表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
J.NOMANの手記  作者: 祇膳
あらたな出会い
20/31

第20話

 ツーが知り合いに連絡を取っている間、ワンとしばし世間話をした。 彼らは孤児で、他の地域のスラムで、沢山の子どもたちと集まって生活していたが、悪い大人の手によって拠点を追われ、何人かの子供たちと流れたが、一人、また一人と減り、いよいよ三人だけになってしまった。 食べるものはとうに無く、体に虫が這い、もうだめだと思った時に、マチルダばあさんに救われた。

 だから、何があってもマチルダばあさんが一番なんだと笑う。


 「なぁ、キムなんだけどさ、明日なら来れるってよ。」

 明日の正午に、ここ、マチルダばあさんの家に来るように話をつけたぞ、と、通話を終えたツーが満足げにやってきた。

 今すぐ、今日にでも話を聞きたかったのだが、あまり無理を言っても仕方ない。 イブは一旦、ランダに連絡する事にした。

 『用事はもうおわったのか!?』

 開口一番、待ちくたびれてイラついた怒声が飛び込んでくる。

 「ランダ、まだよ。明日、人と会う事になったの。」

 『人ぉ?誰と会うんだ。』

 「ショワンの盗品流しの人よ。もしかしたら、エイダの遺品が何か見つかるかもしれないと思って。」

 『ふぅん、なんていう奴だ?ガレージ屋にも聞いてみるぞ。』

 「えぇと・・・キムよ。」

 『オーケー、キムね。聞いてみるわ。』

 「ランダ。また明日、終わったら連絡するから、バイク、くれぐれも大事にしておいてね。」

 『わかってるよ!じゃぁ、なんかわかったら連絡する。』


 その日は、マチルダばあさんの好意で泊めてもらう事になった。

 むさくるしい男たちの中で、唯一の女性であるマチルダに、イブは郷愁の思いとともに、心がほぐれた。

 明日の約束まで、まだまだ時間がある。

 エイダの死を探るために、動こうと思えば動けた。

 死体を発見したホームレスを探したり、邪魔が入って満足に見れなかったクロコダイルの広場の様子を、もう一度、ワンたちに付き添ってもらっていくこともできたのだが、イブはそうしなかった。

 夕飯の支度を始めるというマチルダを、ワンが手伝おうとして皿を割ってから、それまで悩んでいたイブが、はりきって手伝い始めたのだ。 夕飯のお手伝いなんて、今やるべき事ではない、目的のためにすべきことは、他にも沢山あるはずだ。

 そんなことは、イブもわかっている。

 ノーマンも解っていたが、早く動けと彼女を責めることなど、どうしてできるだろうか? どうか想像してほしい、悲しむ時間を自ら捨て、振り返ることを許さず、大人たち、男たちと、対等に張り合おうと胸を張る少女の張り詰めた心を。

 ほんのひと時、わずかな甘い時間があっても、罰は当たらない。


「ねぇ、ノーマン。」

 夕食と片づけを終えたイブが、パッチワークでカラフルに彩られた柔らかいソファに体を埋めて、ノーマンにぽつりささやく。

 「はい、なんでしょう。」

 ノーマンが座る背の高い赤いスツールは、ガムテープで補強されており、動くたびにギシギシと大きな音で軋む。

 「私はね、ノーマン。聞いて。私はね・・・。」

 「はい、聞いていますよ。」

 「誰にも、死んでほしくなかったの。これからも。」

 「はい。」

 「だけどね、だけど・・・。」

 これまでの強気な雰囲気とは打って変わって、まるで子供のようなイブの口調に、亡き双子のエイダの影を見た。

 「もし、私の大事な人の人生がおびやかされるのなら、私は、おびやかす人を殺すわ。」

 「イブ。」

 「それが私の知ってる人だとしてもよ。だから、ノーマン。」

 「・・・はい。」

 「どうか私を、裏切らないでね。」

 まるで夕闇に沈んでいくように、イブの声は、か細かった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ