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J.NOMANの手記  作者: 祇膳
死ななくていいのに
30/59

第30話

 極度の緊張で、儘ならない身体、狭くなる視野、回らない思考。

 まだ、どきどきと早鐘をうつ心臓に追い打ちをかけるように、鼻につく血の匂いが現実を忘れるなと主張してくると、憔悴しきった身体がどっと重くなる。 まるで何時間も戦っていたかのようだ。

 「ノーマンさん、その、大丈夫、ですか?」

 殺しはしないと約束した舌の根の乾かぬ内に、血に染まった。

 それもまさか、ノーマンが破るとは、思ってもいなかった。

 「・・・わ、私は、なんてことを。」

 目の前で起きた惨劇に、自らの行動に、ノーマンは興奮が収まらず、ぶるぶる震える体をそのままに、両手を見つめ項垂れた。

 成るべくしてなった事態だと了承するしかないのだが、ノーマンは割り切れない。 感情に身を任せても、どうにもならないというのに、感情の波に溺れてしまう。

 「ノーマンさん、・・・わかっていたでしょう。」

 「・・・わからない、わかりませんよ、わかりたくもない!」

 「ノーマンさん。」

 「今、どこかじゃない、ここで、今、この手で、ほんの数分の間に・・、この、この手で、死ななくてもよかったはずなのに。」

 ノーマンもウィルソンも、人死にが出た銃撃戦で、アドレナリンが出て興奮している故の動揺だという事は、わかっている。

 ウィルソンがなだめるようにノーマンの肩を抱くと、ノーマンはすがるように掴んで、その胸に沈みこんだ。

 ウィルソンは優しく背中を叩き、姿勢を正す。

 「ノーマンさん。」

 「すみません、ウィルソンさん。・・・すみません。」

 「とにかく、ご無事でよかった。」 

 何とか落ち着こうと、ひとつ深呼吸をして、周囲を見渡すと、少し離れた場所でガレージ屋の店主が、死んでいる。

 「・・・関係なかったのに。」

 突如始まった銃撃戦に、店主は思わずランダ側から応戦したせいで、訳も分からず巻き込まれ、無関係なのに鮮血に散った。

 肝心の当事者であるランダは、瀕死だが、まだ生きている。

 そしてツーは、イブの膝に頭をあずけ、ピクリとも動かない。

 イブは呆然とした表情でツーの髪をなでていた。

 ああ、その様子からして、だめだったか。

 少しの間、じっとイブたちを見つめていたが、ウィルソンが気持ちを切り替えるように立ち上がる。

 「話を聞くなら、今のうちですね。」

 ランダは、バイクにぐったりと背をもたれ、どんどん大きくなる赤い水溜まりの上に、だらしなく座っている。

 ウィルソンが水たまりを踏んで、ランダの目線にかがむ。

 「・・・よぉ、まさか坊主に、やられるとは、なぁ。」

 喉に血が絡んでいるのか、ランダの声はゴボゴボとした水音を伴い、鼻と口から苦しそうに血液が垂れ流されている。

 「お前には聞きたいことがある、まだ、死ぬなよ。ブラウン姉妹を、誘拐してどうするつもりだった?」

 「・・さぁね。」

 「どうして、エイダ・ブラウンを殺した?」

 「・・・俺じゃねぇ。」

 「お前じゃない?では、誰が殺した?」

 「知らねぇ、よ・・。俺が行ったときには、もう死んでた。」

 「ではどうして、キムを殺した?」

 「・・・殺せって、依頼された。」

 「知っている事を、すべて話せ。でないと・・・。」

 「・・・はは、殺すってか?もう、すぐ死ぬぜ、俺は。」

 「きさま・・・!」

 「ふっ、ざまみろ。けどま、いいぜ、アンタのその、悔しそうな顔、見れただけで満足だな・・・、冥途の土産に、話してやる。」


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