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J.NOMANの手記  作者: 祇膳
あらたな出会い
16/19

第16話

 少し前にあんな事件があったというのに、規制線もはられておらず、何もなかった顔をしている渦中のクロコダイルは、何度も塗り重ねられたようにまだらな黒色で、怪しく光っていた。 

 恐らくこれは、人の血だ。

 きっと、イブだけではない、沢山の人の血を、何度も何度も浴びて、黒く固まってしまっているのだろう。

 まるで拭えない呪いの様だ。

 「エイダは、ここで、串刺しになったの?」

 今にも泣き出しそうに震える声が、押し出される。

 ノーマンは掛ける言葉が無く、そっとイブの手を握った。

 握り返すイブの手は、ひどく弱弱しい。


 「坊主と少女が、イケナイ事でもしてんのか?」

 いつの間にか、背後に五人の男たちが、厭らしい笑みを浮かべ、嘲る声音で絡んでくる。 あっという間に囲まれてしまった。

 「ショワンへようこそ!観光ですかぁ?」

 「い~い場所、知ってるよ?ツアー代くれたら連れてくよ!」

 「おすすめのナイトクラブはどうだ?」

 男達は地元の若いギャングのようだ。 地元民じゃない人間を見るや否や、金銭を得てやろうと、ハイエナのように寄ってくる。

 ノーマンは涙目のイブを庇うように前に立ち、ガレージ屋を待っている筈のランダを視線で探すと、あろうことか、丁度やってきたガレージ屋と仲良くバイクを走らせ去っていくところではないか。

 (なんて間の悪い男なんだ!)思わず心の中で悪態をつく。

 イブが慌ててタブレットで連絡しようとすると、男の一人がイブの手首を掴んで阻止する。

 「おぉっと。可愛い細い腕だね、お嬢ちゃん。」

 「はなしなさい!」

 すかさずノーマンが間にはいって振り払う。 ランダに連絡する余裕が生まれない。 こういう時、体内埋め込み式のスペック携帯

だと助かるのだろうな、と無駄な思考がよぎる。

 誰か助けはないかと周囲を見渡すと、広場の外からこちらを見ている警察の姿があるが、腕を組んで仁王立ちで動こうとしないし、ノーマンが見ている事に気が付くと、背中を向けてしまった。

 (どうする・・・!?)

 金は持っていないし、持っていたとしても、一度渡してしまえば骨の髄までしゃぶりつくされて、終わりは無いだろう。

 悩んでいると、男の一人が、ノーマンの袈裟に手をかけた。

 「なぁ、坊主の袈裟っていくらで・・・・っ」

 がつん!

 鈍い音がしたかと思うと、突然、男が地面に転がる。

 ノーマンの右手はじんじんとした痛みと熱を持っている。

 (殴った・・・私が!?)

 咄嗟の事だった。 ノーマンは、男を殴り倒したのだ。

 自分でも信じられない行動と、坊主が暴力をふるった事実に、この場の誰もが硬直した。

 「ノーマン!」

 イブの声にはっとする。 いつかの日とは逆に、ノーマンはイブに手を引っ張られて、走った。

 すぐに男たちが追いかけてくるが、身軽なイブと健脚なノーマンは速く、不健全な男たちは、見る見るうちに離される。

 200メートルほど引き離されると、男たちは諦めたようだ。

 まだ、あの日、イブを襲ったランダたちの方がしつこかった。


 「ああ、あなたといると、走ってばっかりね。」

 はぁはぁ肩で息をしながら、イブはずるずる地面に座り込む。

 (ここは、どこだろうか?)

 息を整えたノーマンが周囲を見渡すと、アジアンテイストな看板と、提灯、モダンな店が並んでいる路地で、どこか懐かしい。

 「もう、こういう肝心な時にいないんだから、あのおじさん。」

 あのおじさんとは、ランダのことだ。

 「それは同感です。」とノーマンが呟くと、イブのタブレットがランダからのメッセージを受信した。

 【ガレージの住所送っとくぜ。】の一文と、マップの位置情報。

 イブはぶつぶつ文句をいいながら、先ほどの出来事を返信した。


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