第22話
あらたな死
広場につくと、大勢の野次馬と警察に囲まれたクロコダイルが、新しく塗り重ねられた血液で、てかてかと黒光りしている。
それは実に艶めかしく、おどろおどろしく、たくましい。
ノーマンたちが到着したまさにその時、キムの遺体は警察のワンボックスカーに積み込まれ、運び出されるところだった。
野次馬の人込みで、遺体の様子を見ることはできなかったが、先に現場にいたワンとスリーと合流し、これまでの様子を聞いた。
キムの遺体はエイダと同じく、闇が一番深い夜明け前に、目撃者もなく、ひっそりとクロコに串刺しにされたようだ。
エイダの時と違うのは、クロコの周囲に真新しい大量の酒瓶と、吐しゃ物が落ちていた事から、キムは泥酔していたと見られる。
落ちている酒瓶はどこにでも売っている安酒だから、そこから犯人をたどることは難しいだろう。 しかし逆にいえば、エイダの時とは違い、酒しか用意できなかった。 そして、その安酒はどこでも売られているとはいえ、高級店に置かれる事は少なく、大量に販売するのは、庶民が使う店くらいだ。 その事から、犯人は富裕層ではなく庶民、スラム、NLCの没落者と関係があるだろう。
「なぁ、あんたたち、これからどうする?」
青いライダースに長髪のワンが、一通りの説明を終えると心配そうにノーマンたちを覗きこんだ。 見た目と違って、優しい。
「もう少し、この広場を見て回ろうと思います。」
「なら、俺が用心棒がわりに一緒にいてやるよ。」
「まてワン。それは俺の役目だ。」
心配したワンの申し出を、マチルダばあさんにノーマンたちを連れ帰るように命じられているツーが拒否する。
「わかったよ」とワンはしぶしぶ納得し、スリーとともに野次馬の中を去っていった。
キムの遺体は護送されたが、まだ規制線が張られ、クロコの周囲を2,3人の警察が後ろ手に組んで警戒している。 その様子を写真に撮ったりライブ配信したり、野次馬の人々は楽しんでいた。
「この中に、目撃者とかはいなさそうね、ノーマン。」
「そうですね・・・。」
困った表情のイブをよそに、ノーマンは野次馬の間をぬうようにして、規制線のギリギリ目の前まで行くと、無造作に座り込んだ。
「どうしたの?」人ごみをなんとかすり抜けて、ノーマンに続いてきたイブが不思議そうに見ていると、ノーマンは合掌する。
一礼した後、大道寺でさんざん修行した読経を始めた。
近くにいた警察が怪訝な顔をみせたが、とくに咎めはしない。
周囲の野次馬もノーマンの読経に気づく人は少なく、がやがやと騒がしい中で、ノーマンの読経の声がかき消されていく。
けれど、そばにいるイブとツーの耳には、しっかり聞こえる。
殺されたキムは、ノーマンとイブは会ったこともない他人だが、ツーにとっては面識のある友人だ。 すこし、涙ぐんでいる。
ノーマンは、キムのためだけではなく、エイダの事も思って読経した。 その意図に気が付いたイブも、神妙な面持ちで合掌する。
数分で読経を終えたノーマンが立ち上がり、合掌すると、近くにいた警察が小さく頭を下げて会釈したので、微笑んでみせる。




