第13話
一時間ほど滞在しているが、年配の職員は見当たらない。
なんとなく、窓口の職員の視線が痛い。
職員の怪しむ視線など気にならないといった様子で、イブは周囲の人たちを、執拗に観察している。
もしかしたら、地下への入り口も探しているのかもしれない。
「あの、よろしいですか。」
ノーマンたちの背後から、そっと声をかける人物が現れる。
黒い服にカッチリした帽子の、この役所のセキュリティだ。
「あ、はい。何でしょう?」
「当役所に、どういったご用件でしょうか?」
「・・・人を、探しています。」
「はぁ。どちら様をお探しで?」
「・・・内緒です。」
「どういったご用件で?」
「プライベートなことですので。」
「よろしければ、奥でお話をお聞かせ願いますか?」
セキュリティの言葉が終わるや否や、イブはノーマンの腕を強くつかんで立ち上がると、役所の出口に向かって走りだした。
突然のことにノーマンは足がもつれて、うまく走れない。
「はやく!」イブの怒声もむなしく、出口に到着する前に、あっけなくセキュリティに確保されてしまった。
セキュリティに連れていかれた先は、最寄りの警察署だった。
長時間、何をするでもなく役所に滞在していたのは不振だったかもしれないが、まさか警察署に連行されるとは思ってもいなかった上に、目の前に厳重な檻の留置室がある一室に通された。
まるで、間もなくお前らもそこに入るんだぞ、と言われているようで、嫌な予感しかしない。
「ねぇ、ノーマン、やばいかな?」
部屋の外からチラチラこちらを監視している警察たちの様子に、イブは不安げに声をひそめてノーマンにすり寄る。
流石に国家権力に対しては、いつもの強気ではいられない様だ。
「大丈夫ですよ、何も悪いことはしていないんですから。」
とはいえ、慣れない街での急展開に困惑していない訳ではない。
だが、年端もいかない少女を安心させるために、笑って見せた。
「おい、もう出ていいぞ。」
突然、一人の警察が入ってきて、ぶっきらぼうに言い放つ。
最悪の状況を想像していた二人は、突然のことに唖然とした。
「なんだ、帰りたくないのか?お迎えが来ているぞ。」
不敵に笑う警察に、イブは慌てて立ち上がる。
「お迎えですか?」ノーマンは警察の言葉が気になった。
身寄りのないNLCで、一体だれが?ノーマンの迎えではなく、イブの迎えだろうか? イブをチラと見るが、イブは首を横に振っており、どうも心当たりがないようだ。
ノーマンとイブが顔を見合わせていると、警察の後ろから小柄な男性がひょっこり顔を出した。
「よう、わしだよ。ノーマン。」
「あ!あなたは。大家さん!」
そこには、初日にノーマンを受け入れてくれた大家がいた。
「警察から、大道寺の僧侶を保護したと連絡が来てな。」
「ああ・・・ありがとうございます。」
保護、という言葉に少し引っかかった。
エイダの件を考えるに、何か大きな力が働いているのではないかと想像していたのだが、ただ単純に、迷った留学生を保護した、という肩透かしな結果だったのか? 間違いなく檻に入れられるか、最悪の状況になると予想していたのに。
「まさか、ユージーンが保護者だとはな。」
「わしの大事な客人たちよ。悪くしないでおくれ。」
警察に名前で呼ばれ、和やかに談笑するほどに親しいらしい大家に、ノーマンは驚いた。 大家は警察に顔が利くのだろうか?
いずれにせよ、最悪の事態は免れたとほっと安堵していると、背後から男の叫び声が聞こえてきた。




