第18話
その言葉に嘘はない。
ジョン・ドゥの子孫で財宝があるかもしれない事がエイダの死に関係しているとしても、そんなことは二の次で、どうして殺されたのか、誰が、殺したのか。 まず先に、どうしても知りたいのだ。
それに今はまだ、財宝だの、市長の子孫だの、言わない方が良いだろう。 誰に狙われているか知れない、物騒な街だから。
「事件のあった夜明け前、すぐに、あたしの耳にも話が入った。綺麗な遺体だったから身元もすぐにわかったさ。」
エイダは体に穴を残し、無残な姿だったのだが、ここショワンでは[綺麗な遺体]とされている事に胸が痛んだ。
顔をつぶされたり、欠損したり、とても人とは思えない状態、つまり、身元を特定することが困難な遺体が多い、という事だろう。
「まぁ知っての通り、警察はろくすっぽ仕事しないからね。とりあえず駆けつけた警察は二人。適当に規制線を張って、なかなか遺体をクロコからおろそうともしない。」
「そ、そう・・だったんですか。」
「陽が昇り始めると、人も増えてきて。うちの若い男たちが、若い娘があれじゃあんまり可哀相だっていうもんだからさ、あたしが警察に言って、うちの手数で遺体をおろしたんだよ。」
「え・・・!おばあさん達が?」
「ああ、そうだよ。若い娘が人目に晒されて、写真も撮られて、人の話題になるなんて、可哀相だろう。」
マチルダばあさんは、そう言うと遠い目をしてマグカップのココアを音を立ててすすった。 つられるように、ノーマンたちもマグカップでココアをすすると、懐かしい甘さに、舌が綻んだ。
マチルダばあさんは、ふぅとため息をつきながら、窓の外の喧騒に目を向けた。 窓はすりガラスで外の景色は見えないのだが、まるで思いをはせているかのように目を細める。
この地区は、地方からの来訪者が多いのか、地方の国語で話す人たちが多く、外は聞きなれない言葉が多く飛び交っている。
鼻をツンとくすぐる香辛料の香りは、地方の家庭料理だろうか。
「この地区は、ショワンの弱者が集う、集落みたいなもんさ。」
「弱者、ですか?」
「ああ、弱者さ。 人の食い物にされて、身ぐるみはがされて、行くあてが無くて、物乞いにもなれず、訳アリで流れてくる。そんな奴らが、最後の最後に助け合おうと、身を寄せ合ってるんだ。」
マチルダばあさんは、イブに向き合ってじっと見つめる。
「面倒事は、勘弁してほしい。すぐに出て行けと言いたいね。」
「そ、そう・・・ですよね。」
「ここ、ショワンは、不審死なんて日常茶飯事で、毎日どっかで死体がでちゃぁ、親兄弟族の絆だって簡単に金に変わる。だからわし達だけでも、助け合おうと生きているんだ。」
「おばあさん・・・。」
「・・・だから、あんたが、まだそんなに若いのに、ショワンまできて事件を暴こうだなんてしているのは、見捨てられない。」
「え・・・?」
「親兄弟の仇を探そうなんて、今時、ギャングでもしないさね。だから、久しぶりにジーンときちまったよ。」
マチルダばあさんは、そっとイブの手を両手で握りしめた。
しわしわの手は乾燥しているが、確かなぬくもりを感じて、イブは殺された自分のおばあちゃんを思い出し、胸がぎゅっと熱い。
妹を殺され、警察はあてにならず、疑心暗鬼で街をかけずり回ればギャングに追われ、どれだけ強がっても、まだ若い身空である自身の心はギリギリな状態で、本当はずっと心細かった。
思わずポロポロ涙がこぼれてしまう。
「これこれ、イイ女が泣くもんじゃないよ。涙は武器さね。」
「う、うん・・・。ごめんね、おばあさん。」
「とりあえず、当日現場に居た若いのを呼ぶから、話をきいてみるといい。わしより詳しいはずだ。」
「ありがとう、おばあさん。」




