第19話
マチルダばあさんは、体内埋め込み式の携帯電話を導入しているらしく、自分の掌やこめかみあたりを指でつついている。 皮膚の上からタップ操作で利用できるらしい。
高齢だが使い慣れており、器用に操作して連絡を終えると、また新しいココアをいれてくれた。
ココアが冷め切らない程の時間で、三人の男がこの部屋に遠慮もノックもなく、どかどかと足音を鳴らしながら、やってきた。
「急用って、なんだよばーちゃん!」
「俺たちも忙しいんだが。」
「また電球が切れたとかじゃないだろうな?」
男たちは文句をいいながら、しかし満更でもなさそうな表情で、勝手知ったる我が家といった様子で入ってくる。
「あんたたち、こないだのクロコの件、話しておやり。」
青いライダースジャケットに、ロングヘアーの男がマチルダばあさんに挨拶のハグを交わすと、「わかった」と素直に答える。
「やぁ、俺はワンだ。」青いライダースの男が言う。
続いて、その後ろで黒い作業用ツナギ服の男が手を挙げる。
「俺はツーだ。隣のコイツは、スリー。」
[ツー]と名乗った男の隣で、同じ黒い作業ツナギ服を、だらしなく右肩だけ出しているスキンヘッドの男が卑屈に笑っている。
「1、2、3?」
「ああ。わかりやすいだろう?」
驚いているイブに、ワンが肩をすくめて笑って見せた。
エイダが発見されたのは、一番闇が深くなる夜明け前だった。
警察は適当な捜査しかしなかったので、確実な死亡推定時刻はわからないが、流れる血が鮮明で大量だったことから、逆さ立ちのクロコダイルに串刺しにされたのと同時だと考えられる。
となれば、死因は突き刺さった時の腹の穴が原因だろう。
そして、薬を盛られたか、意識の無い状態で突き刺さった。
生きたままの人間を巨大なモニュメントに突き刺そうとすれば、当然暴れて騒ぎになる。 だが、誰も目撃者がいない上に、エイダの遺体は抵抗をした形跡が無かった。
マチルダばあさんには、ショワンの情報が沢山流れてくるので、ホームレスがエイダの遺体を発見した後すぐ、ワン、ツー、スリーの三人は、警察が来る前に到着することができた。
彼らは現場を荒らさないように、色々と調べていた。
「エイダは、何か持っていなかった?」
イブの言葉に、ワンは顎に手を置いて考える身振りをする。
「何も持ってなかったぜ。」
「本当に?なにも無かった?」
「あんまり遺体に触らないようにしてたから確実じゃねぇが。」
「その、・・・鍵、とか、ネックレスとか、なかったかしら?」
「鍵?あんだよ、家の鍵でも無くしたのか?」
「・・・無かったなら、いいの。」
[鍵]と聞いたノーマンは、(もしかして、エイダが拙僧に見せたかったというものは、鍵状のものなのか?)と思ったが、今ここでそれをイブに問いただすことは、マチルダばあさんやワン達に、財宝の鍵の存在を知らしめる事になりそうで、言葉を飲み込んだ。
「鍵とかネックレス、盗まれちまったのか?」
「・・・ええ、大事なものを・・・。」
「うーん、俺たちの前に先客がいたらわからねぇな・・。おい、ツー!お前の知り合いに、盗品流しのキムって奴がいたろ?」
「おう、いるよ。連絡してみるから、待ってろ。」




