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J.NOMANの手記  作者: 祇膳
つかのま
37/59

第37話

つかのま



 その後もウィルソン主導のもと話が進み、オルド潜入の具体的な計画がまとまったが、スリーが準備するのに3日かかる、というので、その間にマチルダは、万が一のために武力体制を整える。

 ウィルソンはというと、昔馴染みや、関係各所を探り、市長の動きや、これまでに集めた汚職事件の再整理など、持てる力をすべて使って、最初で最後の計画に、心血を注ぐ。

 「では、ノーマンさん、イブさん、よろしくお願いします。」

 「はい、そちらも、よろしくお願いします。」

 ノーマンとイブは、大家のユージーンに今回の事の次第を伝え、可能ならば、協力を取り付けてくる役目をおった。

 ノーマンは大家のアパートに郷愁の念を感じて、まるで実家にでも帰るような気分で、イブが運転するバイクに飛び乗った。

 (あの時も、こうやって、景色を見てた。)

 初めてこの街に来た時、どこまでも続いていそうなこの土地が、高速で流れる見慣れない景色が、ただただ、まぶしかった。

 そうだ、最初のころは、イブは強気で、まるで警戒心が強い子猫みたいだったが、今は、涙もろい普通の少女のようだ。

 (きっと、エイダより小心者なんじゃないかな?)

 そう思うと、なんだか微笑ましい。

 「何笑ってるの、ノーマン!?」

 ミラー越しに、にやけ顔を見つけたイブが、訝し気に問い詰めるが、ノーマンは答えず、悪戯な感情を見せるように、笑い続けた。

 バイクの振動が心地よく、顔を撫でていく風が柔らかいのに、遠くで誰かの悲鳴が聞こえるアンバランスなこの世界で、笑う。

 目の前の少女の細さが、可憐さが、壊れそうで危うい不安を煽るのに、この少女が自分を認めてくれたから、絶対的な安心感を感じて、すべて任せて、すべて頼ってしまいそうになる。

 ビルや、街、人々を流れる景色に見送って、ひっそりと暗がりに建つ、古びた二階建てのアパートにバイクを停めた。

 「待ってたぞ、さぁ、はやく中へ入りなさい。」

 大家のユージーンが、玄関先からノーマン達に声をかける。

 どうやら、バイクの音に呼び出されたらしい。

 

 最初に訪れた時と変わらないアパートで、ノーマンはこれまでの経緯を大家に話したが、先に、ウィルソンから大まかに聞いていたようで、大家は再確認するように、うんうんと頷いていた。

 「そうか、大変だったな。」

 「はい、イブも、マチルダさんも、大変な目に・・・。」

 「そうじゃない、ノーマン、お前さんがだよ。」

 「は、私、ですか。」

 「・・・、そうだ。大変だったな。」

 突然の労いの言葉に、ノーマンは驚いて大家を見るが、ふい、と顔を逸らされてしまった。 なんだか、大家の顔が昏い。

 「で、何を手伝ってほしいんだ?わざわざお前さんたちが来たってことは、何か理由があるんだろう?」

 「は、はい。お見通しですね。」

 「大体の事は察しているがな。」

 「では・・・。」

 「簡単な事じゃないぞ。」

 大家に頼みたい事は、オルド庁舎、その高層階にある警察フロアへの手引き、口利き。 特別な専用EVを使用すること。

 最上階にある特権階級フロアと、市長専用フロアへ行く事のできる唯一のEVは、この警察フロアにしか存在しない。

 とはいえ、庁舎に存在する警察フロアに詰めているのは、キャリアや特殊部隊、いずれも一筋縄ではいかない警官ばかりだ。

 街の警察に我が儘を言うのとは、わけがちがう。

 「まぁ、いいだろう。ノーマン、お前に免じて、引き受ける。」

 「え、い、いいのですか?・・・私に、免じて?」

 「ああ、そうだ。ただ、ひとつ、約束してほしい。」

 「何でしょうか?」

 「大道寺祖廟に帰れ。この件が終わったら、必ず帰るんだ。」

 「は、・・・はい、しかし、それは・・。」

 「あ、あの、それだけでいいんですか?」

 戸惑うノーマンをかばうようにイブが口をはさむと、ユージーンはじろりと叱責の視線をイブに向け、少しの緊張が走る。

 「ウィルソンさんが、ユージーンさんが嫌がるなら、無理強いはしないでくれって言ってたので・・・。」

 「・・・そうか、あいつも、何考えてるんだろうな。」

 頼み事をさせに行かせたのに、無理強いはするなと言う。

 なら、わざわざ出向かせるまでも無かったはずなのに、二人を来させた。 一見無意味の様だが、もしかしたら、ウィルソンなりの優しさかもしれない。

 実際そのお陰で、二人は束の間のドライブで気分転換し、懐かしいアパートで、心が綻んでいるのだ。

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