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J.NOMANの手記  作者: 祇膳
死ななくていいのに
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第28話

死ななくていいのに 



 西に移動した太陽が街をオレンジ色に染めると、少し残っている青い空を道連れにして、いよいよ地上へ沈もうとしている。

 ウィルソンの白い大きなバンでは悪目出ちしてしまうので、ツーが手配した大型のSUVに乗り込み、すこしの不穏な空気をまとって、ノーマンたちはランダのガレージに移動を始めていた。

 この車は振動がすさまじく、腰から背中まで殴られている様だ。

 「ウィルソンさん、どうかくれぐれも・・・。」

 「わかっていますよ。殺しはしない、さらうだけです。」

 ノーマンは、ウィルソンがツーに兵隊と武器を要望した事をひどく咎め、殺しをするなら離反すると訴えた。

 スラムのビッグマザー・マチルダならば、現場を血の海に変えるほどの兵隊も武器も、十分に用意することが出来るだろうが、そんな事態は古代仏教に慈しむ能満には看過できるはずもない。

 「ね、ランダから返事よ。ガレージで待ってるって。やっぱり、まだ私たちの事を何も疑っていないみたいね。」

 ランダにメッセージを送っていたイブは、ガタガタゆれる車内で前のシートにしがみついたまま、器用にタブレットを操作する。

 ガレージまでは、そう遠くなかった。

 ショワンを一望できる高台から、来た道と反対に続く坂を下りれば、すぐにお目当てのガレージの、真っ赤な屋根が見えた。

 殺しはしないと約束してくれたが、目的はランダをさらう事だ。

 大人しく従えばいいが、十中八九、騒動になるだろう。

 どうか人死にがでませんようにと、ノーマンは祈った。


 まもなく目的のガレージに到着すると、バイクは外に出されており、ランダとガレージ屋の店主と思しき人物が、楽し気に談笑しながら、イブたちを待っていた。

 「またせたわね、バイクは、無事?」

 イブがなんでもない表情でSUVから下りてくると、その車はなんだと言いたげなランダがぶっきらぼうに近寄ってくる。 

 イブの後ろにノーマンも続き、ウィルソンたちは車内で待機だ。

 「おお、遅かったじゃねえか。待ちくたびれたぜ。」

 ランダはイブとノーマンの背後のSUVを珍し気にじろじろと眺めている。 今となっては、そんなランダの仕草すら、憎々しい。

 「えぇ、スラムでちょっとお世話になってて。メッセージしたでしょ?この車も、その人たちに借りたのよ。」

 「ふん、まぁいいけど。で、キムってやつには、会えたのか?」

 (なんてしらじらしい!お前が殺したのだろう!)

 車内に待機するツーは、叫びだしそうになるのを我慢して、こぶしをギュっと握ると、薬指の爪が食い込んでズキリと痛い。

 イブはガレージ屋の店主から、バイクのカギと、保管にかかった費用などの書類を受け取ると、軽く目を通し、そそくさと大事な自分のバイクを入念に調べはじめた。

 何か仕掛けられていてはいないか?傷などないか? すっかり疑心暗鬼になってしまったが、バイクに異常はひとつもなく、きちんとガレージ屋の仕事を果たしてくれたようだ。


「で、これから、お前らはどうするんだ?」

 キムについて何も答えないノーマンとイブを怪しむこともなく、あっけらかんとした表情のランダ。 何も気が付いていないのならば、それはそれで好都合だと、ノーマンはごくりと唾を飲み込む。

 「今から行きたい場所があるんです。この車で行きましょう。」

 「え?まぁ、いいけど。俺はバイクがあるから、ついてくわ。」

 「いえ、あまり目立ちたくないので、一台で行きたいのです。」

 「けどなぁ、あんま、バイクから離れたくねぇんだよ。」

 「ですが、あまりぞろぞろと連れ立っては・・・。」

 「じゃあ、別々で行きゃいいだろ。場所教えてくれよ。」

 ノーマンの目的は、ランダ一人をウィルソンとツーが待っているSUVに乗せ、そのまま拘束することだったが、思った以上に車に乗ることを渋るランダに、おろおろと困惑する。

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