない。
「イブ、本当に良かったのですか?」
「ん?何が?」
「オルドの役所に、その、潜入することです。」
「ノーマン。今さら、何を言っているの?」
「ウィルソンさんと、マチルダさんと、イブは違うじゃないですか。ただ、エイダの死の真相を知りたいだけで、オルドに恨みがあるわけではない。」
「そうね、けど・・・もし、オルドの役所の人間が、エイダを殺したのなら、この計画は、私にとって必要な事だわ。」
「ツーの死を、自分の責任に感じていませんか?」
ノーマンは、あの時、冷たくなっていくツーを膝に抱えていたイブの姿が、ずっと脳裏に引っかかって、まるで映画のワンシーンのように、ランダを殺した時の情景の後に続いて、何度も何度も、フラッシュバックしていた。
オルドに潜入する計画が、こうしてあっという間に進んだのは、息子を殺されたマチルダの復讐心と、ウィルソンの確執が大きい。
ツーの死という負い目によって、二人の烈火のごとく渦巻く感情と信念に、流されているだけではないだろうか?
そうだとしたら、無理はさせたくない。
あの時、人生の一大事を迎えたのはノーマンだけではないのだ。
「私は、誰を巻き込んだって、後悔しないわ。」
「・・・無理していませんか?」
「前に、言ったでしょう?私の大事な人がお脅かされるのなら、私は、脅かす人を殺す、って。」
「しかし、それとは。」
「それくらいの覚悟を、しているつもり、ってことよ。」
イブはわざとらしい作り笑顔をノーマンにみせると、もうそろそろ休みましょう、と、アパートの一番奥の空き部屋に向かった。




