第15話
あらたな出逢い
排気ガスで曇った道路を、大型バイク二台で並走している。
イブのバイクと、どこからもってきたのか、ランダのバイクだ。
昨日、オルドの有人駐車場に預けたままにしてしまったイブのバイクは、輸送料金を払ってアパートに届けてもらった。
予想外の出費に悩んでいると、大家が払ってくれたので、もう、しばらくは大家に頭が上がらない。
イブの後ろに座るノーマンは、バイクの騒音と振動に身を任せ、考えることを放棄していた。
結局、大家がなぜ警察と顔見知りで口をきけたのかも、ランダが[情報屋]と呼んだ理由を問うても、うやむやにされてしまった。
しかし、深く詮索しない代わりに、大家のアパートをいつでも、拠点として使わせてもらえる事になった。
ノーマンだけならいいが、もしかしたら誰かに命を狙われているかもしれないイブと、何故か一緒に行動を共にすることになったランダが身を寄せる場所が、必要だった。
道中、寂れたガスステーションで休憩中に、慣れた手つきで軽くバイクの整備をするイブを、ランダは珍しそうに眺めていた。
「嬢ちゃんのくせに、バイク、好きなんだな。」
「あなたも、もうちょっと好きになったら? ホイールがゆがんでるし、ステップが泥だらけ。せめて、きれいにしなさいよ。」
泥がこびりついてしまっているステップを指さすイブに、ランダはお手上げのジェスチャーをしながら、肩をすくめた。
「イブ。ショワンへは、その、事件後・・・。」
「はじめて行くわ。・・エイダの遺体は、送られてきたから。」
エイダの遺体は、かなり劣悪な状態で家に送られてきたらしい。
捜査とも呼べない程の調べの後、エイダは服飾品を全てはぎ取られた全裸の状態で、遺体の損傷も直されず、無機質な真黒の棺で、簡単な書類とともに、特種配送で送られてきたという。
強気だったり、涙を流したり、寂しそうだったり、色んな感情に揺れ動いていた少女の瞳は、今は怒りの色で溢れている。
しばらく走ると、スラム特有のいやな匂いが鼻についてきた。
街中は清潔とは言えず、いたる所にゴミが散乱し、吐しゃ物が道路にあふれ、物乞いは人でも殺してそうな人相の悪いやつらばかりで、バイクで走り抜けるイブ達にヤジを飛ばしてくる。
やがて大きな逆さ立ちのクロコダイルのモニュメントが見えてきた。 ショワンの中心部だ。
イブはクロコダイルを認めると、一気に緊張して体を硬くした。
近くにバイクを停めようとするイブを、ランダが制止する。
「ちょっとまて、ここはショワンだ。こんな所に停めるな。」
人気の多いここは目立ちすぎる、盗ってくれと言っているようなもんだ、とランダが注意する。
「俺の顔見知りに、ガレージ屋がいるから、来てもらおうぜ。」
「・・・信頼できるの?」
「ここらを歩く輩より、俺との付き合いの方が長いだろう?」
付き合いが長いといっても、たった数日の顔見知りだ。
それでも確かに、バイクのエンジンを停めた途端、周囲の輩がチラチラこちらの様子をうかがってくるので、ランダの言葉を信じた方がよさそうだ。
「じゃあ、俺はガレージ屋を呼ぶから、お前らは自由にしてこいよ。俺はガレージで待ってるから、終わったら連絡しろ。」
ランダはそう言うなり、ガレージ屋にコールをする。
楽しそうに話し始める様子からして、かなり親密な相手らしく、 にこにこ笑顔だ。 イブとノーマンは通話中のランダに片手をあげて挨拶をすると、ショワンのクロコダイルへ向かった。




