表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
J.NOMANの手記  作者: 祇膳
あらたな死
22/37

第22話

あらたな死



 広場につくと、大勢の野次馬と警察に囲まれたクロコダイルが、新しく塗り重ねられた血液で、てかてかと黒光りしている。

 それは実に艶めかしく、おどろおどろしく、たくましい。

 ノーマンたちが到着したまさにその時、キムの遺体は警察のワンボックスカーに積み込まれ、運び出されるところだった。

 野次馬の人込みで、遺体の様子を見ることはできなかったが、先に現場にいたワンとスリーと合流し、これまでの様子を聞いた。

 キムの遺体はエイダと同じく、闇が一番深い夜明け前に、目撃者もなく、ひっそりとクロコに串刺しにされたようだ。

 エイダの時と違うのは、クロコの周囲に真新しい大量の酒瓶と、吐しゃ物が落ちていた事から、キムは泥酔していたと見られる。

 落ちている酒瓶はどこにでも売っている安酒だから、そこから犯人をたどることは難しいだろう。 しかし逆にいえば、エイダの時とは違い、酒しか用意できなかった。 そして、その安酒はどこでも売られているとはいえ、高級店に置かれる事は少なく、大量に販売するのは、庶民が使う店くらいだ。 その事から、犯人は富裕層ではなく庶民、スラム、NLCの没落者と関係があるだろう。


 「なぁ、あんたたち、これからどうする?」

 青いライダースに長髪のワンが、一通りの説明を終えると心配そうにノーマンたちを覗きこんだ。 見た目と違って、優しい。

 「もう少し、この広場を見て回ろうと思います。」

 「なら、俺が用心棒がわりに一緒にいてやるよ。」

 「まてワン。それは俺の役目だ。」

 心配したワンの申し出を、マチルダばあさんにノーマンたちを連れ帰るように命じられているツーが拒否する。

 「わかったよ」とワンはしぶしぶ納得し、スリーとともに野次馬の中を去っていった。

 キムの遺体は護送されたが、まだ規制線が張られ、クロコの周囲を2,3人の警察が後ろ手に組んで警戒している。 その様子を写真に撮ったりライブ配信したり、野次馬の人々は楽しんでいた。

 「この中に、目撃者とかはいなさそうね、ノーマン。」

 「そうですね・・・。」

 困った表情のイブをよそに、ノーマンは野次馬の間をぬうようにして、規制線のギリギリ目の前まで行くと、無造作に座り込んだ。

 「どうしたの?」人ごみをなんとかすり抜けて、ノーマンに続いてきたイブが不思議そうに見ていると、ノーマンは合掌する。

 一礼した後、大道寺でさんざん修行した読経を始めた。

 近くにいた警察が怪訝な顔をみせたが、とくに咎めはしない。

 周囲の野次馬もノーマンの読経に気づく人は少なく、がやがやと騒がしい中で、ノーマンの読経の声がかき消されていく。

 けれど、そばにいるイブとツーの耳には、しっかり聞こえる。

 殺されたキムは、ノーマンとイブは会ったこともない他人だが、ツーにとっては面識のある友人だ。 すこし、涙ぐんでいる。

 ノーマンは、キムのためだけではなく、エイダの事も思って読経した。 その意図に気が付いたイブも、神妙な面持ちで合掌する。

 数分で読経を終えたノーマンが立ち上がり、合掌すると、近くにいた警察が小さく頭を下げて会釈したので、微笑んでみせる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ