第24話
「じゃぁなぜ・・・?」
「あなたたちが、オルドの役所で騒ぎを起こしてから、少々、調べさせていただきました。」
大家が警察まで助けに来てくれた、あのオルドの役所での騒動の時に、ウィルソンは事の詳細を聞いて、ノーマンたちを気にかけ、今まで遠くから見守っていたのだという。
「監視の間違いでしょ。」
「これは手厳しい。」
イブはウィルソンの事が気に食わないらしく、ずっとツンとした口調で、どこか喧嘩腰だ。 大人なウィルソンは優しく微笑む。
「ユージーンも、あなたたちを心配しているのですよ。」
きっと、ウィルソンは警察騒動の後からこれまでの経緯を、すべて報告しているのだろう。 ・・・情報屋ユージーンの元へ。
「なぁ、ウィルソンさんよ。キムを殺した奴ってのは?」
大家の情報屋としての一面に面食らっているノーマンたちを傍目に、今まで黙っていたツーがしびれを切らした。
「あいつは、クズだがよ。それでも一応、ツレだったんだ。」
「そうでした。そのお話をしないといけませんね。」
「もったいぶらずに、早く教えてくれよ。」
「はい、犯人は・・・ノーマンさんの顔見知り。」
「え?」
「ランダ。ランダですよ、キムさんを殺害したのは。」
「え!嘘でしょう!?」
イブは前のめりになって、ウィルソンの顔をのぞき込む。
まさか、ありえない、いや、ありえなくないのか?
何故かオルドの警察署に捕まっていたランダ。
その後、大した理由もなく行動を共にしたのは、自由気ままな性格だからと思っていたが、そこに深い理由があったというのか。
しかし、なぜ、どうしてキムを殺す必要があった?
それも、エイダと同じ死に方で。
「・・・私、ランダにキムの事を話したわ。」
「イブ?」
「私、ランダに連絡した。エイダの遺品の手掛かりがあるかもって。明日、キムって人に会うって。それで・・・!」
「イブ、殺されたのは、あなたのせいではありませんよ。」
「それでも・・・!」
「な、なぁ。ランダってのは、誰のことだ?」
自責の念にうろたえるイブと、それをなだめるノーマンをおろおろと見比べていたツーが、こそっと質問する。
そういえば、ランダについて詳しいことは知らない。
そもそも、ランダと一番最初に会ったのはいつだった?
「ランダ。ランダ・ミルズ。」
ウィルソンが空気を替えんとばかりに、大きな声で名を呼ぶ。
ざわついていた空気が、瞬間、しんと静まった。
「ランダは、スラム出身のギャングで、化け猫のタトゥが自慢。犯罪歴は空き巣に窃盗、恐喝といった小銭稼ぎの小悪党ですが、最近、大きな仕事をもらったと酒場で騒いでいたそうですよ。」
「大きな仕事?」
ウィルソンの言葉に、ノーマンはピリリと嫌な予感がした。
「・・・ブラウン姉妹を、誘拐せよ。」
「なんですって!?」
「しかしどうした訳か、姉妹の片方は、殺されてしまった。ランダは、もう片方を誘拐しようとして、失敗した。」
イブの誘拐を阻止したのは、ノーマンだ。 イブと手を取り合って逃げたあの日、あの襲撃はよくある人さらいではなかったのか。
「誘拐?誘拐ですって?誘拐なら、殺す必要・・・!」
「イブ、落ち着いて。」
「殺す必要なかったじゃない!どうして、どうして殺したの?」
イブは長い黒髪を激しく揺らして動揺し、興奮している。
ぶんぶん頭を振り回すので、ポニーテールに結われた黒髪は、もはや凶器だ。 ぱしぱしと周囲の男たちを叩いている。
「エイダも、キムって人も、どうして殺されたの?」
「キムさんは、エイダの遺品を持っていた可能性があります。」
「どういうことなの?!なぜ、あなたがそんな事・・・。」
「私はブローカーです。キムさんは、良い取引相手でした。」
ウィルソンは足を組みなおしグリーンティーを静かに飲み干す。
ブローカーだという言葉に、色々な事が腑に落ちた。
妙に身なりがいいのも、スラムで臆さないのも、ブローカーとして厄介な連中相手に渡り合ってきた故の貫禄なのだろう。
ウィルソンは、主な顧客はオルドの富裕層で、買い付け先はショワンにとどまらず、NLC全域に及ぶため裏での顔は広いらしい。
となれば情報屋ユージーンとも、なるほど、持ちつ持たれつだ。
「キムさんから私のもとに連絡があったのですよ。いわくつきの大変な商品がある、買い取ってくれ、そして、匿ってくれと。」




