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J.NOMANの手記  作者: 祇膳
深奥
12/18

第12話

深奥

 


 「ジョン・ドゥって、300年前の市長?」

 「そう。NLC・・・このネムレスの最初の市長よ。」

 ノーマンは困惑した。

 大家に聞いた話では、ジョン・ドゥは現存資料が少なく、名称も定かではなく、本当に実在したかも疑わしい不透明な人物だった。

 「300年も・・・血縁が続いてきたという事ですか?」

 「そう。300年もの間、ずっと秘密裏に語り継いできたの。」

 「どうして、秘密裏に?」

 「・・・殺されてしまうから。」

 「誰に?」

 「わからないの!私たちがばかだった。ママとおばあちゃんは、私たちのせいで殺されてしまった。」

 イブが声をひそめる。 建物の隙間にはさまれたここならば、余程大きな声を出さなければ誰にも聞かれないだろう。

 「誰にも言ってはいけないと言われたのに、近所の人にうっかり話してしまったの。子孫だという事を。」

 「それで殺されてしまった・・・?」

 「ええ。話をした三日後にね。私とエイダも、誰かに追いかけられる日々が続いたわ。」

 「もしかして、それを相談するために、役所に?」

 「私は、役所の人間も怪しいと思っていたわ。なのに、あの子、エイダは・・・。」

 (一人で役所に相談しにいって、殺されてしまった。)

 ノーマンは言葉をぐっと飲み込んで、震えるイブの肩をぽんぽんと、優しくなぐさめるように無言で叩いた。

 「子孫の証しとして、受け継いできたものがあるの。」

 「証し、ですか。」

 「けどそれは、エイダが、持って行ってしまった。」

 「もしかして、エイダが拙僧に見せたかったものって。」

 「きっと、その証しでしょうね。」

 「それは、今どこに?」

 「無いわ、どこにも。」

 エイダはノーマンに見せるために証しを持ち出し、そのまま無残に殺されてしまったのだ。 誰かに持ち去られてしまったのか、その証しはエイダの遺品のどこにも見当たらなかったという。

 「あなたのことは、エイダから直接聞いていたの。」

 いつのまにか涙を流していたイブが、鼻をすすっている。

 「ガルボランの公園で、お坊さんと会う約束をした、と。きっと私たちを助けてくれる人だから、明日、一緒に会いに行こうと。」

 「しかし・・・エイダは。」

 「朝、目が覚めると、どこにもいなくて。・・・警察から連絡がきて、あとはニュースのとおりよ。」

 イブはすっと立ち上がると、涙を拭いて不器用な笑顔を見せた。

 「子孫の証しは、オルドに眠る財宝のカギだとも言われてる。」

 「財宝?」

 「混沌とした時代をまとめたジョン・ドゥの財宝よ。」 

 「まさか。眉唾でしょう。」

 「ひいおばあちゃんが、実際にその目で見たらしいのよ。」

 「まさか。」

 「財宝は、このオルドの役所の地下にある・・・らしいわ。」

 「・・・まさか。」

 「ひいおばあちゃんが、その目で見た時に、手引きした職員がいたらしいの。・・その人を探すわ。」


 オルドの役所は、公共施設のEVで上がった空中階層にある。

 空中階層は、地上と違い、自動車は乗り入れ禁止で、終日歩行者天国となっており、露店や出店が競うように集い、パラソルとベンチテーブルが設置され、人々の憩いの場となっている。

 ガルボランの役所も、大きく、立派だったが、なんというか、オルドの役所はホテルライクで洗練され、規模も比べ物にならない。

 きっとトイレのアメニティも、無駄に素晴らしいのだろう。

 イブは役所のロビーのふかふかしたソファに座ると、じっと真剣なまなざしで、周囲を見渡している。

 ぼろの袈裟をまとうノーマンは、おしゃれで清潔な様子に、ソワソワと落ち着かなかった。

 (托鉢は、乞食ともいう。物乞いだと思われないだろうか?)

 「ノーマン。大丈夫だから、おちついて。」

 心をよんだかのように、イブがノーマンをなだめる。

 ノーマンは、恥ずかしさを打ち消すように、イブに問いかけた。

 「手引きした職員をどうやって見つけたら良いのでしょうか。」

 「まず、年寄りを探すわ。」

 「お年寄りですか?」

 「ひいおばあちゃんの知り合いだもの、相当な高齢のはずよ。今も生きていれば・・・だけどね。」

 ぽつり零した最後の言葉が、なんとも心もとない。


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