第27話
敷地には廃車が並んでいるだけで、人の気配はみじんもない。
「・・・ウィルソンさん。」
ノーマンは影を踏まないように、ウィルソンの背後に立つ。
「あなたの目的は一体、何なのでしょうか?拙僧達に、何をしてほしいのですか?」
「私はね・・・ありきたりな話ですが、復讐をしたいのですよ。いや、僧侶のあなたに言うべき事ではないのですが。」
「お父様の復讐ですか?」
「ええ、当たり前のように殺された父と、ゴミくずのように切り捨てられた私の恨み、そして、母の無念です。・・・それと、私には妻子こそいませんでしたが、パートナーはいたんですよ。慎ましくも幸せだった。それも・・・奪われた。」
「ウィルソンさん・・・。」
「奪われた命と幸せは、同じように相手を不幸にして、さらに現金化する事で少しは報われる・・・そうは思いませんか?」
「・・・何があなたの慰めとなるかは、心の動き次第です。」
ウィルソンはノーマンに背を向けたまま、乾いた声音で嘲るような、しかし、どこか救いを求めるような空気をまとっていた。
ノーマンは、そっと背後で合掌し、あえて説法はしない。
沈黙という空気が、ノーマンの答えだ。
「ノーマンさんは、本当に、お聡い方だ。」
ウィルソンは振り返り、さわやかな笑顔でノーマンに右手を差し出すので、ノーマンも同様に、にこりと微笑み、握手を交わした。
もしノーマンが復讐を諫めるような説法をすれば、彼の協力は得られず、行き詰り、エイダの死の真相は永遠にわからないだろう。
だから否定も肯定もせず、心次第だと濁し沈黙した。 自分はこんなにもずるい答えを出せるのかと、胸がチリチリ焦げる。
あぁ、これが、NLCの毒に染まった訳ではありませんように。
「ウィルソン、あなたは、オルドの財宝を奪うつもりなのね?」
いつの間にか、イブとツーは背後にいた。 どうやら、二人の話をしっかり聞いていたようだ。 何故かツーが涙ぐんでいる。
「ええ、そのつもりですが、全部とは言いません。イブさん、本来なら子孫である、あなたのものです。」
「・・・どうだか。ブラウン家がジョン・ドゥの子孫だなんて、どうやって証明するかもわからないのに。」
「財宝を暴けるのは、ジョン・ドゥの子孫だけですよ。」
ウィルソンはスーツのポケットから電子タバコを取り出すと、満足そうに吸い込んで紫煙をくゆらせた。 甘い香りが漂う。
「財宝へのルート最奥部、肝心要の最後の扉には、ブラウン家が持つカギと、ジョン・ドゥのDNAが必要になります。」
「カギ・・・。」
「つまり、あなたが扉を開けば、それだけでジョン・ドゥの子孫だという証明になる。私はそれも世間に公表するつもりです。」
「そう・・・。あなたは、財宝と、真実を暴きたいのね。」
「はい。その通りです。現在のオルドを崩すために。」
ふーー、と長く紫煙を吐き出すウィルソンの手に力が入る。
ウィルソンはオルドの汚職事件や様々な闇の情報を握っている。
しかし、単純にそれらを公表しても、ただの娯楽なゴシップとして握りつぶされてしまう。 だから、今回の事件がいいタイミングなのだ。 その為にイブたちの協力がどうしても必要だった。
「さて、今後の事を話しましょうか。」
ウィルソンがパン、と両手をたたき合わせる。
今後の事、さしずめ、キム殺害の疑いがあるランダについて、どうするか考えなくてはいけない。
イブは、自分のバイクがランダの知り合いのガレージ屋にある事を伝え、ガレージ屋の住所をウィルソンに渡して見せた。
「まだ、私たちが感づいたことは、気づいてないと思うわ。」
「ウィルソンさん、ランダを呼び出しますか?」
「いえ、ここは直接・・・、ガレージに行きましょう。」
「・・・なぁ、俺は?俺はどうすんの?」
ランダについて話し始めた三人の傍らで、ツーが不機嫌そうに呟いた。 忘れてはいけない。彼も、ショワンのマザー・マチルダの息子という特別な重要人物だ。
「ツーさん、あなたは、ショワンのビッグマザーの息子だ。」
「え?あ、ああ、まぁそうだけど。」
「・・・兵隊と武器は、どれくらい手に入りますか?」
ウィルソンの言葉に、ノーマンはピリリとした緊張を抱いた。




