第30話
極度の緊張で、儘ならない身体、狭くなる視野、回らない思考。
まだ、どきどきと早鐘をうつ心臓に追い打ちをかけるように、鼻につく血の匂いが現実を忘れるなと主張してくると、憔悴しきった身体がどっと重くなる。 まるで何時間も戦っていたかのようだ。
「ノーマンさん、その、大丈夫、ですか?」
殺しはしないと約束した舌の根の乾かぬ内に、血に染まった。
それもまさか、ノーマンが破るとは、思ってもいなかった。
「・・・わ、私は、なんてことを。」
目の前で起きた惨劇に、自らの行動に、ノーマンは興奮が収まらず、ぶるぶる震える体をそのままに、両手を見つめ項垂れた。
成るべくしてなった事態だと了承するしかないのだが、ノーマンは割り切れない。 感情に身を任せても、どうにもならないというのに、感情の波に溺れてしまう。
「ノーマンさん、・・・わかっていたでしょう。」
「・・・わからない、わかりませんよ、わかりたくもない!」
「ノーマンさん。」
「今、どこかじゃない、ここで、今、この手で、ほんの数分の間に・・、この、この手で、死ななくてもよかったはずなのに。」
ノーマンもウィルソンも、人死にが出た銃撃戦で、アドレナリンが出て興奮している故の動揺だという事は、わかっている。
ウィルソンがなだめるようにノーマンの肩を抱くと、ノーマンはすがるように掴んで、その胸に沈みこんだ。
ウィルソンは優しく背中を叩き、姿勢を正す。
「ノーマンさん。」
「すみません、ウィルソンさん。・・・すみません。」
「とにかく、ご無事でよかった。」
何とか落ち着こうと、ひとつ深呼吸をして、周囲を見渡すと、少し離れた場所でガレージ屋の店主が、死んでいる。
「・・・関係なかったのに。」
突如始まった銃撃戦に、店主は思わずランダ側から応戦したせいで、訳も分からず巻き込まれ、無関係なのに鮮血に散った。
肝心の当事者であるランダは、瀕死だが、まだ生きている。
そしてツーは、イブの膝に頭をあずけ、ピクリとも動かない。
イブは呆然とした表情でツーの髪をなでていた。
ああ、その様子からして、だめだったか。
少しの間、じっとイブたちを見つめていたが、ウィルソンが気持ちを切り替えるように立ち上がる。
「話を聞くなら、今のうちですね。」
ランダは、バイクにぐったりと背をもたれ、どんどん大きくなる赤い水溜まりの上に、だらしなく座っている。
ウィルソンが水たまりを踏んで、ランダの目線にかがむ。
「・・・よぉ、まさか坊主に、やられるとは、なぁ。」
喉に血が絡んでいるのか、ランダの声はゴボゴボとした水音を伴い、鼻と口から苦しそうに血液が垂れ流されている。
「お前には聞きたいことがある、まだ、死ぬなよ。ブラウン姉妹を、誘拐してどうするつもりだった?」
「・・さぁね。」
「どうして、エイダ・ブラウンを殺した?」
「・・・俺じゃねぇ。」
「お前じゃない?では、誰が殺した?」
「知らねぇ、よ・・。俺が行ったときには、もう死んでた。」
「ではどうして、キムを殺した?」
「・・・殺せって、依頼された。」
「知っている事を、すべて話せ。でないと・・・。」
「・・・はは、殺すってか?もう、すぐ死ぬぜ、俺は。」
「きさま・・・!」
「ふっ、ざまみろ。けどま、いいぜ、アンタのその、悔しそうな顔、見れただけで満足だな・・・、冥途の土産に、話してやる。」




