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J.NOMANの手記  作者: 祇膳
深奥
14/18

第14話

 「おい!まて、お前ら、俺だよ!待ってくれ!」

 ノーマンたちが振り返ると、厳重な留置室の檻の中から、見覚えのあるがたいのいい男が叫んでいた。

 「え、誰?」イブが逃げるようにノーマンの背後に隠れる。

 「き、昨日会っただろ?忘れちまったのか?」

 へへへ、とひきつった笑顔を見せる男は、昨日、公園でイブをさらおうとした男だった。 どうしてこんなところに?

 「俺も出してくれ!冤罪なんだ。」

 「・・・知りません、こんな男。」イブがツンと言い放つ。

 黒い化け猫のタトゥーが堂々と入っているこの男の名前は・・。

 「ランダ・・・でしたか?」

 「おお!そうだ、ランダだよ!」

 名前を呼ばれた男は嬉しそうにニカっと歯を見せて笑い、困ったような、縋るような視線をノーマンに必死に送っている。

 「なぁあんた、ユージーンと知り合いなんだな!?たのむ、助けてくれ!俺はなにもしちゃいないんだ。」

 「何もって・・・、さらおうとしたじゃない!」

 「悪かったよ、けど、未遂だ!」

 檻を挟んで、ランダとイブが口論を始めた。

 どうしてこの男が大家の名前を知っているのか、そして、大家は一体どういう人物なのか、一瞬で溢れた沢山の疑問に胸がいっぱいで、ノーマンは何も言葉が出なくなっていた。

 全てを説明してほしくて、何から聞けばいいかわからなくて、大家をじっと見つめると、大家は深くため息をついてゆっくり瞬きをしてから、ぽつり。

 「・・・その檻の中の男も、わしの連れだ。」

 「ユージーン!それは!」

 大家の予想外の言葉に、警察がたじろぐ。

 「頼む。数少ないわしの頼み事だ。聞いておいて損はないぞ。」

 「・・・・わかったよ。」

 突然の大家の言葉に、警察もノーマンもイブも、誰もが驚いた。

 喜んだのは檻の中のランダだけだ。

 ノーマンは、(ランダを解放してくれ)という意味で大家を見つめたわけではないのだが、しかし今更、勘違いだから檻に入れておいてくれとは言いだせず、茫然と現状を見守った。

 「ありがとう、あんたたちは命の恩人だ!」

 解放されたランダは大家とノーマンの手を取ってぶんぶん振り回し、感謝を全身で表しているが、イブは不機嫌だ。

 「じゃあ、いくぞ」と大家が顎先で示した先に、大型のタクシーが停まっていた。 ランダはそのままどこか別の場所へ行くのかと思ったが、大人しく大家の言うとおりに付いてくるようだ。

 タクシーの目的地は、ノーマンが初日に寄ったアパートだ。



 タクシーでは、どこで誰が聞いているかわからないので、みんな終始無言だった。 アパートにつくと、早速、大家に説明を求められたので、これまでの経緯を包み隠さず、すべて話す事にした。

 経緯をランダに聞かれていいものかと悩んだが、大家もイブも、そして当のランダも気にしていなさそうなので、そのまま続けた。

 イブはソファの上で膝を抱えて座り、人気の少ない路地を、窓から寂しそうにじっと見つめている。

 「そうか。・・・大変だったな、ノーマン。」

 「いえ、拙僧は。・・・それより、大家さん、あなたは一体?」

 ノーマンは大家が入れてくれたお茶を両手で握ったまま、口をつける気にもなれず、大家の様子をうかがった。

 「わしは、元々、お前さんと同じ大道寺の留学生だったのよ。もう何十年も前になる。」

 「え、そうだったのですか?ではなぜ、NLCでアパートを?」

 「大道寺に帰らなかったのよ。」

 ずっとネムレスにいるんだ、と大家は小さく笑って見せた。

 うわさでは聞いていた。

 生死不明だけではなく、自主的に帰ってこない僧侶たちがいる。

 そして、NLCへの留学生が一番、帰ってくる確率が低い。

 みんな、大都会の毒に充てられて、俗世に染まり、仏道を忘れてしまったのだろうと嘲られていた。

 まさか、大家がそんな人物だとは、到底思えない。

 「へぇ、ユージーンはもともと僧侶だったんだな!」

 あっけらかんとしたランダの声が、ノーマンと大家の間に走り、ピリピリと張り詰めた空気が変わって、少し、ほっとした。

 「わしの事、知ってるんだな。」

 「もちろん。あんた、有名人だろ。情報屋の大御所だ。」

 「そんなたいそうなもんじゃないよ。」

 ランダと大家が何か会話を続けているが、もうノーマンの耳には入ってこない。 ああまさか、何のための留学か忘れて、親愛なる大道寺に帰らず、大都会の毒に染まってしまった僧侶だった?

 どんな理由があったにせよ、ノーマンはショックで堪らない。

 


 「ねぇ、もう話はおわったの!?」

 しんみり外を見ていたはずのイブが、いらだった様子で三人に叫ぶように声をかける。 その様子は、まるで駄々っ子だ。

 「ノーマン、話が終わったなら、行くわよ。」

 「・・どこへ、でしょうか?」

 「ショワンよ。エイダが・・・殺されたショワンへ行くわ。」




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