第17話
「余計な邪魔が入ったわ。もう少し、あのクロコダイル・・・調べたかったわ。」
「また時間を置いて、戻ってみましょう。」
「そうね・・・。」
「しばらく、どこかで時間をつぶしましょうか。」
「それなら、私、ショワンの警察へ行きたいわ。」
「警察?」
イブの言葉に、ギクリとする。
ノーマンはNLCへ来てから日は浅いが、既に警察にいいイメージはひとつも持っていない。 オルドの役所から理由も聞かされず送致されたかと思えば、大家の鶴の一声であっさり解放された。
とても警察機能がまともに動いているとは思えない。
「イブ、警察は、怪しいんじゃないでしょうか?」
「けど、他に手掛かりがないの!」
「ですが・・・。」
「エイダの遺体と一緒に送られてきた書類、持ってきているの。この書類で身内だって解るから、きっと話が聞けるわ・・・。」
「イブ。オルドで私たちは警察に捕まったのですよ。大家さんが居たから助かりましたが、NLCの警察は、どこかおかしい。」
「だけど!・・・他にどうしろと、手掛かりなんて・・・!」
イブとノーマンが口論していると、背後の古びたビルの窓がガラリと大きな音を立てて開き、女性の太い声が響き渡った。
「うるさいね!こんなところで、喧嘩するんじゃない!」
ノーマンとイブは驚いて振り返ると、年老いた女性が眉間にしわを寄せて、二人を窓から見下ろし、にらんでいる。
「こんなところで、警察がどうとか、騒ぎ立てるのはおやめ!」
女性は握りこぶしを振りかざして、殴るようなジェスチャーをしてみせた。 慌ててノーマンは礼して合掌し、頭を下げる。
「こ、これは大変失礼しました。すぐに去りますので。」
「ああ、そうしておくれ。まったく、腐れ坊主が若い女と・・」
ノーマンの隣でおろおろしているイブを、じろりと舐めるような視線で見つめると、女性の表情が変わった。
「・・・あ、あんた!あんたは、この前殺された・・・!」
窓から身を乗り出してバランスを崩しそうになる女性を、ノーマンたちは慌てて制して、イブと顔を見合わす。
もしかしたら、エイダを知っている人かもしれない。
最初こそ叱られてしまったが、女性はノーマンたちをビルの中に招き入れてくれた。 乱雑と物が並ぶ生活感のあふれる部屋で、がたつくダイニングテーブルを挟み、にこやかに座っている。
どうやらこのビルは女性の所有物らしく、この部屋は管理室兼、居住室だという。 家庭的な生活感が漂っている。
「いやぁまさか、双子ちゃんだったとはね。残念だったね。」
女性は八十は超えていそうなおばあさんで、年相応に肥えた体に柔らかな花柄のワンピースがよく似合う。
「あの、お姉さん・・・。」
「あたしは、マチルダ。姉さんなんて、やめとくれ。ばあさんでいいよ。八十年以上もショワンにいるババアなんだ。」
マチルダと名乗る女性は、欠けた歯を見せてにかっと笑う。
人の流通が激しい大都会NLCのスラム、ショワンで八十年以上も住み続ける事は珍しく、彼女は若者達からも一目置かれているらしい。 この部屋には、ギャング達の真ん中で、笑顔で映るマチルダばあさんの写真が沢山飾られている。
「あの、お、おばあさん。エイダの事を知ってるんですか?」
「・・・長く住んでると、いろんな情報がはいってきてね。あんたの妹と、生きて会ったことはないんだが・・・。」
「そ、そうですか・・・。」
生きて会ったことはない、その言葉はどれだけイブの心臓を抉っただろうか。 思わず表情が曇ってしまう。
「あんたたちは、何が目的なんだい?」
「・・・エイダが、誰に殺されたのか、知りたいんです。」




