第31話
ランダは血を絡ませた声で、ゆっくり話し始めた。
最初は、ブラウン姉妹を誘拐すれば、大金が得られる仕事があると、地元の先輩から聞かされた。
丁度バイクを新調したばかりで金欠だったランダは、誘拐なら楽勝だろうと、その仕事を紹介して貰ったが、すぐに後悔した。
依頼主はオンラインのみのやり取りで、音声も映像も全て隠されており、素性が一切解らなかった。
やはり断ろうと思ったが、提示された金額に目がくらんだ。
エイダ・ブラウンが現れるという時刻と場所に行くと、エイダは確かに居た。 居たが、腹にナイフを突き立てられ死んでいた。
そしてそのナイフは、数日前に失くしたランダのナイフだった。
柄に化け猫が彫られたランダ特注のナイフは、刃渡りが17センチもあり、その刀身の全てがエイダの腹に見事に埋まっている。
ランダは慌てた。
このままでは、殺人犯にされてしまう。 凶器がある限り、アリバイとかそんなものは、このネムレスで何の証明にもならない。
ナイフを抜いたところで、傷跡から特定されるだろう。
ランダは、傷跡をごまかすために、丁度視界に入ったショワンの特大モニュメント、クロコダイルに目を付けた。
クロコダイルの尾が、エイダの腹の傷を抉ってしまえばー。
「殺害容疑から免れるために、串刺しにしたのか。」
「あぁ・・・そうだよ。木を隠すなら、森の中だ・・。」
「クズめ。・・まぁいい、それで、依頼主は誰だ?」
「オルドの、役所の人間だった・・・。」
「なんだと?」
「俺は、そのまま、とんずらしようと思ったんだがよ、ニュースを見た依頼主から、エイダの死体を持って来いと言われた。」
「死体を?」
「だが、死体は、もう、そこの嬢ちゃんに送られた後だったからな、だから依頼主は、もう片方を連れてこいと、言ってきた。今度は、報酬が倍になった。」
その後は知っての通り、ランダはイブの誘拐に失敗した。
「俺は、少しでも報酬を貰おうと思って、依頼主にコンタクトをとったら、待っていたのは、役所の人間と、警察だった。」
「それで、署に捕まっていたのか。」
「あぁ、そうだ・・、警察の奴らは、なんで俺を捕まえたのか、わかっちゃいなかったから、・・お前らのお陰で、助かった。」
苦しそうにゆっくり話していたランダは、うまく咳が出来ず、ゴボゴボと血の塊を口から噴き出している。
血が固まって、うまく呼吸が出来ず、目の焦点も合わない。
「おいまて、まだ死ぬな。キム殺害は、どうして依頼された?」
「あいつが、持ってた・・・カギを、強奪するためだ。」
「カギ!・・・やはり、やはりそうか、持ってたか。」
「カギは、ドローンで、依頼主に、送った・・・。」
「なぜ、キムも串刺しにしたんだ?」
「・・・警告、だ・・・。お前らに、警告したか、った。」
「どういうことだ?」
「このヤマは、やべぇから・・・お人よしの坊主と、お嬢ちゃんは、せめて、死なねぇ、よう、に・・・。」
そこまで言うと、ランダの身体は魂が抜けたかのように脱力し、重力に負けた瞼が、静かに落ちた。
警察から解放され、一度は自由の身となったランダが、どうしてまた依頼を受けてキムを殺害したのかは、もうわからない。
だが、手段はどうあれ、ランダがイブたちを心配して警告をした事実から、金銭がらみの依頼では無かったのではと推測できる。
おそらく、ランダは脅され、依頼を受けざるを得なかったのではないか? その真相は、依頼主をみつけて、問いただすしかない。
「ウィルソンさん、ランダは・・・。」
「今、死にました。」
そうですか、と言葉にしたはずが、音にならなかった。
いつもなら、こんな時、手を合わせて読経を始めるのだが、彼を殺したのは、まだ震えの止まらない、この手だ。
自ら殺したくせに、死後の安寧を慈しむのは、都合がよすぎる。
ノーマンは自身の両手をじっと見つめ、立ち尽くした。
「ねぇ、話は・・・終わったの?」
そうしていると、イブのか細い声がやってきた。
膝枕をされていたツーは、両手を組んで綺麗に眠っている。
「終わったなら、帰りましょうよ。ツーと一緒に、おばあちゃんの家に帰るって、約束、したから。」
涙で流れたアイシャドウが、イブの頬に黒い線を描いている。
そうだ、もう帰ろう、あの平和な時間が流れる家に。




