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J.NOMANの手記  作者: 祇膳
計画
36/59

第36話

  微妙な空気が少し流れた所で、ウィルソンが説明を始める。

 「まず、オルドの正面出入口は、空中階層にあります。ここ、地上10階にある、一番大きな出入り口です。」

 「流石に、正面からは入れないわよね?」

 大人達の間をぬって、イブが机に頬杖をついて問いかける。

 「はい、誰にも見つからず潜入しなくてはいけませんが、父はその時、職員でしたので、堂々と入っています。」

 「じゃあ、どこから潜入するか、考えないといけないのね。」

 「ええ、そこで一番いいのが、ここ、地上1階です。」

 ホログラムの役所の地上1階部分を指でタップすると、フロア詳細が出てきた。 地上1階から正面玄関の10階までは、業者や、倉庫、災害時の対策室といった裏方エリアになっており、関係者以外も多く立ち入るため、このエリアの地図は一般公開されている。

 まず業者を装ったワンが潜入し、貨物専用EVで地上12階にあるレストランの厨房へ行き、ボヤ騒ぎを起こすのが目的だという。

 このレストランは一般も利用可能なので、変装したイブとノーマンが騒ぎに乗じて、ここで合流する。

 「なんで俺だけ地上1階から?」

 「人の多いレストランで、部外者が厨房に入るのは無理です。」

 「じゃぁ、地上1階から、皆一緒に潜入すればいいだろうよ?」

 「業者として忍び込ませるのは、一人が限界なんですよ。」

 業者の搬入口の警備はしっかりしているので、身分IDを偽造して通ったとしても、見た事のない顔がいると直接チェックされる。

 そのため新人を装うのだが、新人が三人も居ては、不自然だ。

 「わかったよ。で、それからどうする?」

 不機嫌そうなワンを気にしていない様子のウィルソンは「その前に」と、スリーを自身の隣に呼び寄せた。

 「偽造ID、監視カメラ、セキュリティへの対策などのサイバー技術関連を、スリーさんにお願いしたい。」

 「俺?」

 黒いつなぎ服を、だらしなく着たスリーのスキンヘッドに、冷や汗が見える。 スリーは対人関係はめっぽう苦手だが、その分、デジタル空間、サイバー技術にどっぷり浸かり、IT技術の生き字引で、その腕はネムレスのクラッカー達を黙らせるほどだという。

 マチルダの体内埋め込み式携帯電話も、スリーが導入したのだ。


「まずは、ワンさんが潜入する際の業者IDの偽造、それから監視カメラへダミー映像を流して下さい。あとは・・・。」

 ウィルソンが仕切って、どんどん進んでいく話に、ノーマンはうまくついていくことが出来ず、多少の疎外感を感じていた。

 イブは、エイダ殺害の犯人を暴くことが目的で、ウィルソンは、父親と自身の汚名を晴らし、オルドの役所そのものを失脚させること、マチルダは、ツーの仇討ち。

 皆が強い思いを抱く中、ノーマンだけが違う。

 オルドに対して、恨みも因縁も、何もないのだ。

 生前のエイダと交わした約束と、改めてイブと交わした約束、ただそれだけが、ノーマンをこの場所にとどめているに過ぎない。

 「ね、後悔してる?」そっとイブが問いかける。

 まるでノーマンの心を見透かしたみたいに。

 「いいえ、後悔など、しておりませんよ。」

 「そ、・・・ありがとう。」

 イブは、今頃になってノーマンを巻き込んだことに、罪悪感を感じ始めていた。

 最初は誰も協力者などいなかったが、今は同じ目的を持つ、頼もしい協力者がいて、どんどん話を進めてくれている。

 今なら、ノーマンをただの留学生に戻すことが出来るだろう。

 だが、巻き込んで申し訳ないと思いつつも、手放せない。

 人を信じる事が愚かとされるネムレスで、たとえ頼りなくとも、ノーマンの心だけは、何よりも堅牢に感じたからだ。

 しかし、イブが罪悪感に揺らぐ必要は、これっぽっちも無い。

 ノーマンは、自ら望んで、ここにいるのだから。

 


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